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女王陛下と兵隊アリ(S@MP第2回)

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女王陛下と兵隊アリ(S@MP第2回)

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第二章:ゲネプロ

「おーし、メンバー全員集まったな。じゃあ、ゲネプロを始めるぜ。そのまえに、改めて自己紹介から始めようか。俺はフレイ・アスク。S@MPの男性ヴォーカルを担当する。趣味は家事一般。特に料理は煮込み料理が得意だ。今日の夕飯にはギネスシチューを振舞うから食べていってほしい」
「フレイのギネスシチューか。美味しいだろうな。俺は、アポロン・サン。フレイのパートナーで操縦担当だ。フレイのマネージャーとして名を売りたいと思ってる」
「そいつは楽しみだぜ。俺は姫宮 和希(ひめみや・かずき)。ギターでコンサートマスターだ。パラ実だが東西が統一された今は遠慮は無用。がつんと行くぜ」
 ぼさぼさの黒髪と茶色の瞳、ボロボロの学ランを着たバンカラスタイルは漢気の証。喧嘩と飯が大好きな、女扱いされると怒る少女だ。和希の搭乗するイコンは真っ赤にカラーリングされたイーグリットだ。
「俺はガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)。和希のパートナーで、見ての通りドラゴニュートだ」
 ガイウスはぼさぼさの金髪に金の瞳の寡黙な武将である。和希とは義兄弟の契りを結んでいる。
「オレはルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)と言います。ベース担当です。教導団では少尉をやっています。万が一戦闘が発生した際はお任せください……まあ、三次元空間での戦闘と陸上での戦闘は違うかもしれませんが」
 こう見えて鋼鉄の獅子の隊長代理を務めていたりする。なかなかに有能な男のようだ。
「私はマスターのパートナーソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)です。マスターにはナンパ癖がありますがちゃんと恋人が出るので放置してあげてください。なんだったら鉄拳制裁してもらっても結構です」
「おいおい……」
 ルースが突っ込むがソフィアはしれっとした顔だ。
「俺は朝霧 垂(あさぎり・しづり)だ。今回はヴォーカル・コーラスとしてサポートメンバーとして入る。よろしく頼むぜ」
 垂はメイドである。料理が下手ではあるがそれ以外の趣味嗜好はフレイと一致しているといってよかった。
「にゃははは〜。俺は朝霧 栞(あさぎり・しおり)だぜ。妹みたいなもんだ。よろしく頼む」
 栞はメモリーカードの魔道書である。本来の名前は「朝霧垂のデータ帳」で、色々なデータが入っているらしい。そのため、データ処理能力が高い。
「ルカルカは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)というよ。キーボードで参加するからよろしくね」
 そう言ってルカルカは皆と握手する。
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)。剣の一族だ。ルー家の家事を担当している。夕飯の準備、俺も手伝おう」
 ダリルがそう言うとフレイは
「お、そりゃ助かる。じゃあ、フィッシュアンドチップスでも作ってくれ。飲み物は大人にはギネスとキルケニーとシードル、子供にはアルコール抜きシードルを用意してある。ビールは業務用サーバーじゃなくて缶だけどな」
 と言った。
「任せるがいい。ついでにソーセージとジャーマンポテトの盛り合わせもつくろう」
「期待してるよ、ダリル」
 ルカルカが嬉しそうに言う。
「ああ」
 ダリルは頷いて次のものに順番を譲った。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)よ。弟子がアコーディオンに挑戦するらしいから、私は観客のつもり」
「ん? あんたはイコンに乗らないのか?」
 リカインの言葉にフレイが疑問を入れる。
「ん〜。まあ、弟子の晴れ舞台だしね」
「でも、地球人が乗らなきゃイコンは動かせないぜ? パラミタの種族だけじゃ出力は地球人一人より低い」
「そこがわからないのよね。何で地球人がいないとイコンが動かないの?」
 フレイはその疑問にこう答えた。
「詳しくはわかってないが、地球人固有の力が関係しているようだな。パラミタの種族にはない何かが」
「弟子のアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)っす。そうなると設楽カノンさんや強化人間部隊はなんでひとりでイコンを動かしてあれだけの強さを誇ってるんっすか? おかしくないっすか?」
「俺も疑問だけど、かなりセキュリティクライアンスが高いんだよねえ。多分ヴァイオレットかウルトラヴァイオレットレベルだ」
 アポロンがそう言った。
「かなり偏執狂的な厳しさよね。まあ、仕方がないからリカ姉さんと兄貴が乗るしかないんじゃないの? あ、私はサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)。アレックスの兄貴とは双子だよ」
 サンドラは今日までずっとアレックスをみっちりとしごいてきた。彼女はドルイドなので音楽はサンドラのほうがうまいのだ。
「フィスはシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)。フィスって呼んでね。もしまた鏖殺寺院が来たら随伴飛行歩兵をやるつもり。これでもヴァルキリーだしね」
「んー、あんたのレベルなら十分イコンとも生身で戦えそうだな。よろしく頼む」
 フレイがそう言うと、フィスは微笑んで「よろしく」と答えた。
「私はイコンと戦えるかな?」
 サンドラの言葉にアポロンは
「ちょっと厳しいね」
 と答える。
「出来れば観客の避難誘導をやって欲しいな」
「ちょっと悔しいけどわかったわ」
 サンドラはそう言うと、
「これでも回復の術には自身があるから、任せてよね♪」
 と言って鼻歌を歌い始めた。
「あたしは朝野 未沙(あさの・みさ)だよ。メンバーじゃないけど、みんなの乗るイコンに内蔵型スピーカーを取り付けることになったから、よろしくね。あ、家事が得意なメイドだから、あたしも料理を手伝うね。なんかアイリッシュで攻めるみたいだから、アングロサクソン系アイルランド人が伝えたお菓子、はちみつタルトをつくろうかな? 食後のスイーツね。砂糖の代わりに蜂蜜を使うのと、レモンの果汁を入れるのが特徴だよ」
「おお、ウマそうだな!」
 ルースが嬉しそうに反応する。
「うん。腕によりをかけるから、パパも食べていってね」
 未沙はルースをパパと呼ぶが実父ではなく、父親のように慕っているだけである。
「おうおう、食べる食べる。未沙はいい娘だなぁ〜」
「えへへー」
 照れる未沙。
「僕は平等院鳳凰堂 レオだよ。コーラスで参加するけど、どっちかというとカノンの護衛がメインかな?」
「あの人に護衛はいらんと思うがなー。生身でもかなり強いし」
 アポロンがそう言うとレオは
「腕は抜群だけど危なっかしいところがあるからね。誰かが支えないと。それに、山葉先輩からもカノンのことを任されたし」
「でもカノンは【涼司くん一筋】じゃないの?」
 フレイの言葉には
「山葉先輩にはその気はないみたいだからね。カノンが傷つく前に僕が支える」
 と答えた。
「私は久遠乃 リーナだよ。イコンの操縦はイスカに任せて私は山葉校長の護衛をやるつもり。よろしくね」
「我はイスカ・アレクサンドロス(いすか・あれくさんどろす)じゃ。レオのパートナーとしてコームラントを操縦するぞ。TACネームは【ズルカルナイン】じゃ」
 イスカはそう言うとカノンを守る決意を滔々と述べた。ここらへんは征服王イスカンダルの英霊だけのことはあろう。
「俺は鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)。ルカルカの婚約者でドラム担当だ。教導団では騎兵科の所属している。ルース少尉ほどではないが軍事訓練は積んでいる。イコンの操縦経験は少ないが戦闘の妨げにはならないだろう」
「コロマルは鷹村 弧狼丸(たかむら・ころうまる)だよ。兄貴についてきたら旨い飯にありつけると思ってきたんだけど、今晩の夕飯は期待できそうだね」
 真一郎を兄貴と慕い、言葉には絶対服従の弧狼丸は、狼型の獣人である。両親も知らず、生まれてからパラミタを転々としていた為、特定の名も持たずに生活していた。真一郎と出会い、家族として名を貰い共に生活する事になった。その出自故に真一郎を裏切ることはない、最良のパートナーと言えるだろう。
「私は穂波 妙子(ほなみ・たえこ)や。TACネームは【与一】。ツインギターのもう一翼や。万が一敵の邪魔が入ったら射撃手として対応するで」
 伝説の弓取り那須与一からTACネームをとった妙子は、以前の寺院との戦闘でもコームラントのビームキャノンによる射撃で大きな戦果を上げている。遠距離からの射撃を身上とするスナイパーだった。
「わらわは妙子のパートナーの朱点童子 鬼姫(しゅてんどうじ・おにひめ)じゃ。こう見えても酒呑童子の一人娘、こう見えても笑わは蟒蛇でのう……今宵の酒は楽しみにしておるぞ」
 子供のような見た目とは裏腹に大人びた振る舞いをする鬼姫は、これでも100年以上を生きている妖怪というか英霊というか、そう言う存在である。
「私は富永 佐那(とみなが・さな)ですが……海音シャナというレイヤー名でキーボードに参加します。なお、候補生の地位は返上します。飼い殺しは耐えられないので……」
 そう言うシャナは元コスプレイヤーから現役コスプレイヤーに復帰し、2010年代に流行ったキャラクターDTMソフトの衣装を着て空色のウィッグにエメラルドグリーンのコンタクトを付け、目深にフード付きマントを羽織り、
「私がルースさんに劣っているとも敗れたとも思えません。ただ少し、本気が足りなかっただけでしょう」
 と言ってばさりとマントを脱ぎ捨てその姿を顕にする。
「だって☆やっぱりTV的にもヴィジュアル的にも映えるのは教導団の無骨な中年よりネットアイドルたる私、海音シャナですよね☆」
 そう。かつてコスプレイヤーだった佐那はネットアイドルとして同人イベントなどでも大きな人気を博していた。そして2018年発行C93発売のコスプレ写真集、海音シャナ『マグロフィーバー』を皆に配った。
「おお、佐那さんが海音シャナだったのか! すごい。あとでサイン書いてくれ」
 伝説のコスプレイヤーの復活にフレイは思わず興奮してそう話す。
「ええ、いいですよ、というかサインペンがそこの机にあるので今書きますね」
 シャナは笑うとサインペンをとって写真集の表紙にサインを書いた。
「おお、ありがとう、シャナさん。家宝にするぜ」
「それはどうも」
 フレイの言葉にシャナは微笑んだ。
「我は足利 義輝(あしかが・よしてる)。塚原卜伝より授けられし奥義「一の太刀」をイーグリットでも見せてご覧にしんぜよう」
 『剣聖将軍』の二つ名を持つ足利義輝は、その呼び名のとおり武道の達人である。室町幕府第13代征夷大将軍であり、伝説の武将であった。佐那の霊感に引き寄せられてパートナー契約をむすび、現在に至る。
アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)。ご存知のように天学の生物の教師です。ストリングスとしてヴァイオリンをやらせていただきます。かつては旅の一座で楽士をしていました。当時はフィドルでしたがね……まあ、フィドルもヴァイオリンなのですが、どちらかと言えばやはりフィドルですね。アイリッシュは得意ですよ。夕餉の席ではトラディッショナルな曲をご披露いたしましょう。それから、こちらがパートナーの……」
「魔導書のヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)よ。個人的にはカラヤンが大好きねぇ……敵の音楽にはDies irae(怒りの日)で対抗しましょ」
 彼女……ではない、彼は通称ヴェル。オネエ言葉のクラッシックの名曲のスコアが、アルテッツァの血を吸って魔導書と化した存在だ。ちなみにオカマと呼ばれると切れるが、フレイとアポロンが男の娘なので別段顔立ちが端正で女性に見えなくもないヴェルのその言葉遣いを気にかける人はいなかった。
四谷 大助(しや・だいすけ) 。パートナーが参加するのでオレはイーグリットの操縦をするよ」
 子供の頃から兵士として戦場に立ってきた大助は、穏やかな性格を演じているが基本的に仲間以外には無愛想である。
「私はグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)よ。ヴォーカルを担当するわよ。フレイ、相棒としてよろしくね」
「ああ、よろしく頼む。勝利の歌をみんなに聞かせてやろう」
 グリムゲーテとフレイが握手をする。
「私は整備科の長谷川 真琴(はせがわ・まこと)です。未沙さんと一緒にイコンを整備します。皆さんが無事に帰って来られるように精一杯頑張りますので宜しくお願いしますね」
「あたいが真琴のパートナーのクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)だよ。まあ、整備はあたいに任せな」
 真琴はその優しさと整備の姿勢から整備科の女神と呼ばれ、クリスチーナは乱暴だが情に厚いその性格から姐御と呼ばれている。二人は中堅レベルの整備員で、真琴はそろそろ整備班長を任されてもいいのではないかと言われているくらいである。
 他にも何人かのヴォーカル・コーラス隊とストリングス隊のメンバーが自己紹介をし終えると、ゲネプロ――本番と同様の通し稽古――を開始したのだった。