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カノンを取り戻せ!

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カノンを取り戻せ!

リアクション


4


『やっほー! ミレリア・ファウェイちゃんよん♪ 洗脳搾取とフヌガヌガ……ちょっと、何するのリリア』
『それ以上は言っちゃマズイですから、色々と。とりあえず、洗脳開始です!』
 BGMとともに空中に巨大なミレリアのホログラフが投影される。
 そしてミレリアの歌が始まった。
「KAORIっ!」
「はい。プログラム展開!」
 茉莉の指示でKAORIが解析用のプログラムを展開する。


私には 歌しかないの
だから歌うわ 心の底から
私は 小鳥のように
歌うわ 心の底から

愛は なんと醜くて なんと美しいのでしょう
愛は なんと惨たらしくて なんと素晴らしいのでしょう
人は 生きてゆくために 歌うわ 愛を
人は 死にゆくために 歌うわ 愛を

遠く遠く懐かしい日々 パパとママから受け取った愛
いつの日か 返しましょう この世の みんなに

私は歌うわ 小鳥のように
私は歌うわ 小鳥のように

晴れた この空の先に 涙濡れる空がある
だから 私は歌うわ 心の底から
命は なんと儚くて なんと美しいのでしょう
命は なんと脆くて なんと逞しいのでしょう

私は命の限り 声を枯らして
私は力の限り 生を歌うわ
この地球のどこかで 今も死んでいく灯(ひかり)
それでもそのどこかで 生まれる灯

だから 涙しながら 愛を 命を 理想を歌うわ
夢が いつの日にか 夢物語じゃなくなるその時まで
私は歌うわ 小鳥のように
私は歌うわ 小鳥のように……

 それはいつもの電波ソングではなく、鏖殺寺院によって救われて初めて暖かさを知ったミレリアの心の底からの歌声だった。

『くっ! ミレリア・ファウェイ! それだけの『歌』を持っていながらなぜテロリストの味方をするの! 好きだったのに。尊敬もしていたのに。だからこそ私は、アイドルを汚す貴方を許せない!』
 杏が叫ぶ。
『尊厳ある大日本帝国の末裔の貴方がそんな事言うの!? あたしのおじいちゃんは明治天皇陛下の写真を大切に飾っていたわよ! 所詮今の日本は白の走狗かしら? アメリカの原住民を虐殺し、中東の国々を侵略し、今度はパラミタという新大陸を侵略するアメリカの犬に成り下がったの? 地球人がパラミタから居なくなれば寺院だって戦争はしないわよ。寺院は弱者の味方よ!』
『巫山戯ないで! 金銭や食料と引き換えにその弱者に強化人間手術を強制しているのは何処のどいつよ!!』
『貴方こそ巫山戯ないでください! 私は自分の意志で強化手術を受けたんです。私たちを、飢えから、病から救ってくれたのはアメリカでも日本でもない! 鏖殺寺院よ! 私たちにとっては鏖殺寺院が正義よ! 虐殺者に、侵略者に加担している分際で偉そうなこと言わないで!』
 それはいつもはおとなしいはずのリリアからの罵声だった。
『テロリストに正義なんて!!!』
『私だって貧しさで強化手術を受けました。自分たちだけが特別だと思わないでください!』
 地味で控えめなモブキャラ要員のはずの早苗が抗議の叫びを上げる。
『保険や生活保護が万全な国の貧しさなんてたかが知れてるでしょう! 私たちは、この世の生地獄から! 鏖殺寺院に! 救われたのよ!』
 ミレリアの『歌』に他の機体が抵抗できないでいる中、杏と早苗の【ポーラスター】だけが激しく叫んでいた。
 早苗とリリアが激しく舌戦を繰り広げる。
『ちょっと、売り出し中のアイドルたちはなにやってるのよ! S@MP! 歌いなさいよ!』
 杏がフレイに発破をかける。
『お、おう! コンマス!』
『【ギター1】了解! さあさあお客さん、お代は見ての、いや、聞いてのお帰りだ。楽曲提供赤城 花音(あかぎ・かのん)でデウス・エクス・マキナ!』
 姫宮 和希(ひめみや・かずき)がリードを取る。
 疾走系ロックの音楽が流れ出す。
「アイ・アム・ミュージックファイター! 行くよぉ〜♪」
 花音がシャウトする。


運命の歯車が動き出す 織り成す鼓動のスピリット


 花音が元気良く歌い出す。


蒼空を翔ける剣を手に 今 世界の創造に立ち向かう


 グリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)とフレイが声を重ねて歌い出す。
 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)のドラムが激しくリズムを刻む。
 七尾 蒼也(ななお・そうや) の歌声が優しく響く。


迷い戸惑い悲しみ 暗闇に堕ちないで


 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)のベースが重低音を奏でる。
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)のコーラスがハルモニアを紡ぎ出す。


自分の心に問い掛けて 答えの意味だけ闘いがある 


 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)富永 佐那(とみなが・さな)こと海音シャナのキーボードが演奏に厚みを加える。
 穂波 妙子(ほなみ・たえこ)のギターが和希にギターと対を成してメロディを奏でる。


命の音色……生きる輝き解き放つ刻


 イケメン部隊と【ブレイズ小隊】が戦闘を始める。
 10人の特殊強化人間対天学と他学校の混成部隊。涼司たちの蒼空小隊が加わっても敵の下にはそれぞれ4機のシュメッターリングがついている。圧倒的に不利だった。


僕らは目覚める フロンティアへ


「全軍突撃! 涼司校長に続け!」
 ぼさぼさの金の髪に金色の瞳、褐色の肌の顔に傷のある巨漢のドラゴニュートガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)が叫ぶ!
アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)のアコーディオンが響く。


さあ 戦火の悪夢を断ち切ろう 過ちを撃ち抜く覚悟を胸に


 彼らの織りなすハルモニアはミレリアの『歌』の効果を打ち破り味方の士気を上げる。
「【リベレイト小隊】も続けー!!」
 レオが叫ぶ。カノン救出のために組織された小隊だがこの劣勢な状況では温存していくわけにもいかない。数で劣る天学側は戦力の一点集中で敵陣を突破するしかなかった。


真っ直ぐな想い加速する 君の強さへ変わって行く


『単独行動はするなよ! サポートし合うんだ。連携を忘れるな。歩兵はイコンを盾に攻撃しろ!』
 和希が叫ぶ。学ラン姿でギターを弾くホログラムが格好良い。
「ポイント425が手薄だ。ソフィア、データを全機に転送!」
 ルースがパートナーのソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)に指示を出す。
『了解。こちら【ベース1】。データを転送します。各機ポートを開放してください』
 転送されて表示されたポイントに天学側のイコンの攻撃が集中する。
 三機のシュメッターリングが落ちた。

夜明けの眩しい光が導く 流した涙が虹色に煌いて


「ミレリア、覚悟!」
 前回、前々回のミレリアとの戦闘記録を何度も研究・分析し、ミレリアは『その才能故に敵の攻撃を直感的に避けている』と言う事にたどり着き、その才能を逆手に取る戦法を考えた朝霧 栞(あさぎり・しおり)は軽く一撃を加えてからミレリアが『避ける』と予測した方向に攻撃を加える。
「きゃん!」
 羽子板の羽がミレリアのシュヴァルツ・フリーゲに命中する。だが、もともと攻撃力が低い羽子板はそれほどダメージを与えられなかったようだ。


終末に奇跡が舞い降りる 灯した勇気……明日を掴み取るんだ


 コーラスが終る。
 戦場の士気は逆転し天学側が戦域を支配していた。
「こちら【グリーンアイズ】。支援します」
 エリスが上空からイーグリットに狙いを定めてマジックカノンを発射する。
 その攻撃は命中しないがイコンの機動予測を容易にさせる。
「いっくよー!」
 そこに美羽がダブルビームサーベルで舞うように斬りつける。
 イーグリットの腕が破損しビームサーベルが使えなくなる。
「空母の護衛……とも思ったが必要無さそうだな」
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)は随伴飛行歩兵として曙光銃エルドリッジで敵の随伴飛行歩兵を潰していた。
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)も随伴飛行歩兵としてS@MPの周りを飛んでいた。疾風突きで敵を落としていく。
 サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)は天のいかづちで敵の飛行能力を奪い手っ取り早くて機を排除していく。
 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)は解析資料集で見つけた駆動系の穴にスタンスタッフを叩き込んでみる。回路がショートして操縦不能になるイコン。パラシュートが二つ開く。
 影野 陽太(かげの・ようた)もまた随伴飛行歩兵の一人。魔道銃で敵歩兵を落としつつ涼司の機体を護衛する。
(環菜……カノンちゃんを取り戻す手伝い、するよ)
 陽太は恋人にそう念じながら敵の命を奪っていく。
 葉月 可憐(はづき・かれん)はレオの機体に命綱をつけてしがみついていたが、イコンの高機動に耐えきれなくなり宮殿用飛行翼で空を飛び魔道銃で敵イコンを攻撃する。
 関節系にダメージが蓄積し、一機のイコンがバランスを崩す。
 その亀裂をアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)がサイコキネシスで広げる。
 所持イコンが飛行不可能な211C【鋼竜】のためイーグリットを借りていたローザマリアは戦場を大きく迂回して寺院基地に近づくと予め設置しておいた偽装で爆発して撃墜されたように見せかけイコンを近くの丘に隠して着陸した。
 エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)が撃墜した魔女を囚えて基地の道案内をさせる。
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)はローザマリアの護衛として後を付いて行く。
 上杉 菊(うえすぎ・きく)は作戦終了までその場でイコンを守り続ける。
 鏖殺寺院のイコン部隊は押されているように見せかけながらだんだんと戦線を後退させて基地付近に誘いこむ。
 そして十分に引き付けると基地から対空ミサイルが発射された。
 イコン各機はチャフとフレアを放出する。
 それによって大半のミサイルはイコンまで届かなかったが何割かは命中し、数機が撃墜される。
「まじーな。コームラントはミサイルの発射台をねらえ!」
 涼司が指示を出すとコームラントは戦場から一度離脱してからミサイルの発射台に狙いをつける。
 幾本ものビームがミサイル発射台に命中し爆発を起こす。
 もともと対艦対要塞用に作られたコームラントである。その威力は凄まじかった。