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リアクション
2.懇親会は続きます
ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)にはパートナーが六人もいるらしい。
「ペットのつもりで拾ったり、突っかかってくるから凹ましてやったら姐御とか呼んできたり、戦災孤児の一人として引き取ったり、荒野を歩いていたらいきなり地祇に見込まれたり、いろいろあったわね」
と、ヴェルチェ。あまり年の変わらない彼女に、トレルは嫉妬してしまう。彼女には六人ものパートナーがいるのに、なぜ自分にはいないのだ?
「クリス、ちょっとこっちにいらっしゃい」
と、ヴェルチェはパートナーの一人クリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)へ手招きをする。
「トレル嬢が出逢いについて知りたがってるの、話してあげて」
事情を飲み込んだクリスティは、優しく笑うと口を開いた。
「わたくしがヴェルチェ様と出会った……いえ、闇よりも昏く深い絶望から救って下さったのは、3度目の夫と死によって別たれてから数百年を経た昨年の冬でした」
トレルは素直に話へ耳を傾ける。
「すでに廃墟と化したある街の一角で、わたくしは冷たい棺に横たわっていたのです。ヴェルチェ様は、何かお金になるものと思って棺を開けたと仰られていますけれど、わたくしにはこの出会いこそが何にも増して価値ある宝だと信じております」
棺か……そういった場所へ行って開ければ、彼女のように出てくるのだろうか?
「目覚めてからしばらくは実感がありませんでしたけれど、ヴェルチェ様と……その、夜を共にするうちに、自然と契約が結ばれておりましたの」
と、クリスティ。
「契約が完了した時には、ヴェルチェ様とわたくし、互いの意識が交じり合うような、不思議な感覚を覚えましたわ」
自然に行われる契約、というのも魅力的だ。しかし、まずは相手を探さなければ。
トレルがそう思っていると、ヴェルチェが言った。
「すぐに契約したいなら、通信パートナー契約っていうのも手よ」
「それって、怪しい奴だよね?」
名前だけは知っていたトレルは、思わずそう聞き返す。
「そんなことないわよ。ダイジョウブ、安心と信頼の優良サイトだから!」
と、何故か自信満々にヴェルチェ。
「……か、考えとくよ」
何だか騙されている気がするが、後でそのサイトを覗くぐらいはしようと思うトレルだった。はっきりと口に出さないのは、離れた所から園井に監視されているためである。
しかし、後にお嬢様は騙されかけていたことに気が付く。
「別に、運命とか交際とか、大袈裟に考えることないんですよ」
と、湯上凶司(ゆがみ・きょうじ)は言う。
「パラミタには契約したい人間は溢れています。このようなサイトだってありますよ」
ハンドコンピューターを操作して、出てきた画面をトレルへ見せる。
それはヴェルチェの言っていた、通信パートナー契約サイトそのものだった。
「プロフィールはデタラメだらけですけどね。そこまでして彼らは契約したいわけです」
ずらりと並ぶプロフィール。その写真はどれもわざとらしいイケメンや美女ばかりだ。
「うわ、すげーなぁ」
と、トレルはそれに目を奪われる。――このサイト、もしかすると面白いんじゃないか? 違う意味で。
「このサイトもまだ序の口ですよ。中には奴隷市場みたいなのもある。……お嬢様が欲しいなら、『買う』事だってできるでしょう」
凶司の言葉を右から左へ聞き流しながら、トレルは言う。
「でもさ、こいつらって実際に会えるの?」
その問いにはセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)が答える。
「どうでしょうね。ただ、契約して奴隷のように扱われる人もいるわ」
「へぇ、かわいそう」
「そんな連中に引き取られるくらいなら、買うのも悪くないんじゃない?」
画面に見入るトレルの耳に、ふと聞き覚えのある声がした。
「軽い気持ちで契約すると、痛い目に遭いますよ」
と、パソコンの画面を手で塞ぐ本郷涼介(ほんごう・りょうすけ)。
「あ、真面目そうな人だ」
「本郷涼介です」
凶司とセラフが口を閉じ、様子を窺う。
「契約が一度成立してしまうと、その契約は『死が二人を別つまで有効である』んです。つまり、簡単に契約解除は出来ないということ」
「だろうね。で、片っぽ死んだら?」
「その場合、精神に深いダメージを受け、最悪死に至ります。そのようなサイトを通じて契約するのは危険です」
トレルはすぐに「だよねー」と、頷いてみせる。
「契約者になるというのは、それだけの覚悟と責任がないと出来ないことなんですよ」
分かりやすくまとめてくれた涼介に、凶司はこれ以上話すのはやめにしようと思う。
「っつわけで、無理だわー。買うのなんて馬鹿らしいと思ってたし」
トレルがそう言って凶司の方を向くと、彼は「そうですね」と、頷いた。
「それと、契約者の力は一般人に比べて大きいんですよ。例えるなら、一騎当千の将と同じと思っても過言ではありません」
素直に納得しかけて、トレルははっと気づく。――自分が立派な魔法使いになるのにも、契約は必要不可欠なのか!
すると、涼介は携帯電話を取り出した。
「私でよろしければ、友達になりませんか?」
またか――トレルは戸惑いつつも、携帯電話を手にとった。
「うん、真面目そうだから良いよ」
トレルお嬢様はあんまり素直じゃない。けれどもそれは、相手に心を許していることの裏返しでもある。
契約というのも良いことばかりではない。
「私がソールと会ったのは、日本での話です」
と、本郷翔(ほんごう・かける)は話しはじめる。
「私の父がお仕えする方の購入された器が、女子供好きでハーレム作りが酷過ぎるとしてソールを封じていた封具でして、それに私が触れた結果、封印が解けて、いきなり襲われそうになったんです」
聞いただけでも性格が悪そうな相手だと思う。
「気づいたら、封具の器で殴りつけて気絶はさせたのですけど、それが理由で契約が出来てしまっていたのです」
と、溜め息をつく翔。
「それからというもの、しっかり封印してあげようとしているのですけど、上手くいかずに、時には手を借りる必要性まで出る始末。パートナー契約は良いことばかりなイメージでしょうけど、時には、トラウマの仇敵と常に行動しなければいけない可能性もあるのです」
「それは、なんつーか、大変だね」
「はい。ですので、くれぐれも契約する際は後先を考えてするようにして下さいね」
やはり執事を目指しているだけあって、しっかりしている。
「はい」
思わずそう答えてしまうトレルだった。
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