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空賊よ、パパと踊れ−フリューネサイドストーリー−

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空賊よ、パパと踊れ−フリューネサイドストーリー−
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第2章 Yesterday was Dramatic - Today is OK(1/4)



 パパの会社は『むすめカンパニー』と言う。
 もともとフリューネグッズの取り扱いを行うかなりトんでる会社だったのだが、フリューネ景気の到来と共に業績が爆発。前年度の30倍以上の利益を上げ、パパは今年最も金に祝福された男として空京タイム誌の表紙を飾った事もある。
 少し遅めのランチの時間、会社近くのオープンカフェにパパと生徒たちの姿があった。
「……随分とお怪我をされてますが、何かあったのですかな?」
 バンソーコーだらけのパパに、生徒のひとり、道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が尋ねた。
「昨日、レストランで生徒さんとやりあってね。生意気な口を利くもんだから、前歯を2本へし折ってやったよ」
 気障に足を組み替え、パパは自慢げに言った。
「それは勇ましい事ですな。貴方の怪我は大した事はなかったのですか?」
「肋骨5本に、捻挫と打ち身が2、3カ所……。実は今も痛み止めを打ってるんだ。なんか最近の子ってさぁ……、加減ってものを知らないよね、基本的に。ほんともう殺されるかと思ったよ……」
「それはそれは……」
 ポリポリと頬を掻き、玲は本題に移った。
「……話を聞いて思ったのですが、貴方の愛はちゃんとフリューネさんに伝わってないのかもしれません」
「あ、そう思う? なんかねー、パパも薄々そんな気はしてたんだよねー」
 はぁーと盛大にため息を吐くパパ。
 玲は給仕係よりも丁寧な所作で、パパの空いたグラスに冷たい紅茶を注いだ。
「今更、貴方の声を彼女に届けるのは難しそうですが……、宜しければそれがし達が彼女にお伝えします」
「ほ、本当かい?」
「ええ、それぐらいならお役に立てるはず。貴方の愛がひと目で伝わるようなエピソードはありませんかな。例えば、彼女が子どもの頃のエピソードとか……」
 そう言うと、パパは得意げに語り始めた。
「子どもの頃……、そう、今でこそしっかり者だが、昔のフリューネは恐がりの甘えん坊だったんだよね。庭を虫が跳ねてると『パパー、むしー! こわいのー!』なんて言って、パパの手をぎゅっと握ってきちゃって……、まあ、そんな可愛いお子様だったから、フリューネに色目を使うクソガキが後を絶たなくてね、パパは丁寧に何故フリューネに色目を使ってはいけないかを彼らに説いたものさ。努力のかいあって、学校には泣いたり笑ったりできなくなった男子生徒が増えたよ。どうだい、まさに愛がなせる素敵なエピソードだろう?」
「……ふむ、なるほど」
 噂通りの狂人だ、と納得した。
 しかし、きっと理由がある。彼が商売の道を歩んだのは、己に騎士の才覚の限界を感じたため。自らがサポートに回って、騎士として邁進する娘を支えるためだったのではないか……、と勝手に玲は思い込んでいた。
「……それほど守られていた彼女がよく立派な騎士になれたものですな」
「きっとパパが愛する人を守る事の素晴らしさを見せ続けたおかげさ。パパの愛が伝わって誰かを守れる人間になりたいと思ったんだろうね。愛は受け継がれていくものだよ」
「では、騎士としてのフリューネさんを認めていない……、と言う事はないんですね?」
 玲のパートナーのレオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)がポツリと呟いた。
 しきりに手帳にペンを滑らせ、彼女はパパの言葉をメモしている。
「娘のしたい事は応援するつもりだけど……、本音を言えば家業を継ぐのはやめて欲しいな」
「どうしてです?」
「辛いわりに金にならないからね。そりゃ重宝された時代もあって、我が家は名家と呼ばれてるわけど、今の時代にはそぐわない。没落する前に方向転換しようとしたら、バーさんがブチキレて、パパはこの有様だからねぇ……」
 玲とレオポルディナは顔を見合わせた。
「……どうやら、そもそも騎士に興味はないようですな」
「私たちの思い違いだったみたいですね……」
「いいじゃないか、騎士に興味がなくても!」
 突然かつ唐突に鬼院 尋人(きいん・ひろと)は叫んだ。
「大事なのは『愛』だよ。家族は愛情だ、愛さえあればラブイズオッケーって、テレビで言ってたもの!」
「き、君……、すごく良い事を言うじゃないか。な、何か食べるかい。ミックスピザを注文してあげよう」
「ありがとうございます、パパゲーノさん。出来れば、ピザよりクラブハウスサンドを」
 店員を呼ぶパパを尻目に、尋人は話を続けた。
「……オレはね、親子ゲンカができるなんて、それだけでもうらやましいんだ」
 勿論、尋人にも父親はいる。パラミタでの生活資金を出してるのは父だ。だが、それ以上のものは与えられない。実家では兄弟が家督を巡って争っている。家督争いから弾かれた尋人は、パラミタに厄介払いされたのだ。
「パパゲーノさんの溢れる愛情……、フリューネさんがとても贅沢に見えます」
「聞いたかい、君達?」
「ええまぁ……、聞いてますよ」
 興奮するパパを、玲とレオポルディナは呆れた顔で見つめた。
「愛情をたくさん受けて、その上エネフまでいて……。エネフがいるという事は、皆さんが素晴らしい家族だからなんですよ。パパゲーノさん、あなたは素晴らしいお父さんです。いつかフリューネさんもエネフもわかってくれます」
「そ、そうかい。ありがとう」
 なんで家で飼ってるペガサスの名前をしきりに出すんだろうと首を捻りつつ、パパは握手を交わした。
「ところで、エネフのお父さんはどこにいるんですか?」
「パパはちょっとそういうのは……。ペットショップにでも問い合わせようか?」
「はぁ!?」
 ほんわかムードから一転、狂気を秘めた目でパパを見た。
「エネフのお父さんがわからない……!? そんな、エネフの事で知らない事があるなんて……、それでもフリューネさんのお父さんなんですか!? エネフの事をもっと知って理解してあげてください!!」
「な、なんで!?」


 ◇◇◇


「それぐらいにしたまえ。店の迷惑になるから」
 アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は暴走する尋人をどうどうとなだめた。
 それから、珈琲を飲んで一息吐くと、パパに話し始めた。
「……批判もされているようだが、お父君の考えはそうおかしいものだとは俺も思えない」
「そ、そうだろう?」
 パパはうんうんと頷いた。
「地球の貴族は先祖伝来の家屋敷を守るため、事業を興しているものが殆ど、伝統を守るのにも、先立つものがあってこそ、と言うのは常識だ。現在を見ず、誇りや伝統を言い立てるのは愚劣としか言えまい」
 彼の堂々とした物言いに、パパはちょっと感動した。
「君、ちょっとうちのバーさんにもその調子で言ってやってくれないか……?」
 しかし、アルツールの反応は冷たかった。
「ただ、お父君にも問題がある」
「な……、パパのどこに問題があると言うのだね!」
「例えば、娘がへそ出し下着丸出しの破廉恥な格好で外をうろついているのに、それを咎めたという話は聞かん。更にもうひとつ言おう。空賊を狩る為と空賊になると言う暴挙……、これは父親なら断固として止めるべきだ。騎士の家柄を称するならツァンダ軍へ入って取り締まれ、と勧めることもできたはずではないか?」
 むむむ……と唸るパパにアルツールは続けた。
「この地域ではそのファッションと空賊になる事が年頃の娘達に流行して、一時期社会問題にまでなったそうではないですか! もしうちの娘達まで真似するようになったら、どう責任とってくれるのだ!」
 娘を持つ父としては由々しき問題だったようである。
 勢いにまかせドンとテーブルを叩くと、パパも負けじと叩き返した。
「真似すればいいじゃない! みんな、フリューネの真似すればいいじゃない!」
 バチバチと火花を散らすが、年下のアルツールのほうが大人だった。
「……失礼、まぁ要するに家を守る為金を稼ぐのは至極当然。そして、武門の伝統も疎かにはしていない所を示せば良いのではないですかな。その上で、父親として言うべきことはしっかり言う、と」
 そう言って、パチンと指を鳴らした。
「前置きが長くなったが、騎士としてのお父君を示す為に相応しいゲストをお呼びしてある。シグルズ様、どうぞ!」
 呼ばれて、アルツールのパートナーであるシグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)がテーブルにやってきた。
 かつてはジークフリードの名でも伝説に名を残した。筋骨隆々の立派な騎士だ。
「ただいまご紹介に与りましたシグルズと申す」
「はぁ……、これはどうも」
 パパの表情はどことなく引きつっていた。天性の勘でこれから起こる事に薄々気が付いたのかもしれない。
「お父君には、これより私と戦っていただく」
 つまりはシグルズを倒し、騎士としてのパパを知らしめよ、と言う事らしい。
「パパはその、インテリ系男子なんでそういうスマートじゃない事ちょっと……」
「なに、パパゲーノ殿とて武門の者、察するに昔は相当鍛えられたのではないですかな。先日も広場のレストランで大立ち回りを繰り広げたと聞いておりますよ。さあ、見事私を倒し、武門の血を存分に示されよ!」
「いいよ。パパ、そういう汗臭いの嫌いだから」
「私を倒したとなれば地球人、特に北欧人相手ならちょっとした自慢にもなりますぞ?」
「いいって、会う事なさそうだし」
「謙遜は美徳ではありませんよ。噂の空賊のお父君の力量に興味がありますゆえ、全力で打ち込んで来て結構!」
「だ、だから……」
 言い訳は馬に念仏、強引に決闘をする流れに持ち込まれた。
 しかし、試合はものの数秒で終わった。シグルズの一撃をモロに受け、パパは豪快に通りに転がったのだ。
「パ……、パパゲーノ殿!?」
 シグルズが近寄ると、パパは青ざめた顔で呟いた。
「腕が折れた……」
 左腕が完全に関節の存在を無視していた。
 明らかにレストランと違うと読者諸兄も気付いたと思う。しかし、筆者が手を抜いて決闘シーンを片付けたわけではない。彼の戦闘力はフリューネの関わり具合で変化する。関わっていれば修羅だが、でないと戦闘力5のゴミだ。
「救急車……、救急車呼んで……」