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リアクション
2.ひとつがふたつで、ふたつがひとつで
◆
そこは随分と街から離れた場所だった。随分と栄えたであろう街並みは、今では無残な廃墟となっていて、人々が住んでいた痕跡はあれど、しかしそれも今は昔。
「おいおい、そんなところで立ってないで中に入ったらどうだい? 日差しも強い、体に悪いぜ?」
”黒ずくめに仮面”と言う体のそれは、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)へと声を掛けた。建物の外、出入り口のところで体を壁に預け、ただぼんやりと辺りを見渡す彼女は、しかし何も言わずに辺りを見渡すだけである。何も言わず――何も言わず。
「……愛想がないってのも、なんだか困り物だな。可愛らしい御嬢さん。飲み物なら入ってすぐの冷蔵庫の中だ。喉が渇けば勝手に取って飲んでくれ。仕事の前にぶっ倒れられたら敵わないからね」
声からすれば男なのだろうそれは、言い残すと部屋の中へと入って行った。
「何だかつれない御嬢さんだな」
「仕事は仕事、公と私をしっかり分けてんだろ。お前と違って良い姿勢だぜ」
「あら、それはそれで面白くないわ。仕事も私生活も、楽しいってことは大切だわよ」
「お前はラフすぎんだよ。ったく」
「やめとけ。個性は言葉に現れる。面が割れたら厄介だ。此処には身内以外もいる……」
刹那がもたれかかる壁、すなわちその部屋には、黒ずくめに仮面の人影が七つ、思い思いの時間を潰しながらその部屋に待機している。
「それより――仕事ではなく、興味本位で協力してくれるってのがいたな。そういや」
黒ずくめの一人がふと、そんな事を呟きながらある一か所を見つめた。習うようにその場の全員がシァンティエ・エーデルシュタイン(しぁんてぃえ・えーでるしゅたいん)に目を向けた。
「おいおい、大丈夫だよ。裏切ったりなんざしねぇって! ちょっと面白そうだから顔突っ込まさせてもらっただけだっつの」
随分と暇だったのか、手にする銃で手遊びしながら窓の外を伺っている彼女は、別段何って事もなく、笑いながら彼らに行った。
「仕事、と言うならば見返りがあって契約がある。こっちとしてもペイを払えばそれでいいし、雇われる側もそれでいい。ただねぇ」
「見返りがないってのは不気味だわさ! 怖い怖い」
「ずばり聞こう。目的はなんだね?」
誰が話す事なのかは不明。何せその為の仮面である。だから彼女――シァンティエも、もう誰に返事をする事もなく、ただただそこの七人に返事を返す。
「そうそう詮索しなさんなって。嫌われちゃうよ? んま、そうさね……何だかわかんねんぇけど楽しそうだから協力しようと思った。それが動機、それが目的。オーライ?」
と、言い終った彼女はしかし、窓の向こうに何かを見つけたのか、笑みを溢して七人に伝える。自分の見える物を。
「おっと、漸く旦那のお出ましかい……ってなんだ、結局あんたらとおんなじ格好してるんだねぇ。いいじゃないか、おもしれぇ」
”旦那”と呼ばれたのは、その場にいる黒ずくめの仮面姿と同じ格好をした、それはそれは大きな躯体の男。
エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)、アーマード レッド(あーまーど・れっど)、ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)の四人を連れて彼等がいる部屋へと向かってきていた。
「――つー訳で、よろしく頼むぜ、お兄さん方よ」
「構いませんよ。ですがね、やるなら徹底的に面白くしなければ、そこに意味はない。この行為、それ自体に意味がない」
エッツェルは口元を歪めながらに答えた。
「加減はするかんね。こっちも仕事、でもその内容だって向こうの命をどうこう、ってのは関係ないんだからさ」
「……今回ノ行動ヲ理解シマシタ。最大限ノ援護ハシマス」
「主公……の…ご用命………ならば」
輝夜、レッド、ネームレスの三人もそれぞれに返事を返す。と、黒ずくめの仮面が刹那の姿を見つける。
「見張りかい、いやぁ、なかなかいい仕事っぷりを期待できそうだな。でもまぁ、此処に敵は来ねぇよ。中に入ろうぜ、此処で立ち話もなんだ」
「……結構。此処で自分の仕事が決まるまで……待機する所存で」
「おいおい、こんなとこで俺等も話せってのかい? そいつぁちっと野暮ってもんだ」
「…………」
「全員揃いましたし、貴女も中に入って話し合いましょう」
「……承知」
仮面の男とエッツェルの言葉に渋々ではあるが納得した刹那が部屋の中に入る。
「遅かったな、エイト」
「そうでもねぇさ、スリー。こっちにだって準備がある」
簡単に会話を交わした彼はしかし、部屋の真ん中に備えてあった壊れかけの椅子に腰をおろし、一同を見渡す。
「良く集ってくれた同志諸君。んじゃあこれから、アンノウン8と協力者全員での意向を決定する。異議があるやつぁ早めに挙手を」
「…………」
「…………」
以降一同に言葉はない。これからの動きを決める話し合い。一連の事件の黒幕による、今後の予定を決める話し合いが始まった。
「っと、その前に、だ。ワン、ウォウルのやつぁどうなってる? 全員が此処に居るって事は、あいつの見張りはないんだろう?」
「それは心配ない。見張り役をかって出た三人が今あちらにいる。問題はない」
「三人?まだ私たちのほかにも協力者が?」
「我々ニ開示サレタ情報ニヨレバ、貴方達ノ総数ハ八名トノ事……」
「あぁ、助っ人が更に三人。ドレス着たねぇちゃんと、なんだか勇ましいねぇちゃん達の計三人……」
椅子に座る男はそう答えながら、しかし何かを考え込む様に言葉を止める。
「実質的な戦力は此処にいる六人、って訳だな。ま、君らに任せればどうとでもなる、とは思うんがな」
刹那、シァンティエに、エッツェル、輝夜、レッドとネームレスを見ながら男は呟いた。
「兎に角……私たちの仕事は」
「あぁ、そうだった。それはこの話し合いの中、後に述べる事にしよう。まずはそうさな――当面の、此処にいる全員が動く内容について、だ。特に細かい事は言わねぇが――」
アンノウン8、刹那、シァンティエ、エッツェル、輝夜、レッド、ネームレスの行動が、これから大きく動く事になる。が、それは――彼等以外、この時点では誰も知らない。
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