リアクション
◇ ◇ ◇ 「パラミタで地震とは、実に奇妙な、面白い現象ではないかね!」 ケイオス・スペリオール(けいおす・すぺりおーる)が、派手に手を振るオーバーアクションと共にそう言った。 パラミタは浮遊大陸だ。 ケイオスは長く生きているが、自然活動による地震に遭遇したことは一度も無い。 シャンバラの中央とも言える場所には、火山があり、今もマグマを噴き出しているが、これは地殻変動によるものではなく、5千年前の悲劇により、傷ついた巨人アトラスが流し続ける血なのだと信じられている。 「全く、実に興味深い! さぁスズ! 私と共にこの地震の真理を求めるのだ!」 パートナーのテンションに、御子神 鈴音(みこがみ・すずね)は深い溜め息を吐いた。 「どうした、スズ! 全く、スズはいつも無口でいかんな。 たまには自分の考えを主張してみたらどうかね! さあ!」 詰め寄られ、無口で口下手な鈴音は、もごもごと呟く。 「……だって……今全部、ケイオスが言ったし……」 しかもよく解らないオマケ付きで。 浮遊している大陸で地震。興味深いと思った。 調査してみたいとも。 町で聞き込みをすべきと思うが、自分は話すのが得意ではなく、どうしたらいいだろうと思っていた。 そんな鈴音の気持ちをオーバーに膨らませて代弁するかのように、ケイオスがあんなことを言うものだから、もう鈴音は頭が痛かった。 だが、そんな鈴音の心情など、ケイオスはお構いなしである。 「何と! スズも同様の意見だったのであるな。それは都合が良い。 さあ、共に真相の究明に赴こうではないか!」 ズルズルと引きずられて行きながら、自分が話す必要は無いかもしれないが、と鈴音は思う。 (でも、何なの、この、どうしよう感……) そんな2人は、とても目立っていたのだろう。 「あなた達も、このところの地震を調べているんですか?」 同じく地震を調べようと思っていた、神裂 刹那(かんざき・せつな)に声をかけられる。 あの様を見て、ケイオス達に声を掛けられるなど、ある意味で勇者だ。 「そうだとも! ひょっとして、君もかね!」 「ええ。よかったら、協力しあいませんか」 目的を同じくしているなら情報を共有しようと、連絡先を交換しあい、ツァンダと震源地付近に手分けして調査しようということになった。 「天空竜や空賊など、色々とあるようですが、お互い有効な情報を得られればいいですね。では、また」 そう言い残して、刹那は2人と別れる。 残された2人は、何故かぽかんとして顔を見合わせた。 「天空竜?」 「……空賊?」 一方、刹那のパートナー、ルナ・フレアロード(るな・ふれあろーど)は、ザンスカールのイルミンスール大図書館にいた。 天空竜について調べる為だ。 色々と漁った結果、羊皮紙を綴じた古い歴史書の中に、巨人が島を背負っている絵を見付けた。 どことなく抽象的な印象を感じる絵で、アトラスと島の上には、複数の竜が飛び交い、更にその上に、全ての竜を覆うような大きさの竜がいる。 「……これが、ウラノスドラゴン?」 しかしそれについての詳細な説明は殆どなかった。 考えてみたら、アトラスにしても、『大陸を支えている』以外のことなど、殆ど知らない。 その事実が、疑いようもない絶対だからだ。 だが、それと同列に並べられながら、ウラノスの方に知名度が無いのは何故だろう。 「……私達が、地上の生き物だから、ですか」 推測を呟く。 地上の生き物だから、アトラスのことは知るが、空に在るウラノスのことは知らないできた。 そういうことなのだろうか。 ◇ ◇ ◇ 大陸の果て、外崖付近は、外界から吹き込む風が強く、また単純に落ちたら危険なので、あえて村や町が作られることはない。 空を飛べない生物が近づくこともなかった。魔物も同様だ。 その為、震源地ははっきりしないことを覚悟していたが、意外にも、「それでも最も近い村」から、確定情報を得ることができた。 曰く「行ってみれば解る」である。 そして確かに、刹那は辿り着いてみて、その意味が解った。 地面が抉られ、というよりは、崩れて無くなってしまっている。 激突の衝撃のせいか、ひび割れて砕けた地面は、恐らく下の地球に落下しただろう。 真下が海なのは不幸中の幸いだ。 「地面が砕けるほどの衝突……!」 刹那は生々しい大地の傷跡を見つめながら、呆然と呟いた。 「地震って、起こせるものかしら」 現地調査に訪れていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の言葉に、パートナーのキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)は、また何か言い出した……、と、思った。 「こう、外崖に何かがぶつかって、それが地震になるものなの? ちょっと試してみようかしら」 地面に攻撃を仕掛けることで、周囲に少しでも、揺れたりする現象は起きるものなのだろうか。 大地を殴るなんて馬鹿なことを……と思いながら、目だけで天を仰いで返答に困ったキューだったが、言い出したら利かないリカインである。 現地調査自体には意味があることだし、と自分を納得させて、成り行きを見守ることにした。 ――結果は予想通りだったわけだが。 「冗談はともかく」 キューが改める。 冗談じゃなかったんだけど、という言葉は胸の内にしまっておく。 「実際大地を揺らすほどの衝撃が来たなら、それ相応の跡が残っているはずだろう」 「そうね、真面目にそっちを探してみますか」 その後リカイン達と刹那は合流し、地震が起きた回数や、地面が砕けている場所を、地図に詳しくチェックした。 「意外に広範囲に渡っているな」 数はともかく、と、キューが地図を見て呟く。 ツァンダまで届かなかった地震もありそうだ。 あとは、他に調査にあたっている人達の情報をまとめ、資料とすれば、きっと役に立つだろう。 「師匠〜」 呼び声に振り向けば、リカインのパートナー、守護天使のアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)が、手に持った携帯電話を振りながらこちらへ向かってくる。 「……? 携帯を手に持っているのなら、携帯で連絡をしてくればいいのに?」 首を傾げるキューに、 「あのせっかちなあまりどこか抜けちゃってるところがあのコっぽいわよね」 とリカインも肩を竦めた。 「ツァンダで動きがありましたよ!」 地上に降り立つやいなや、アレックスの言葉に、リカイン達も刹那もはっとした。 「ツァンダ組から連絡もらったっス。 空賊の居場所が判明したらしいッスよ。 今晩中に襲撃をかけて、飛空艇奪取に向けて行動するらしいっス」 「……そう。ま、失敗することはないと思うけど」 空賊を探すと言っていた、リカインが知る面々を数人思い浮かべて呟く。 「じゃあ、すぐにでもツァンダに向かわないと、置いてかれちゃうかも」 そう言ったのは、リカインでもキューでも、刹那でもなかった。 あれ? と振り向いたアレックスはぎょっとする。 「あああ姉貴!? 何でこんなところにいるんだ!?」 そこに立っていたのは、アレックスと同じ守護天使の少女。 今迄全く気付かなかった存在の突然の出現に、アレックスはうろたえた。 「何でって……たった一人の兄貴が突然いなくなったりするから、もう心配で心配で心配で……」 「嘘つけ!」 お互いに姉貴兄貴と呼び合う2人は、双子の兄弟だった。 どちらが上かは不明だが。 アレックスは1ヶ月ほど前、リカインと契約し、故郷の村を飛び出してきたのだ。 「探しに探して1ヶ月、やっと見付けたら、兄貴はこんな綺麗な人と一緒だし……」 わざとらしく袖を噛む姉=妹、サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)に、アレックスは叫ぶ。 「わざとらしい演技をすんな!」 「もしかして、駆け落ちでもしたのかと、こんなに心配した妹に対して、酷い言葉っ……!」 はらはらと、流れてはいないが、涙を拭うサンドラに、アレックスはぱくぱくと口を動かす。 「――と、まあ、面白い顔が沢山見られたから、この辺でいっか」 ひょい、と顔を上げたサンドラに、アレックスはどっと疲れて、 「ったく……」 とうめいた。 「黙って行ったのは、悪かったよ……。 何かそれどころじゃなかったからさ。もう、いいだろ」 すっかり疲れているアレックスに、サンドラはけろっと言った。 「あら、何言ってんの。これから一緒するからね」 「は?」 「私もリカインさんと契約したから」 「は?」 アレックスは、今迄で一番間抜けな顔をした。 我に返って、ばっとリカインを見る。 「言ってなかったかしら」 しれっとして言ったリカインに、アレックスは確信犯だったことを知った。 キューも苦笑している。 「さあさ、とりあえず、ツァンダに戻りましょ。置いてきぼりはごめんよ」 リカインが改める。 未だついて行けないながらもよろよろと後に続くアレックスに、前を行くサンドラが振り返ってにこりと笑った。 「落ち着いたら色々聞かせてもらうからね〜」 |
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