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想い、電波に乗せて

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想い、電波に乗せて
想い、電波に乗せて 想い、電波に乗せて

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 夜の自室にて、ベッドの上で己の中の想いと葛藤しているのは真口 悠希(まぐち・ゆき)だ。
 桜井 静香(さくらい・しずか)と話がしたくてたまらない。
 距離を置こうと告げられたのは夏の日のこと。
 彼女の傍で過ごした日々のことを考えれば、あの日からの期間はまだ、短い。
(今は距離を置かなきゃダメだっ! いつかまた……)
 会いたいと願う心に叱咤を送ったところで、ふと思う。
 いつか、とは一体いつのことなのか。
 そして、それまでの間に、彼女の身に何かあったら、と――。
「ああ、そうだ」
 思い出したのは、静香のパートナー、ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の姿だ。
 彼女なら、静香の近況も分かるはずだし、詫びておきたいこともある。
 そう思った悠希は早速、携帯電話を手にした。
『ラズィーヤ様へ

  突然のメール失礼致します

  先日は無茶を言い
  申し訳ありませんでした。

  ボク何かに夢中になると
  周りが見えなくなっていけないですね…
  静香さまの事も…

  あの
  静香さまは最近お変わりないでしょうか?
  思い詰めてるとか…何も無ければ良いのですが

  ……あっボクが心配してる事
  静香さまには秘密にしておいて下さい

  ボク……いつか
  静香さまやお知り合いの皆様が
  本当に頼れる様な人になりたい……

  それまで……未熟者ゆえ
  多々御迷惑をおかけするかも知れません
  どうか失礼の程お許し下さい

   真口悠希


  追伸
  静香さまいぢめ過ぎちゃダメですよっ
  行き過ぎちゃう位ならいっそ
  ボクが身代わりに……いえ何でもないです///』
 メールを打ち込むと、送信するよう操作する。
 それから、悠希は携帯電話の画面を閉じた。
 ベッドに腰掛けたまま、ラズィーヤからの反応を暫し待つ。

 暫くして、携帯電話がメールの受信を知らせ、鳴り響く。
 メールを開くと、ラズィーヤからの返信であった。
『静香さんは相変わらずですわ。
 皆さんを心配して、皆さんに心配されて……ふふ、少し妬けますわね。
 大丈夫、皆さんが支えていれば静香さんは頑張れますから。
 ああ見えて強い娘ですもの。
 少し妬けた分は、静香さんをいぢめて晴らしますわ、ふふふ』
「静香さん、大丈夫そうですね」
 ほっと安心して、悠希は肩を撫で下ろすのであった。



 眠れぬ夜。
 自室にて、携帯電話でメールを打ち込んでいるのは、沢渡 真言(さわたり・まこと)だ。
 直接会って話すには、言いづらいことをある人へと送ろうとしている。

 時を同じくして、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)もまた、自室のベッドの上、ネグリジェ姿で寝転んで、携帯電話のメールを書いていた。
 一文字一文字打ち込みながら思い出すのは、夏休みに家の事情で帰省した日のこと。
 書き上げて、それを一度読み直して、おかしなことがないかを確認した後、送信するよう操作した。
 メールが送信される画面が切り替わり、送信完了を告げる旨が表示されたかと思うと、間を置かずして、メールの受信を告げる音が鳴り響く。
「え?」
 タイミングとしては、メールが宛先不明で帰ってくるのと同じくらいだ。
 受信ボックスを開いてみると、そこには『真言』の名前があった。
 時間差を考えると先のメールの返信というわけではないだろう。
 どうやら、互い、同時にメールを送ったということか。
 口の端に笑みを浮かべつつ、のぞみはそのメールを開いた。
『のぞみへ。
  夜分にすみません、もう寝ていましたか?

  なんだか寝付けなくてメールしてしまいました。もしも、寝ていたら起こしてしまってすみません。

  せっかくなので、このまま長い文章打ってもいいでしょうか?』
 そこで返事を伺うように、空行が続いている。
『 長い夏休みが終わって、のぞみがイルミンスールに戻ってきて私はとても嬉しかったです。
  地球に戻ったまま、このまま帰ってこないんじゃないかと幾度も思ったからです。

  小さなずっと一緒だったのぞみと、何ヶ月という単位で、こんなにも長く離れたことがあったでしょうか。
  私の記憶の中ではこれが初めての出来事のような気がします。
  だからでしょうか、数ヶ月がまるで1年ぐらいに思えてしまって……。

  すごく、寂しかったです。
  だから、帰ってきて今こうしてメールが出来るのが本当に嬉しい。
  今回の件で心が鍛えられたと思います。同じ事が起きても、今度は寂しがりません。

  でも、今度長い間どこかへいく時は、どうか私もご一緒させて下さいね。

  おやすみなさい。
   真言より』
 絵文字の一切使われていない、文字ばかりのメールから、彼女の真剣さが伝わってくる。
 更に、拗ねているような彼女の顔も浮かんだ。
「もちろんよ」
 返信を送るまでもないだろう。
 それに準ずるものは先に送った。
 のぞみは微笑むと、携帯電話を愛しそうに抱え込み、眠りについた。

 メールを送信した真言もまた、すぐさま届いたメールに驚いていた。
 驚きながらも受信ボックスへと画面を写せば、先ほどメールを送った相手、のぞみからだ。
『今更かも知れないけど、やっぱりメールする!

 ただいま。
 急に居なくなってごめんね。
 待っててくれてありがとう。

 今度は、ふたりで一緒に帰ろう』
 真言の送ったメールとは対象的に、きらきらとかお花とかペンギンとかが並んで華やかなメールだ。
『真言大好き!!』
 暫しの空行の後、書かれた一言にのぞみの笑顔が思い浮かんだ。
 先のメールへの返信ではない。
 真言が拗ねてメールを書いていた頃、彼女もまた、真言のことを思い、メールを書いていたのだろう。
 拗ねた心は簡単に解かれない。けれど、真言はそんな心はすぐに解かれるのだろうと予感した。