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リアクション
◆
彼等がラナロックの暴走を何とか止めようと奮闘をしているのを、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は偶然に見かける。同時に、大体ではあるが事態も把握したらしい。詰まる所で彼女は、こっそりと雅羅たちの説明を耳に挟んだ、と言う訳だ。故に彼女は走った。自分のパートナーであるレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)へと報告する為。
彼女は走りに走る。息切れをしながら、しかし決して止まる事はせずに走るのだ。
そこまで重要な事で、そこまで緊急の事かと聞かれればそうでもないが、しかしそれは、彼女の優しさなのだろう。故に走る。ひたすら走る。知人が声を掛けようがなんのその。
走りに走って到着したのは、とある建物。
「レティ、なんか外が凄い事になってるみたい」
「うーん?」
首を傾げるレティシアが、物凄い勢いで部屋へと入ってきたミスティの方を振り向く。未だぜぇはぁと肩で息をしながら、懸命に息を整える彼女を見たレティシアは更に首を傾げた。ようやっと息が整ったのか、ミスティが膝に当てていた手を額に向かわせ、汗を拭いながら口を開いた。
「誘拐事件があったみたい。しかも結構込み入った事情付で」
「込み入った事情、ですか」
きょとんとしたままにミスティへと続きを促すレティシア。
「誘拐されたのは、空大に行ってる先輩みたい。それで、その人のパートナーのラナロックって人が怒って暴れたみたいよ」
「そりゃあ暴れたくもなりますよねぇ」
「ま、まぁね。で、協力してくれる人とかを集めて犯人探しに行くらしいのよ」
「そうですかぁ。何か協力してあげたいですねぇ」
腕を組み、考え込む彼女にミスティが「これは――」と、言葉を挟んだ。
「あくまで私の考えなんだけど……ラナロックって先輩、結構暴れてたみたいなの。でね、そんな人が犯人見つけたら不味いと思うのよね。どう考えても」
「確かにそれは…そうですねぇ」
「だからね、何か彼女が犯人と会わない様に時間稼ぎを出来たら良いんじゃないかなって、そう思ったのよ。そこでレティ、何か良い案ないかな?」
「いい案……ですかぁ」
再び考え込んでいる彼女。窓の外を見ながら思考を纏めようとしていると、其処に見知った顔を見つける。彼女は何かひらめいたらしく、慌てて部屋を飛び出した。
「……レティ?」
既に言葉を向けた本人がその部屋に居ない為、必然彼女のそれは独り言になり、更にレティシアが取った行動の理由を知らないままのミスティは、首を傾げたままに今しがたレティシアが飛び出して行ったドアの方を見つめるだけ。するとその数分後の後、彼女は帰ってくる。とある男を連れて。
「ちょ、ちょっと待て! 何が何だか訳がわからん。とりあえず事情をだなっ……」
「堅い事は言いっこなしですよ」
レティシアが連れてきたのはレン・オズワルド(れん・おずわるど)。どうやら彼、全くと言っていい程に事情を説明されていないらしく、いまいち自分の身に起こっている事を理解出来ずに困っていた。
「レンさん……ごめんなさいね」
「ん? あぁ、とりあえず事情を説明してくれないか?」
ミスティに説明を要求した彼に対し、二人は簡単に事情を説明する。そしてそこで、レティシアは先程外を歩くレンの姿を見てひらめいた案を付け足した。
「要はその先輩が犯人さんと鉢合わせにならなければいいんですよねぇ。って事は、此処で誕生パーティとかやっちゃえば、それの準備って事で時間、稼げますよねぇ」
「まぁ、そうなるな。でもどうするんだ? そんなに感情的になっている相手に向かって『誕生パーティ開くから来てください』とでも言うのか? それこそ見向きもされそうにないと思うが」
「そうよね、レティ。実際のところはどうしようと思ってるの?」
「当たり前ですよぉ」
さも当然、と言った表情になり、そこで言葉に一区切りをつけたレティシアは、満面の笑顔になって言い放った。人差し指を立て、何の躊躇いもなく、目の前の二人に言い放つのだ。
「拉致って来れば良いですよねぇ。その方が簡単ですし、相手の出方なんて関係ないですしねぇ」
「ら、拉致!? 何考えてるの? その先輩結構危ないんだってよ? 誰がそんな役やるの?」
「それにだな……そんなに物騒な発言をにっこにこしながら言っているお前も何か間違っている気がするぞ?」
ミスティとレンの言葉がどこまで伝わっていたのか、彼女はしかし、知らぬ存ぜぬ、と言った様子でひらひらと掌で空を切る。
「そう言うのはミスティに頼もうと思ってますしねぇ。物騒って程の事でもないと思うんですよねぇ」
思わず言葉を失う二人を余所に、彼女はふと、新たに何かに気付いたらしい。「そう言えば……」などと言いながら、部屋の隅に置いてある自らのバッグへと近寄って行き、何やらごそごそと中をあさり始めた。
「あぁ、あったあった。うん、これで準備は万端ですねぇ」
再び笑顔を見せる彼女の背中に、二人は言葉を投げかけた。
「レティ……? 今度は何を企んで……」
「なんだ? 服? それは何かの衣装なのか?」
二人はレティシアの返事を待ち、そしてレティシアは嬉しそうな笑顔を二人に向けながら手にするそれらを広げた。
「とりあえず此処に、なんと偶然にもメイド服があるんですよねぇ。更に執事さんセットもあるんですよ。とりあえずあちきたちは、これに着替えて準備をしましょー」
「あちき……たち? 達って事は、私も、レンさんも着るの?」
「勿論」
「待て待て、おかしだろ。何故俺がそんなフリフリした物を着なくてはならないんだ?」
「え、レンさんはこっちの執事さんセットをご着用いただくんですよ」
早合点だった事に気付いた彼は一度顔を赤らめて俯くが、しかし再びそこで疑問が浮かんだらしい。慌てて顔をあげた。
「ちょっと待ってくれ。一つ疑問だ。これがどうにも引っ掛かるんだが……まさかそのラナロックって子と、俺たちの四人でそのパーティを開くのか?」
「違いますよ。ミスティの話では結構な数の協力者がいるらしいんですよねぇ。で、当然その人たちもこの際呼んじゃおう、と。あ、レンさんの方でも連絡取れる方呼んでも貰って構いませんよ。と、言うか呼んでください」
「…………」
彼は暫く返答に困ったが、しかし“これも人助け”と割り切ったのか、不承不承に頷いた。
「さて、ではみんなで今日一日を盛り上げて行きましょうねぇ!」
元気よくレティシアが拳を空に掲げた。
「お、オーウ……」
「ガンバリマース……」
二人はため息をつきながら、返事を返す。
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