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リアクション
1.
【4班】
次々とバイクを降りる不良たちを前に、由良叶月(ゆら・かなづき)は喧嘩の体勢をとった。
風が吹く。向かう敵の手には飯ごう炊さんに似合わない物騒な武器。
「叶月! そなたの後ろは任せなさい!」
と、尼崎里也(あまがさき・りや)が叶月の背に背を向けた。
そばにいた鬼崎朔(きざき・さく)もまた、不良たちに敵意を向けていた。不良が女生徒に絡んでいる様子を、彼女もまた目撃していたのだ。
「それ以上女性に手を出すなら……判官である私が、直接手を下しますよ?」
と、警告する朔。彼女の経験上、女性に手を出す輩は誰であっても許せなかった。
しかし、相手にそれが通じるわけはない。
「やっちまえー!」
それを合図に不良たちが叶月たちへと襲いかかる。
「……さて、可愛い女の子に手を出していたのはどの顔でしたか」
と、『殺気看破』で襲いかかる相手をかわしていく朔。そして出される『死刑宣告』、判決は――臨死刑。
「女の子に手を出すなら、誰だって構いませんけどね!」
『歴戦の武術』を応用し、『即天去私』で一人残らずなぎ払う。
叶月は殴りかかってきた不良をその瞬発力で避け、里也がそれを死なない程度になぎ払って脱落させていった。
しかし、三人でこの喧嘩に勝てるはずもない。明らかに叶月たちは劣勢だった。
「すべては可愛い子のために!」
――朔と里也の目的は、叶月のそれとは若干ずれていた。
【2班】
「今回は鶏のひき肉を使おう。これなら大きい小さいで喧嘩しなくて済むし、あっさりしたカレーに仕上がるはず」
と、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は言った。
「野菜嫌いな人のために、じゃがいもやにんじんは小さめに。溶けて原型が崩れるくらいが良いかな」
「なるほど。では、ご飯は竹槍の竹で炊きましょうかね」
と、言葉通り竹槍を手にする魯粛子敬(ろしゅく・しけい)。
一節分ほど切って、飯ごうの代わりとなる形を作っていく。これでご飯を炊けば、竹の匂いがほんのり香るというわけだ。
「じゃあ、私はスパイスを」
それまで彼らの様子を見ていたミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)がスパイスの作成にとりかかる。
その頃、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は参加者へ好物を聞きに行っていた。
それらを用意して出来上がったカレーにトッピングすれば、喜ばれるだろうと考えたのだ。
「薪はまだですかねぇ」
と、魯粛は米をとぎながら周囲を見回した。
トマスもまな板から顔を上げて返す。
「そろそろじゃない? そんなに遠くないはずだし……あ、もしかしてあれは」
はっとするトマスの視線の先には、彼が密かにリスペクトする人物がいた。
そこへ戻ってきたテノーリオが、トマスの見ている方向へ視線をやって呟く。
「ああ、あの人の好物は確か……」
はっと我に返るトマス。俄然やる気が出てきた様子で、テノーリオの言葉に耳を澄ませた。
「絡んでる奴だけならまだしも、それ以外の奴まで呼んでどうする……」
と、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は薪を地面へ置いた。
盛大に喧嘩をしている不良と叶月たちに、エヴァルトは加勢することを決めていた。それというのも、試したいことがあるのだ。
「行っちゃうんですか、お兄ちゃん」
と、ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)はエヴァルトへ声をかける。
「ミュリエルは下がっていろ」
そう返して、彼は喧嘩の中へと駆けていく。
「……せっかくの遠足なのに」
小さなミュリエルに出来ることは多くなかったが、自分だけ傍観しているのも納得できなかった。
『メンタルアサルト』で奇妙な構えをとったエヴァルトに、不良たちが動揺する。
「っ、何だこいつ――!?」
その隙に『神速』と『ドラゴンアーツ』を駆使した動きで、ほぼ零距離まで詰め、相手の懐に潜り込む。
とっさに攻撃しようと武器を振り上げた相手の腕を『行動予測』で抑え、エヴァルトは相手の腹に手を添えた。
そこから足を踏み込み、腕や腰の振りを揃えては、『神速』によるパンチを打った!
動きはわずかで決して派手ではなかったが、その威力は強烈だった。いわゆる寸勁と呼ばれる技である。
「相手に張り付くように動いて攻撃を出させず、かつ自分はその状態でも十分発揮できる力を持つ……地味だが、今のところは、それが俺の目指すものだ」
と、エヴァルト。
「女性に無礼を働くような奴は、片っ端から俺の実験台にしてやる。覚悟するがいい!」
不良たちの間にどよめきが広がると同時に、殺気がじわりじわりと増してくる。
「『変身!』」
ミュリエルの服が変形し、彼女は魔法少女の姿へと変わった。しかし肌の露出は一切無いタイプだ、大きなお友達には残念なところである。
そして喧嘩の最中へ突っ込んでは、『シューティングスター☆彡』を使って空から星のような物を落としていく。
その攻撃に、不良たちが対処できず逃げ惑うと、わずかに形勢が逆転し始めた。
【3班】
イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は本格的なカレーを作ろうとしていた。
他の班が市販のルゥを使う中、イコナはスパイスを調合して手製のルゥを作っていた。
それと平行して御茶ノ水千代(おちゃのみず・ちよ)は鼻歌交じりに具を調理していた。こちらの班が使用するのは合い挽き肉だ。
しかし、手つかずの具が一つだけあった。
「あの、それは……?」
と、米を研いでいたティー・ティー(てぃー・てぃー)が尋ねる。
すると千代はにっこり笑った。
「これは後で炒めて、そのままカレーに入れるのです」
「じゃがいも、丸ごと……ですか?」
「ええ」
ティーは目を丸くしていたが、千代がそう言うのなら、そういったカレーだって存在するのだろうと思った。
女性陣がそれぞれに調理をがんばる中、源鉄心(みなもと・てっしん)は騒ぎの起きている方向を気にしていた。
先ほど見た限りでは、何人かの生徒が不良たちと喧嘩をしていた。それも互いに素手という、荒っぽい喧嘩だ。
それも、時間を経るごとに参加者は増えている様子。
わざわざ自分が行くこともないだろうと鉄心は考え、のんびりとカレーの出来上がりを待っていた。
イコナが鍋にルゥを投入し、千代がそれに合わせて具を入れようとして手を止めた。
「そのルゥは?」
「分けて入れていくのですわ。そうすれば、香りが飛ばなくなるそうです」
思わず感心し、具を鍋へ入れる千代。
「あとは愛情をたっぷり入れて煮込むだけですわね」
すると今度はイコナがはっとした。
「愛情……忘れてましたわ」
再びカレー粉を投入し、ぐるぐると鍋をかき回す。
「まだ間に合いますわ、イコナさん」
先ほどまで気を張っていたイコナは、千代に微笑まれて初めて、ふっと気を抜いた。
「あとはじゃがいもを皮のまま炒めましょう」
「はい、お手伝いしますわ」
仲良くカレーを作る二人を見て、ティーはちょっとだけ寂しくなった。一人でご飯を炊くのも良いけれど、誰かと一緒に作業をする方が楽しい。
「カレー、順調にいってるようだな」
と、鉄心に声をかけられてはっとする。
ティーは彼へ顔を向けると、控えめに微笑んで頷いた。
「はい……とっても、美味しそうです」
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