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KICK THE CAN!

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KICK THE CAN!

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・空京駅2

「いっけぇーー!!」
 缶へ向かって走る玲奈が、パートナーのレーヴェ著 インフィニティー(れーう゛ぇちょ・いんふぃにてぃー)を思いっきり投げる。
 インフィニティーは空飛ぶ箒にまたがっており、玲奈に投げられた勢いも合わせ、あっという間に缶に到着……
「レーヴェ著 インフィニティー!」
 しなかった。
 がすぐに缶を踏める距離で、隠れ身を使用して息を殺していたからだ。
 もし彼女が缶の前に出て、インフィニティーとぶつかっていたならばそれは反則を取られていた。パートナーは武器ではないため、投げる事は問題ない。だが、参加者として扱われている以上、直接の接触はルールに抵触する。
 そうしなかったのは、彼女の目線の先にあった。
「如月 玲奈!」
 100メートル圏内に入っていたため、彼女も発見されていた。
 さらに、
「高里 翼!」
 罠解除を図りに接近していたもまた、捕まってしまう。
 ちょうど缶を踏んだ状態なため、近くまで来ている者達も迂闊に近付けない。明が缶から離れるのを待つ必要があった。
 問題なのは、他の守備側が今どこにいるかである。100メートル圏内だからといって、油断は出来ない。タッチされる心配こそないが、顔を見られて連絡されたら一気に不利になる。

            * * *

 ぺデストリアンデッキ上。
「見つけマシタ!」
 ジョセフに発見されたのはリュースだった。しかし、ツァンダーの仮面のために正体はバレていない。
 他のエリアにも偽ツァンダーがいるとは、この時点では守備側はまだ知らない。
「蒼い空からやってきて、月に向かって缶を蹴る者! 仮面ツァンダーソークー1!」
 リュースはそう叫び、全力で走り出す。本人だと思わせるのと、攻撃側の時間稼ぎのためだ。
 だがその時、
「!!?」
 虫の群れ、それらが彼に迫って来た。毒虫の群れの効果か?
「か……おっと、違いマスネ」
 その間に仮面を引っぺがすジョセフ。顔を確かめ、堂々とタッチして名前を叫ぶ。
「リュース・ティアーレ!」
 声とともに我にかえるリュース。
 彼が見ていた虫の群れは幻覚だった。その身を蝕む妄執によるものだ。どうやらこのゲームの要となる技は、これのようである。
 ジョセフはすぐに、近くにいるはずもう一人の人間を捕まえに行く。
 ゴーストに尾行させていたために、居場所はすぐに判明する。
「いかにも怪しいデスネ」
 怪しげな占い師に扮した終夏を捕まえようとする。だが、相手は微動だにしない。
 強引に仮面を剥がすという手段もある。ただ、ここは駅だ。一般人という可能性もある。缶蹴りのために張られている人払い結界も完璧ではない。なお、ルール説明時の結界に人払い効果まで含まれていることを参加者は知らない。
「はあ……」
 仮面の占い師は溜息をつく。
「わらわのような者はこの町を歩くなと申すか!」
 何か怒ってもいるようだ。
「イエ……今、缶蹴りなるものの最中でシテ」
「まったく……この静かな夜に、そんな事をされては商売あがったりじゃ!」
 とはいえ、元々この時間は商売するにも相手がいるわけではないが。
「せめてお顔を拝見させて下さレバ……」
「ほう? わらわの仮面を剥ぐと申すか。まったく近頃の若い奴は……ああ、分かった分かった。自分で剥がそう。この仮面には呪いがしてあっての……わらわ以外が剥がそうとすると、化け物を召喚してしまうようになっているんじゃよ……ちと待て」
 左手に持ったティーカップパンダをジョセフに手渡し、空いたその手で仮面を外し……かけたところで一気に駆け出した。
「しまっタ!」
 すぐに追いかける。だが、終夏はもう100メートル圏内に入っていた。
「こらー、まてー!」
 圏内に姿を隠していた明が、彼女を抑えんとする。顔が分からなければ缶を踏む事もままならない。
 その時である。

 カーン!

(え!?)
 缶の周りにかけた禁猟区にも、ここまで来る間の殺気看破でも缶の近くの気配は感じなかった。
(かかったな!)
 缶を蹴りあげたのは、雪華である。ただし、彼女が蹴ったのは本物ではない。自分で用意した空き缶だったのだ。
 これもまたルールの盲点の一つだ。守備側はダミーの缶を用意して誤魔化す事は出来ないが、攻撃側が空き缶を道具として使ってはならないとは言われていない。
 言うなれば、缶を蹴られたと思わせて注意を引くための手段だ。
 その隙に彼女は本物の缶めがけてダッシュする。
「甘い……ですよ」
 だが缶にはもう美央の姿があった。上空でジャックを捕えてすぐ、砂時計の効果が切れる前に缶を踏める位置まで距離を詰めていたのだ。
 あとは、誰かが駆けてきたら軽身功で缶まで跳べばいい。
「桜井 雪華!」
 ただ、もう一人いる。
「行かせないよ!」
 明が鬼眼で一瞬だけ終夏を怯ませる、その隙に仮面を剥ぐ。
「五月葉 終夏!」
 これでまた缶を守る事に成功した。
「いやー、いい連携だね」
 終夏が、あははと笑っている。悔いはなさそうだ。
 攻撃側の人間も残り少なくなっていた。

            * * *

(うーん、どうしよ……)
 これまでの様子を、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は静かに観察していたち。と、いうよりはタイミングが掴めないでいた。
 周りを見る。すると、動く段ボール箱の姿があった。中にはおそらく攻撃側の誰かがいるのだろう。
 次に、守備側の配置を見る。目が慣れているとはいえ、街灯の明かりがないために分かりにくい。ただ、100メートル圏外に二人いるのは確実らしかった。
(ならばやる事は……)
 決心するや否や、ミルディアは勢いよく駆け出した。
「うのーーー!!!」
 声を上げての全力疾走。これに守備が気付かないはずはなかった。
「今度はそっちですカ!」
 ジョセフが彼女を向き、その身を蝕む妄執を使おうとする。そこで違和感に気付く。
(な、ど、どれが本物デスカ?)
 ジョセフには走るミルディアが複数いて、四方から缶を狙って見えているようだ。
(今だ!)
 ショウがバーストダッシュで缶を狙う。ジョセフに対してその身を蝕む妄執で先手を取ったのは彼だ。
 しかし、彼の目の前には美央が立ちはだかっている。缶を踏みに行くのは明だ。
「この距離だとタッチは無効ですけど、マスクは外してもらいましょうか」
 ショウとパートナーのガッシュは二人とも覆面だった。ショウは虎のプロレスマスクに黒タイツ、ガッシュは般若だ。
 ガッシュは咄嗟に小人の小鞄から小人を出し、守備側の動きを封じようとする。しかし、美央が先の先で先手を取っていたために不発に終わった。
 そのままマスクを剥ごうとする。
「正体がばれるわけには……」
 この言葉が合図だった。
 上空からラグナが閃光弾を投下する。
 地面にぶつかり、爆ぜる。
 閃光弾の光源は光術だ。さらに、トラップなので仕掛ける際に缶まで走る時間もある程度考慮した発光時間になる。
 
 トラップ発動。

「うわああああ!!」
 恐るべき事態が起こった。
 閃光弾の発光地点に向かって、大量の毒虫の群れがぶわっと湧き上がった。
 虫そのものは毒蛾の餌が駅周辺に撒かれていたため、暗がりの中に集まってはいたのだ。今度は幻覚などではない、本当の虫の群れだ。
 その間に、
「なんか騒がしいねぇ」
 駅構内から弥十郎が出てきた。
 それも、缶から10メートルくらいの位置に。
(え、いつの間に?)
 缶を踏みに戻る途中の明は、目を見開く。禁猟区がなぜその距離まで反応しなかったのか。
 その理由は、
「あれってお酒の缶かなぁ〜?」
 若干千鳥足、顔を赤くしている。酔った状態である。缶を蹴る、という意図を感じさせないほどだった。
「おっと、と……」
 ふらつきのあまり転倒、その勢いで缶を倒してしまう。
「ういー、飲み過ぎたー」
 演技では禁猟区に引っかかるため、本当に酔った状態で参加したのだった。目的を達し、ポケットから前もって調合していた薬を取り出す。半ば本能的な行動だったのだろう。
「あれ、缶が倒れてる?」
 正気に戻り、目の前の缶を見る。ただ、倒れているのは自分も同じだった。
「えーっと、確か缶が倒されたらタッチもありなんだよね?」 
 ぽん、と明が弥十郎の背を叩く。
「佐々木 弥十郎!」
 彼は虚をつかれたような顔をしていた。
「え、缶を倒したらいいんじゃないの!?」
 と、ミルディア。
 その時、他のエリアの攻撃側から全体連絡が入る。缶を倒しても油断するな、という事だった。なお、空京駅の缶が倒れたのは、空京フォーラムの少し後くらいだった。100メートル圏内の攻防のせいで他のエリアがクリアされたことを聞き逃していたのである。
 それからの守備側の行動は早かった。
「ハハハ、まだ終わりじゃありまセン!」
 即座にその身を蝕む妄執によって、幻覚を見せる。その相手はショウだ。
「葉月 ショウ!」
 続いて、美央がガッシュのマスクを剥ぐ。
「ガッシュ・エルフィード!」
 さらに、
「落ちてもらいマス」
 奈落の鉄鎖で上空のラグナを地上に近付ける。パンダのマスクを被ってこそいたが、もう正体はほとんど分かっていた。
 美央が跳躍してマスクを取り、タッチする。
「ラグナ・ウインドリィ!」
 そして最後の一人となる。
「逃がさないよ」
 明によって、ミルディアもまた捕まる。
「ミルディア・ディスティン!」
 これで空京駅の戦いは終結した。

エリア5:空京駅――攻撃成功
      現時点で捕まっていない者:無