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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その1

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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その1

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 葦原の思惑 
 
 
 シャンバラ地方南西部。雲海に浮かぶ葦原島。
 城下町が形成されつつあるのを両側に見ながら歩いて行った先に、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)の通う葦原明倫館はあった。
 ティファニー・ジーン(てぃふぁにー・じーん)から客寄せパンダの話を聞いた牙竜だったけれど、魔法のアイテムで人を集めて明倫館を発展させる、というのは何か違う気がした。それを含めて、校長のハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)と今回の件について話がしたいと思ったのだ。
 用向きを伝えると、すぐに牙竜と武神 雅(たけがみ・みやび)は校長室に通された。
「ティファニーはもう城下に行っておるぞえ。助太刀するならそっちに合流するでありんす」
「いや、俺は客寄せパンダに頼らないで人を集める方法を探してみたいんだ」
 客寄せパンダの件で、と聞いたので、てっきり牙竜もパンダ像を入手しに動くと思っていたのだろう。ハイナは意外そうな顔になった。
「それはどういうことでありんすか?」
「魔法のアイテムで人を集めるのも一計だろうとは思う。けど、アイテムだと争奪戦になるよな。しかも、アイテムで人の心に干渉するやり方は、武士道に反する行為なんじゃないか? それよりも明倫館の魅力で勝負するべきだ」
「ほほう? それでその魅力とは何をさしておるのじゃ?」
「各校には大なり小なり、明確な目標と褒美があるから人が集まるのだと思う。明倫館は日本風なのだから、将来、生徒が領地を持つことが出来るようになれば頑張れるんじゃないか?
 意気込む牙竜だったが、ハイナの反応はあまり良いものでは無かった。
「藩の領地を切り分ければ藩全体の力が衰える。かと言うて、この辺りの領地を管理をしているのは西シャンバラ王国じゃ。他の領地に手を出せば、もめることは必至でありんすからのう」
「ではパンダがあるという無人島はどうだ? ここを領地として確保して、生徒に管理させることは出来ないだろうか」
 かつては人が住んでいた場所だから、最低限の自給自足はできるだろう。観光資源は期待できそうもないが、訓練用の施設として利用できないだろうか。
 そう尋ねとハイナは、
「調査を行ってから検討するでありんす」
 どこも管理していない土地なら良いが、他の学校所有とされている場所だったら大変なことになる、と慎重に答えた。領地問題は他ともめる一番の要因だ。
「こちらは地球と違って、書類を整えれば終わりというわけにはいかないのであるな」
 それならば抜け道も考えられるだろうにと、雅は残念がった。
「ではその間、俺はあの浮島が利用できそうかどうかを調査しておこう」
 無人になってからどのくらい経つのかによって、荒廃の度合いも違うだろう。まずは自分の目で確かめることだと、牙竜は雅と共に浮島に向かうことにした。
 
 
 牙竜たちが出て行くのと入れ替わりに、今度は藍澤 黎(あいざわ・れい)が入ってきた。
 葦原明倫館を訪れた際、今回のことを耳にしたのだが、どうも引っかかることが多すぎる。協力するもしないももう少し客寄せパンダの情報が欲しいという黎に、ハンナは他校生への警戒を見せながらも、
「何でありんすか?」
 と話を促した。
「客寄せパンダを手にした都市は、『人がたくさん集まって栄える』はず。が、どうしてパンダは無人島なんかに安置されている? 遺跡があるということは、以前は町があったのだろう? ならば今も栄えていなければおかしいだろう」
 このパンダ像、単なる客寄せ道具ではなく、何か裏事情が秘められているのではと問う黎に、ハイナはさぁてと大仰に肩をすくめた。
「そんなこと、わっちが知る由もないじゃろう」
 その仕草からは、本当に知らないのか、しらばっくれているのかの判別はつかない。
 この辺りは実際島に行って調べるしかなさそうだと見て取った黎は、質問を変えた。
「ハンナ殿は客寄せパンダの情報を、何処から知ったのだ?」
 いきなり湧きあがった客寄せパンダの話。もし誰かが流したのだとしたら、と危ぶんだのだが、ハイナはこちらはあっさりと答えた。
「古い文献を整理している時に見つけたのじゃ。それだけではとんと分からぬものでありんしたが、新旧の知識をあわせもつわっちにかかれば、読み解くことなど造作もないことでありんす」
 ハイナはにんまりと笑った。
「では、その文献に触れたハンナ殿ならばご存知であろうか。そのパンダ……何を上げているのだ?」
「何、とは?」
「招き猫は手を上げているであろう。金を招くなら右手、人を招くなら左手だ。客を招くというパンダであるならば、やはり上げているのは左手なのだろうか?」
 思わぬ質問にハンナはあっけに取られたような顔になる。
「図解は載っておらなんだから、そこまではわっちも分からないでありんす。それが何か関係あるのじゃろうか?」
「魅了と客寄せの相違が気にかかって……いや、何を上げているのか知らないなら良い。自分の目でその像を確かめてみることにしよう。では」
 黎が身を翻して出て行った後、ハイナは右手を上げ、左手を上げ、しながらしばらく手の違いによる呪物の効果について思い巡らせるのだった。
 
 
 
 
 その頃、葦原城の城下では魔封じの籠が、葦原明倫館の生徒によって配られていた。
「何卒、葦原にパンダ像を持ち帰ってくだされ」
 そう頼みながら籠を差し出す生徒に、リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)は任せてと請け合う。
「どうせなら友達は多いほうが良いよねぇ」
 イルミンスール魔法学校や蒼空学園にこれ以上人が増えても、自分的に面白くないから、とこっそりと呟きつつリースは籠を受け取った。
「パンダ像は私たち葦原明倫館のもの。誰にも邪魔はさせないわ」
 帰りには必ず籠の中に客寄せパンダを、という意気込みでリースはしっかりと籠を抱えた。
「これが魔封じの籠なのですねぇ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)は貰った籠をしげしげと眺めてみた。上がすぼまった鳥籠のような形をした籠の高さは30cmほど。
「この素材は笹か竹、でしょうか〜?」
 強度はあまり無さそうだけれど、随分と風情のある籠だとメイベルは顔の前に掲げて眺めてみた。底の部分まで竹で編んである。
「私にも持たせていただけますかぁ?」
 メイベルが受け取った籠を貸して貰い、ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)は軽くそれを上下させてみた。しっかりと作られてはいるけれど、軽くて繊細な籠だ。
「これで持ってこられるとなると、それほど重くも大きくもない像なのでしょうねぇ」
「案外素敵な籠なのですわね。いらなくなったらインテリアにでもしたいくらいですわ」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が言うのを耳にすると、籠を配布している生徒はそうなのです、と残っている籠を見やった。
「50個ほどもあれば十分だとハイナ総奉行が仰せられたのですが、それも足りなくなりそうな始末でして。本当にすべての籠が移送のために使用されるものやら、分かりませぬな」
 嘆息する生徒に、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)は確認する。
「こちらに用意した籠は50個で間違いない?」
「はい。相違ありません」
「今の残りが12……まだ受け取りに来る人はいそうね。ティファニーさんの飛空艇が出発する前に、最終的に配布した数を報告しに来てくれるかしら」
「承りました」
 そう頼んでおくと、緋雨はティファニーの中型飛空艇に入って行った。
 中にはもう乗りこんでいる者たちもいる。
「ねーたん、ねーたん、こた、ちーかっぷぱんにゃー、みたいんれす!」
 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)は出発が待ちきれないように身体を揺らす。
「ティーカップパンダではなく、ええっと……なんたらパンダだろう」
 ティーカップパンダと呼ばれているのはミニミニサイズのパンダだ。それくらい小さい、という意味でそう呼ばれているけれど、普段ティーカップの中にいるわけではない。比して今回探しに行くのは、ティーカップに入っているパンダの像、名前は忘れたけれどなんたらパンダというものだ。
 林田 樹(はやしだ・いつき)がそう説明してやると、コタローは上機嫌で鞄を開けた。
「なんららぱんにゃー、なんららぱんにゃー、けんがくするんらお! めもちょー、おっけー。かめりゃ、おっけー。おやつは、さんじゃくごるらまれらお!」
 客寄せパンダを見学して写真を撮るのだとはりきって持ち物チェックをしているコタローを、樹は微笑ましく見守った。
 そこに、緋雨が呼びかける。
「きっと向こうでは混乱するだろうから、今乗ってる人を置き去りにして帰らないように、名簿を作るわよ〜。置いていきれたくない人はちゃんと記入してね」
「記入用紙はこれじゃ。あまり遅くなると、名簿に載っていてもまたずに出発してしまうかもしれぬ故、目的が終われば速やかに戻ってくるのじゃぞ」
 天津 麻羅(あまつ・まら)が緋雨を手伝い、筆記具を添えた記入用紙を配ってゆく。
「あと、グループで行動してる人は、籠を盛っている人をリーダーとして教えてね。リーダーのお仕事は帰る時にメンバーの点呼をして揃ったら報告することよ」
「うちは籠は持ってないからリーダーはどっちでもいいか。ならコタロー、リーダーをやるか?」
「りーらー?」
「ああそうだ。リーダーの仕事、頼むぞ」
「こた、がんばるお!」
 コタローはお気に入りのハエ叩きを振り上げた。