|
|
リアクション
3
レオンは事前に、根回しでキマクの地図を入手していた。そこには、トラブルに巻き込まれた時の退避場所や、分散してしまった際の集合場所も見積もって記してあった。それを、衿栖と共に配っていく。
ファーシーの治療が主になるアルバトロスの運転席には閃崎 静麻(せんざき・しずま)が座っていた。ルカルカは助手席からダリルの補助、及び護衛を担当する。飛空艇は、地面から数十センチ浮いた状態である。
「あっはっはっはっ、一度付き合うと決めたなら、最後までお助けしましょう!」
荒野を進み始めると、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)はいつもの調子で喋り始めた。
「まあ、機晶姫修理とかでライナスさんの所に行っても、話が高度すぎてチンプンカンプン……げふんげふんっ」
わかんないんだ……
やっぱり、わかんないんだ……
四方八方からそんな無言のツッコミが飛ぶ中、ファーシーは言う。
「えっと……つまり、分かんないのよね?」
言っちゃったよ! はっきり言っちゃったよこの子!
「さ〜て、なんのことでしょう?」
視線をあさっての方に向けるクロセル。しかしファーシーは動じない。全く動じない。
「ねえ、ところで……ライナスさんって誰? 他でも、何かやってるの?」
「? はて、ご存知ないですか?」
「うん」
「……? モーナさんは今日、俺達と同じように護衛を伴い、大荒野を行っている筈です。バズーカについて、機晶技師の先達であるライナスさんに話を聞きに行ったのですよ」
「モーナさんが? バズーカ?」
意味が判らずにハテナマークを連発するファーシーに、クロセルは“親切に”説明する。
「ファーシーさん、脚の治療に役立つかも、とこの前説明していましたよね。それで、出発を決めたようです。併せて、ファーシーさんの現在の機体状況についても、意見交換するつもりのようですね。あの2人が揃えば治療も良い方向に進むでしょう! まあ、俺はモーナさんとは会ったことありませんが」
「……わたし、全然知らなかったわ……」
ファーシーは、少しショックを受けたらしい。
「大丈夫です。そう気にしなくても、モーナさんの場合はうっかり忘れただけだと思いますよ? 電話して聞けば、すぐに答えてくれるでしょう」
そう言うクロセルを、彼女はしばし見詰め、それから笑った。
「うん、そうよね!」
「ええ、そうです……って、しまった? また、なんだか体がむずがゆくなってきました。少しおさまってきていたというのに……!」
「どうしたの?」
「い、いえ、先日や今のように、良い事を言ったり親切心を出すとアレルギー反応がっ! 体が慣れてないせいのようです」
「……なにそれ」
と、大多数が思ったとか思わなかったとか。
「腹黒騎士団長期間が少々長すぎましたか……これはお茶の間のヒーローとして由々しき問題です。なんとか、良い事するのが普通であると体に慣れてもらわないと。リハビリしないといけませんねぇ」
クロセルはそう言いつつ、最後にこうぼそぼそと付け足した。
「……とはいえ、あまりカッコイイことを言いすぎても、歯が浮きすぎて早々に総入れ歯になってしまいそうです」
「…………うーん、つまり、何ともないのね?」
ファーシーは、そう結論付けた。
「素晴らしくいつも通りですね、クロセルさんは……」
クロセルの背に視線を向けつつ、赤羽 美央(あかばね・みお)はひとりごちた。否、1人に見えるが1人ではない。彼女は、魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)を装備しているのだ。
「むー、それにしても、あのキバタンはどこにいったのでしょう……あれから探しても、全然見つかりませんでした……唯乃ちゃんも、下宿屋さんにいなかったし……」
キバタンを探しているうちに、蒼空学園にまで来てしまった。ちょうど、ファーシー達がキマクへ出発するところだったので付いていくことにしたのだ。先日の話に出た旅であるのは分かるが、何かあっても、自分には心のケアとかは難しい気がする。ということで、道中の護衛という感じの鎧装備だ。蛮族対策である。
「ファーシーさんだって、何かあったらキバタンのモフモフで癒されるはずですし、やっぱりキバタンを探しながらいきましょう。道中にあのキバタンがいるかもしれませんし!」
「いや、美央……」
サイレントスノーがツッコミを入れる。
「あのキバタンは訓練されていたから、このような所にもキマクのような場所にもいないだろう」
「そうでしょうか? どこかに帰る途中とか、おつかいとか、色々あるかもしれません」
「大荒野に、おつかい……?」
サイレントスノーが人間型になっていたら半眼に……あ、骸骨だった。
「……いえ、『青い鳥』的なストーリー展開でいくと、こうして間に冒険を挟んでから、実は自分の近くにいたんだって事に気づいて、無事キバタンと再開できて終わるはずです。あれ? むー、それだと、結局ファーシーさんがキバタンとモフモフできませんね……」
「青い鳥は確か、最後は逃げていった気がするのだが……まあいいか」
サイレントスノーは諦めたようだ。そして、隣を飛んでいた小型飛空艇ヴォルケーノに話しかける。運転席にはエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が、後部座席にはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が載っている。
「美央はこの調子ですが、ファーシー様と仰られる方は何やら深刻な現実を突き詰められそうですね……」
「そうね……これから会うアクアって人、何だか明らかに怪しいし……友人だと思って行くと痛い目に遭うかもしれないわ」
ローザマリアの答えに、サイレントスノーはふむ……と呟く。
「しかし、まだ第三者の私の意見が必要な段階ではないでしょう。私たちは彼女のことを知らなさ過ぎる。あの方の心のことは彼女に親しい方に任せるとして……護衛をいたしましょうか。それにしても、私達の後方を距離を取って飛んでいる強盗鳥……少し、気になりますね」