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リアクション
第11章 好奇心は子猫をも殺すか
少し前の館の中では、お風呂と食事を終えた乙女達がお茶を飲みながらくつろいでいた。明日の収穫祭は、朝から大忙しだから早めに休んだ方がいいとメアリが提案すると、葡萄踏みで疲れた乙女達は素直に従った。
乙女達は、女主人であるメアリに挨拶をして引き上げる際、冷えた葡萄をひと粒渡された。これも儀式のひとつだから、必ず今日中に食べるようにと言われ、それを手にそれぞれが部屋にひきあげた。
疲れていた乙女達が、安らかな寝息をたて始めた頃、祥子は『ヒプノシス』でぐっすりと眠る監視役のメイドを見下ろしながら、
「これで、自由の身ね」と微笑んだ。
魔鎧の朱美が鎧化し、祥子の身を包む。
『館の中を探るんじゃ、2人よりも1人の方が身軽だし、みつかりにくいからね。私はコレでサポートにまわるよ』
祥子は頷き、部屋の窓枠に手を掛けた。庭では、ふらふらと徘徊しているいくつもの人影が見える。アンデッドだろう。
「いくわよ!」
祥子は窓から庭に出ると、アンデッド達が行動を起こすより前に、『さーちあんどですとろい』を発動させ、炎で周囲のアンデッドを一掃すると、アンデッドがひるんだ隙に『光学迷彩』で姿を消し、昼間確認しておいた、すすり泣きの井戸へ向かって走り出した。
その少し後に、百合園女学院の葉月 可憐(はづき・かれん)と、パートナーで剣の花嫁のアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は、蒼空学園のアルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)と共に、その場所をのんきに歩いていた。先に敵を倒してくれた祥子のおかげなのだが、噂のアンデッドに遭遇することもなく、夜の散歩を楽しんでいる。
アリスが臭いに気づき、くんと鼻をならした。
「なんだか、ちょっと焦げ臭くないですかぁ?」
アリスの言葉に、アルメリアが明るく答える。
「きっと明日の収穫祭に出すお料理を用意してるんじゃないかしら」
「そ、そうかなぁ…」
それより、と可憐がアルメリアに話の続きを始めた。
「アルメリアさん、ほんとに皿屋敷って知らないんですか? 有名な怪談ですよ?」
「さっき可憐ちゃんにそういう話があるって聞くまで、全然知らなかったわ。どんなお話なの?」
「その昔、お菊さんというドジっ子の若い娘さんが、奉公先の大事なお皿を割り、その責を問われて井戸に落とされ殺されてしまうという話なんです」
「まぁ、お皿を割っただけで…っ! わざとじゃないのに、なんてかわいそうなの!」
話の筋に、アルメリアがどんどん感情移入していくのを見て調子づいた可憐は、さらに話を煽った。
「それでそのお菊さん、お皿の足りない一枚を探し、見つけた人に皿の在処を尋ね、答えられなかったら首を刎ねて皿代わりにするんだそうです」
「まぁ、ずいぶん荒んじゃったのねぇ」
「その上! 井戸に住んでいるからいつも濡れていて風邪気味のドジっ娘さんなんですけど、なんでも、お皿をあげたり、体を温めてあげるとすごく幸せそうに微笑んでくれる(だけ)らしいです」
「まぁまぁっ! そんな事で女の子が笑顔になるなら、ワタシ達でお菊ちゃんを喜ばせてあげましょう!!」
「そう思って、そんなドジっ娘お菊さんを喜ばせる為に防寒具と色取り取りのお皿を各種ご用意しましたー!」
「素敵っ! 完璧だわ、可憐ちゃん!!」
「アルメリアさんには…この伊万里の皿なんか似合いそうですねっ♪」
「あら、カラフルでとっても綺麗だわ」
そんな2人の会話を3歩後ろで聞いていたアリスは、得体のしれない汗を流していた。
(あぁ〜っ、アルメリアさんが可憐のあることないことに騙されてますぅ…!? で、でも私もそんなに詳しいわけじゃないので、正確なお話は知らないからきちんとした訂正も出来ないし……あれ? でもこれって、訂正しなきゃいけない緊急の事態でもない……のかなぁ?)
自分の思考の出した答えに、アリスはふぅと溜息をついた。
(なんだか、私もどんどん可憐に毒されてる気がしますぅ……)
どんどん危険になっていく夜の中、恐ろしいほどの幸運に恵まれながら、3人はお菊さんがいるらしき井戸へと向かった。
ミューレリアは、昼間集まった中庭脇近くの空部屋の中でくつろいでいた。
「よお、待ってたぜ」
アリア、由宇とアクア、舞とブリジット、それに明日香とミューレリアを加えた7人は、噂の真相を突き止めようと移動を開始した。
『光学迷彩』を発動させたミューレリアは、猫耳をぴくりと動かし『超感覚』で強化された視力と聴力であたりを伺いながら先頭で皆に指示を出し、メイド達の監視の目をすり抜け館を調べていく。
ふと、廊下の奥の暗闇が揺れた気がして、アリアがびくりと反応した。
「うぅ、……昨日、呪いのビデ○の映画なんて見た後にこれはキツいよぉ」
「やめてくれ。タイトルを聞くだけでも嫌だ」
ホラー映画嫌いのミューレリアがアリアに言う。
明日香が皆の気を紛らわせようと、囁くように話し出した。
「噂から推測するに、メアリさんは好みのタイプがうら若き乙女の血…という吸血鬼で、アンデットを操るネクロマンサーなのではないかと思いますぅ。そう考えると、人が変わったようになったのは、吸血行為で精神操作されちゃったからではないでしょうかぁ。行方不明の方は、相性が合わずに操れなかった娘が幽閉されてしまってぇ、すすり泣く声はその娘達というのは、どうでしょうぉ?」
ブリジットの目がキラリと輝いた。
「なかなかやるじゃない」
「ありがとうございますぅ。それでぇ、井戸が入り口では連れ込むのも大変なので、やっぱり別に入り口があると思うんですよねぇ。井戸から声が漏れている事を考えると、館の地下室が怪しいと思うんです。なので、まずは地下室へ続く扉を見つけましょう〜」
明日香の、井戸に近い裏庭付近の部屋にあたりをつけて探そうという提案に、ブリジットも賛成した。
「貴族の屋敷とかは、有事に備えて秘密の部屋とか隠し通路があるのは珍しくないものね。井戸から中に入った方が早いかと思ったけど、確かに夫人達が使ってる通路の方が安全で確実だわ。言い逃れできない証拠を突きつけて、夫人の厚化粧ごと化けの皮を剥ぎ取ってやるわよ!」
うきうきと楽しそうに話すブリジットを見て、舞はほっとしていた。当初のブリジットの計画では、井戸の中に潜入!だったのだが、この間、木から落ちて入院した運動神経を持つ自分としては、正直その計画は乗り気ではなかったのだ。
これで安心してブリジットの意見に同意出来ると思い、舞は口を開いた。
「行方不明の娘さんたちは、きっと屋敷内にまだいるはずです。娘さんたちを探し出して、話を聞く事が出来れば、この屋敷で起きていることの真相はわかると思います」
アクアがくすくすと楽しそうに笑う。
「わたくしの知的好奇心がくすぐられますわね。ちゃっちゃと真相を確かめてあげましょう」
アクアの後ろを歩きながら、由宇は、おどおどとあたりを見回した。
「あ、あのぅ、やっぱり、夜中に人の家の中に勝手に歩き回るのっていけないことですよね? これって、もしかしていけない事なんじゃ……」
由宇以外の者がぴたりと足をとめ、由宇に向かって口を揃えて言った。
『何を今さら』
由宇はがくりと項垂れる。
「ですよねぇ〜」
顔をあげると、皆は先に進んでいた。
「ま、待って下さぁいっ!」
由宇は慌てて皆に追いつき、アクアの腕をとった。
「もぅ、アクアさんまで、置いていかないでくださいよぉ」
「由宇? わたくしはここですわよ?」
アクアに斜め前から声を掛けられ、由宇は、自分が腕をとっている隣の人物を見上げる。
グルルルル……。
いつの間にか列に加わっていたゾンビの姿に、全員が一斉に鳥肌を立てた。
「きゃああっ! でたーっ!!」
由宇を筆頭に悲鳴を上げた面々は、思わず全速力で走り出した。
その後、ゾンビからは逃げられたものの全員がバラバラになり、ようやく再開した時は、ミューレリアの姿がなかった。
皆とはぐれたミューレリアは、人気のない廊下に駆け込んでいた。落ち着いて息を整えると、アンデッドの気配がないのを確認しながら、あたりを見回す。
ふと、引き寄せられるようにして、ひと際豪華な奥の扉に手を掛ける。その部屋には鍵がかかっていたが、ミューレリアは悪いと思いつつ、『ピッキング』で中へ忍び込んだ。
暗く広い部屋は、調度品から察するに、メアリの部屋だと思われた。
ミューレリアはなにか手がかりがつかめればと、部屋の中を歩きだす。
火の入っていない暖炉の上に、写真が置かれているのを発見した。手にとってみると、中年の男女の家族写真のようだ。立派なひげを蓄えた男性は、館と同じ紋章を身につけている。
「こいつが子爵…か。じゃあこっちは当然………これは、誰だ?」
ミューレリアが写真をもっとよく見ようとしたその時、ガツンと後頭部に衝撃が加えられ、その場に倒れた。
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