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リアクション
第2章
歩道を行くむきプリ君達を尾けながら、藤原 雅人(ふじわら・まさと)は呟いた。
「あれは本当にむきエビか? 何か、話に聞いてたのと違うな。女どもの荷物持ちをさせられている可哀相なマッチョに見えるが」
「あれですね。間違いありません。可哀相なマッチョという点には同意しますが」
ローゼ・ローランド(ろーぜ・ろーらんど)が答えると、雅人は見下すような視線をむきプリ君に送る。
「ホレグスリね……くだらないな。そのような薬に頼ろうするなんて、いかにも下賎な人間の考えそうなことだ。このままむきエビの後を追って捕縛し、校長に突き出すことにしよう」
「雅人さま……」
ローゼはびっくりして、更に感動して微笑した。
「薬の製造を防止しようとされているのですね。一瞬でも、ホレグスリを使って何かよからぬことを企んでいるのでは? と疑った自分が恥ずかしいです」
「当然だ。僕がそんな卑怯な人間に見えるか?」
「見えます」
はっきりと答えたローゼに雅人はずっこける。
「そ、そうか……お、むきエビがホテルに入ったぞ」
「ホテルに入ったら捕縛は難しいですよ? フロントが部屋ナンバーを教えてくれるとは思えませんから」
「大丈夫、問題無い。これも作戦の内だからな」
雅人はそう言ってホテルの中を伺った。ガラスに張り付いてむきプリ君達を凝視する様は、こちらの方が不審者のようだが。
「エレベーターに乗ったぞ……何階だ?」
「雅人様……もう、しばらく尾けまわしていますが、いつ捕縛に踏み切るおつもりですか? それと、むきエビではなくて、むきプリです。むきプリ。何ですかむきエビって。何が由来ですかむきエビって。プリプリのエビは最高とかそういうことですか」
「お、4階だな……ふふふ、部屋に入ったら袋の鼠だ……まぁ、しかし、現存しているホレグスリの何本かは報酬代わりに受け取ってもいいよな」
「はい?」
最後の言葉に、ローゼは怪訝な顔をする。その彼女の変化には気付かず、雅人は続ける。
「その薬は、僕のことを馬鹿にした女どもにぶっかけてやるんだ。あんなことやこんなことをさせて…………」
何を想像しているのかと思うと、ローゼは頭が痛くなってきた。
「正気に戻った時の屈辱に歪んだ顔を見て、笑ってやるんだよ。もちろん、一部始終はビデオで撮影して、僕の秘蔵コレクションに加えておこう。今から愉快だ、笑いが止まらないよ。あーははははっ」
「…………前言は撤回することにして、やっぱりそういうことですか。まぁ、その方が雅人様らしいといえばらしいですけど。あと、馬鹿にしたとか言ってますけど多分それ雅人様の自業自得ですよね。それと、むきプリは追いかけなくていいんですか。まさか、4階の部屋を1つ1つ訪ねるつもりとかじゃないですよね」
ローゼが言うと、雅人は少し考えるように黙った後、言った。
「そんなことをしなくても、むきエビはそのうち出てくるだろう。ホレグスリで仲間を得るとか言ってたんだから」
「……これまでの行動が全て無駄になる発言、ありがとうございます」
その時、ローゼの額にぽつっと水滴が落ちてきた。雨かと思って見上げると、そこでは――
むきプリ君が箒に乗ってホレグスリを振りまいていた。縦横無尽に飛び回り、更にそれが高所だった為、薬は風に煽られ拡散していく。
「さあ、皆の者、俺の仲間になるがいい! 研究所が出来た暁には、重役の椅子が待っているぞ!」
なんだなんだと立ち止まる通行人達。事情を知らない彼等は身体に掛かった薬をうっかり摂取し、早くも、上空に熱っぽい視線を送っている。
珍しく、むきプリ君の作戦が成功へと向かっていた。
「あいつは、遊園地にいた……てことは、これは……」
「あら? なにかしらこれ、研究所……?」
霧島 玖朔(きりしま・くざく)がむきプリ君と自らに掛かったホレグスリを見比べていた頃、彼の隣の水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)はその液体を口に運んでいた。腕に付いた薬を指で掬い取り、ぺろりと舐める。
「霧島さん、これ、あまり味が無いわ……でも不思議な感じ。やみつきになりそうな……霧島さん……?」
睡蓮は玖朔の腕を取って体を寄せると、ぴったりと密着した。
(なんだか変な気分……。いつもより霧島さんの近くにいたいような、ううん、それ以上……)
デートするだけじゃ、全然物足りない……。
「ん? どうした水無月。大丈夫か?」
「私……! 少し気分が悪いわ。路地裏へ行かない?」
街中で行為に及ぶのは色んな意味で憚られる。それだけの理性はかろうじて残っていたが、それでも我慢できずに足を絡める。黒いチャイナドレスのスリットから、白いふとももが露になる。
(こ、これは……!)
睡蓮が芦原明倫館に転校して、初めてのデート。わざわざ出向いてくれた彼女をリードして、今日は健全な1日にしようと思い、事実順調でもあった訳だが。
まあこうなってしまっては、致し方あるまい。
「そうだな。ここは落ち着かない」
睡蓮の肩を抱いて路地裏に移動する。鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が付いてきているが、いつものことだし、それはまあ気にしないでおこう。
一方、むきプリ君は――
「ついに俺の時代がやってきたのだ! 校長が何だ! エリザベートが何だ! 我らの前にルールも権力も無用なのだ!」
無駄に大げさな台詞を並べ立て、すっかり悦に入っていた。それを、被害者達が陶酔した瞳で涙さえ浮かべて聞き入っている。
「ホレグスリ万歳!」
「「「「「「ホレグスリ万歳!」」」」」」
その時――
聴衆の頭上を、猛スピードでむきプリ君に迫る少女がいた。左手で空飛ぶ箒を支え、右手に大鎌を持ったレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は、筋肉の壁にそのまま突進する。
「ぬおっ……!」
「ムッキー!」
(自分の)命の危機を一早く察したぷりりー君が、ホテルの窓から箒で飛び出す。
レイナは、バランスを崩したむきプリ君の首を目掛けて大鎌を振り上げた。避ける暇も無く、その刃は彼の首の肉を裂く。
ごぽっ……
首と口から大量の血液が舞い、それとほぼ同時にぷりりー君が血管をイメージしてヒールをかける。心臓への血液の供給ルートを確保したところで、続けて何度かヒールした。
だが、力無くむきプリ君は墜落し、派手な音と共に、持っていたホレグスリの瓶が散らばる。
「やった! これでもくらえ!」
その瓶を1つ拾い、ついでに火術を仕掛けたのは雅人だった。アフロになったむきプリ君に、雅人は言う。
「年貢の納め時だなむきエビ! さっさとお縄に……ごぶっ!」
そこで、ローゼが隠し持っていたバットで雅人を強打した。とりあえず呆れに呆れたからだ。
「全く、どうしてこうヘタレで卑怯で馬鹿なのでしょう……。私を助けてくれた、心優しい面もあるというのに……………………あら!? 雅人様、どうしました!? 暴漢にでも襲われましたか!? そうですか、あの筋肉に……」
そうしてローゼは、ばればれの芝居をしつつ、雅人を引っ張って帰っていく。
「「むきエビ……?」」
残ったのは、その謎の言葉に対する疑問だった。むきプリ君が息も絶え絶えに、ぷりりー君が心底訳分からんという声を出す。
「むきプリさん……」
レイナは着地すると、恐れ戦く聴衆の中央で冷徹な瞳をむきプリ君に向けた。血に濡れた大鎌を構える様は、まさしく死神そのものだ。転がっているホレグスリの瓶を踏み潰し、ガラス片を撒き散らしながらレイナは言う。
「ふふふ……まだこんなもの作ってたなんて……懲りない人みたいですね? 前回も甚振られたらしいですが……今回は死ぬ寸前まで行って見ましょうか?」
「いや、もうさっき死にかけたから……」
「あなたは黙ってなさい」
「はい……」
ぷりりー君は素直に引き下がった。なにこれこの子、まじ怖いよ!
レイナは、以前の遊園地でのホレグスリ騒動に巻き込まれ、純潔をある人に奪われていた。公衆の面前であったこともあり、彼女の羞恥はかなりのものだったのだ。そのため今回の件は、静かに復讐心を抱いていた彼女の裏人格スイッチを容易く押した。未だにホレグスリを作っていたむきプリ君へと怒りの矛先を向けた状態でプッツンしている。
むきプリ君を徹底的に痛めつけないと、レイナは元には戻らないだろう。
むきプリ君は、両手足を使って、路地裏に逃げようとした。少女の圧倒的な存在感の前に、むきプリ君親衛隊となりかけていた通行人も遠巻きにして助けようとしない。
その背中を、レイナは大鎌で斬りつけた。
ぶしゅーーーーーーーーーーっ!
「う、うわあああああああ!」
赤黒い噴水を目にして、皆が一斉に逃げていく。
「安心してください。殺しはしません。ああ、先程は手元が狂ってしまったのです。申し訳ありませんでした」
口元に笑みを浮かべ表情豊かに、レイナは言う。
「プリーストで良かったですね? ヒールがあればいくらでも傷つけ……いえ、回数制限がありましたね。あれからレベルは上がりましたか?」
「た、助け……」
必死の思いで路地裏の奥へ向かうむきプリ君。そこでは、睡蓮と玖朔がちょうどいろいろやっている所だった。
「……人が殺されかけている時に見せつけてくれるじゃないか……! 許せん!」
むきプリ君は怒りを糧に立ち上がり、2人に襲いかかろうとした。その彼の前に、九頭切丸が立ちはだかる。
「…………」
何も言わないまでも、その体躯からは確かな迫力が感じられる。しかし、むきプリ君も負けてはいない。鍛え上げた(最近ちょっと鈍った)自慢の右腕を振り上げ――
ぶしゅーーーーーーーーーーっ!
九頭切丸の高周波ブレードによるソニックブレードを食らって頭の先から○○の先まで一直線に血を噴き出す。
声も無く気絶するむきプリ君を、九頭切丸は路地裏から蹴り出した。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら、という所だろうか。
「…………」
直ぐに警察が駆けつけてきてKEEPOUTのテープを張り巡らしそうな現場を見て、レイナの顔から表情が消えた。殺気も影をひそめ、大鎌を持つ自分の手を不思議そうに眺める。
「これは、死体ですね。一体、何が……」
そうして首を傾げながら、人混みへと消えていく。彼女の中に、先程までの記憶は一切残っていない。
「ム、ムッキー!」
ぷりりー君が慌てて駆け寄ってきて、ヒールをかけ始めた。しかし彼の残りのSPでは、むきプリ君を助けるには足りないだろう。
「終わりましたか〜?」
そこに、明日香がふよふよと降りてきた。ホテルの窓から事態を見詰め、収束した頃合になって出てきたらしい。
「ヒールなら、いくらでもしてあげますよ〜」
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