葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

ミッドナイト・シャンバラ3

リアクション公開中!

ミッドナイト・シャンバラ3

リアクション

 
 

放送前

 
 
「はいはいはい。さすがにもう仕事に慣れてきたでしょ。どんどんハガキ整理してね」
 シャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)がパンパンと手を叩いて、バイトの日堂 真宵(にちどう・まよい)アーサー・レイス(あーさー・れいす)を急かした。
「わっかりやした、親方ー」
「何よそれ。とにかくオンエアまで時間がないんだから、急いでね」
 意味もなく敬礼する日堂真宵に言い渡すと、シャレード・ムーンが副調整室へと移動する。
「ふう、やってらんないわよね。でも、やんないとおまんまが……。みんな、びんぼーが悪いのよー」
 雇い主の姿がいなくなったとたん、テーブルの上に腰をかける日堂真宵であった。片脚だけ胡座を組んでサボり始めるが、さすがに何もしないと後で逆さ吊りにされそうなので渋々ハガキの山を調べ始めた。
「ええと、何よ、このハガキ。書いたのは人外?」
 @□ @@ □@
  @@ @□ □@
  @@ □@ @□

 日堂真宵が手に取ったハガキには、猫の足跡がぺたぺたと捺してあった。
「アーサー、あんたなら読める?」
「無理デース。そんなこと、一目で分かるはずデース」
 日堂真宵に謎のハガキを突きつけられて、アーサー・レイスが困惑した顔で言い返した。
「そう。チッ、人外なら人外の言葉が分かると思ったのに……」
 日堂真宵が陰で悔しがった
「何か言いましたカー?」
「いえ、なんにも」
 耳聡く訊ねてきたアーサー・レイスにむかって、日堂真宵がうそぶいた。さっさと没箱に謎のハガキを投げ入れると、次のお便りを手に取った。
 なんだか封筒が無駄にごてごてとした模様で飾られている。しかも、封はなぜか糸で縫ってある物だ。
「変な封筒ねえ」
 糸を引っぱって封を開けると、封筒があっけなくバラバラになって中からごてごての極彩色の模様に彩られたカードが出てきた。
「ええと、差出人はペンネームNDK??……」
「恋色ってどんな色なんだろうな?」
 カードには、ただ一言そう書いてあった。
「没!」
 そう叫ぶと、日堂真宵はそのカードを没箱に直行させた。
「次!」
 ちょっと苛つきながら、次のお便りを手に取る。
 今度は、無駄にでかい封筒だ。いったい何が入っているのだろうか。
 中を見てみると、一回り小さい封筒が入っていた。
 ちょっと嫌な予感がする。
 その一回り小さい封筒を開けてみると、中からさらに一回り小さな封筒が出てきた。激しく苛つきながら、日堂真宵がそのさらに一回り小さな封筒を開ける。すると、さらにさらに一回り小さな封筒が中から出てきた。
「キー!!」
 やけになって、そのさらにさらに一回り小さな封筒を開くと、中からさらにさらにさらに一回り小さな封筒が……。
「ふざけんなー!」
 残った封筒を、日堂真宵が一気に引き裂く。すると、最後の封筒から、ポロリと小さなカードが転がり落ちた。
「ペンネーム『NDK?』。
 そんな事よりラーメンの話をしようぜ!」

 ぼっ。
 呼び出した炎の聖霊に、無言で日堂真宵がカードを手渡す。あっという間にカードが燃え尽きた。
「もー嫌。アーサー、後はあなたが読んで」
「仕方ないデースネー」
 またも、ペンネームは「NDK」。どうやら、三つとも同じ投稿者らしい。
「シャ■ードス■ーサイ■を教■■■■」
 手紙には何やら真っ赤な染みがあって、何枚かある便箋がすべてくっついてしまっている。
 血糊だ。
「質の悪い血デース。この血の主は、カレーを食べていまセーン」
 吸血鬼なので血など物ともせずにアーサー・レイスが言った。
「とりあえず読んでみマース。ええと、日堂真宵のスリーサイズは教え……」
 最後まで適当な想像でアーサー・レイスが手紙を読む前に、日堂真宵がそれを焼き捨てた。
「なかったことにしなさい」
「了解デース。では、次のハガキチェックにいきマース」
『PN:自我の目覚め
 
 我思う故に我あり。』

「それだけ?」
「それだけデース。緑の字で書かれていて、消印もありまセーン」
「郵便料金不足なんて言語道断。没!」
 いや、なぜそんなハガキがここにあるのかの方が問題だとは思うのだが、放送に使えないという意味であっさりと没にされてしまった。
 こうして、シャレード・ムーンの手に渡る前に、バイトたちの手によってハガキは選別されていった。
 
    ★    ★    ★
 
 ツーツー、ツーツー……。
「やっぱり、アーデルハイトさんつながりませーん」
 何度も携帯から電話をかけていた大谷文美が、ついに諦めてシャレード・ムーンに報告した。アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)にゲスト依頼が来ているのだが、なぜか本人に連絡がとれない。
「しょうがないわねえ。なんとかするわ。さあ、じきに時間だからスタンバイしましょう」
 シャレード・ムーンにうながされて、バイト勢がそれぞれの担当部署に散った。
「その前に、閃きまシータ。没はがきをカレーにしてしまうコーナーを作るのデース!」
「却下。早く、CMとかセットしておいてよ」
 アーサー・レイスの提案に、シャレード・ムーンはにべもない。それを見て、日堂真宵がニマニマしていた。
「むー、こうなったらハガキを混ぜておくのデース。ぐふふふふふ……」
 さりげなく取り出したハガキを、今回もふつおたに混ぜるアーサー・レイスであった。
 「カレーを食べようカレーを食べれば健康になれマース、カレーを食べればスリムになれマ−ス、カレーを食べれば賢くなれマース、今カレーがブーム! カレーが苦手だったリン・ダージ(りん・だーじ)さんもついにカレーにはまったのデース P〜C〜♪(パラミタカレー普及機構)」