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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

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乙女の聖域 ―ラナロック・サンクチュアリ―

リアクション

     ◆

 孝高が薫を誘った公園――。本来ならば彼等が行くはずだった公園に、彼女たちの姿はあった。
「こんな暑い日は水遊びじゃぁっ!」
「わかったわよ……わかったから水かけないでよぉ!」
「…………」
 公園内に備えられている大きな噴水のその中で、南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)は膝まで裾を幕って共に水遊びに興じていた琳 鳳明(りん・ほうめい)に、何やら叫びながら水をかけまくっていた。そしてそれを日陰があるベンチに腰掛けながら伺っていた藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)は、別段止めるでもなく、ただただ見つめているだけである。
「よし! 若いもんには負けていられん! わしも行くぞ!」
 天樹の横に座っていた天津 麻羅(あまつ・まら)はそう言うと、「わあぁぁぁぁ!」などと叫びながら二人のいる噴水へと走り始める。
「あぁ……行っちゃったぁ……私も行きたいなぁ……でも、今日お気に入りのお洋服だし、水浸しは…なぁ」
 噴水へと向かう麻羅を見送る形で、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が一度、ため息をつく。隣に座る天樹は彼女との肩を指でとんとんと叩くと、持っていたホワイトボードに何かを書き、それを緋雨に見せた。
「何々……『足だけでも浸かって来れば?』かぁ…うん。まぁ、そうしたいのもあるんだけどねぇ、ほら。鳳明ちゃんの今の状態考えるとねぇ…」
 苦笑。
『だったら、今度は水着を持って遊びにくると良いよ』
「そうね、そうするわぁ……って、それにしても暑いなぁ。日陰に居るのに此処まで暑いと、ホント動く気なくしちゃうかも」
「うわっ! こら麻羅! 違う! わしじゃなくて鳳明に水を……!」
「ええぇい! どっちも水攻めじゃぁ!」
「着替え持ってないんだけどぉ!」
「問答無用!」
 どこから拾ってきたのか、彼女は子供用のバケツを使い、鳳明とヒラニィに水をかけまくっていた。
「うーん…てか、なんかちょっと不公平じゃね?」
「何を言うか、ぬし等の実力不足じゃ」
「兎に角バケツは禁止ぃ!」
 バケツを取り上げた鳳明が、しかし何やら不敵な笑みを浮かべる。
「ふっふっふ! なんちゃってぇ! そらっ、お返しよ!」
「ぎゃー」
「ぬっ! ぬかったわー!」
 と、そこで緋雨が鳳明に声を掛ける。
「ねー! 電話! 鳴ってるよ!」
「あ、うん! 今行くー!」
 返事を返した鳳明がバケツを没収したまま天樹、緋雨の座るベンチに向かって歩きだした。
「わしが見つけたバケツ……」
「詰まらんなぁ……」
 麻羅とヒラニィがそんな事を呟くが、電話なので仕方がない、と二人は再び遊び始めた。
「もしもーし。あぁ、衿栖ちゃん? どしたの? うん、今? 今ツァンダの公園にいるよ。 ……うん。…え? 誘拐? わかった、今から行けばいいんだよね? うん、場所? ――」
「誰からだろう」
『知らない』
「うーん…って、あれ? それ、此処の近くじゃない? 確か此処にくる途中で通った様な…銃声? 聞こえなかったけど。まぁいいや、そしたら今から行くね、うん。はーい」
 話を終えた彼女に緋雨が尋ねる。
「どうしたの? 何か急用?」
「うん、前にちょっと知り合った人が、なんだかわかんないけど誘拐されちゃったみたいでさ」
「誘拐!?」
「うん。で、今からその人たちと合流して犯人探しに協力しちゃおうかなって思ってね」
 離しながら身支度をする彼女。緋雨はその話を聞いて何かを考え始め、しかし案外にも時間は必要なかったのか「よしっ!」と自らの考えに一区切りを着けて立ち上がる。
「私たちも手伝うよ、それ」
「ホントに!? 良いの?」
「勿論!」
 「鳳明ちゃんは仕度してて」と言うと、彼女はそのまま噴水の方へと向かう。
「二人ともー、そろそろ行くよー」
「えー!」
「嫌じゃー!」
「我儘言わない! 人助けなのよ」
「ぶー!」
「仕方がないのー……」
 頬を膨らましながら噴水を後にする二人。その頃には鳳明の仕度も済んでいたらしく、彼等は一路、雅羅たちが集まっているウォウルの部屋へと向かう事にした。