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リアクション
盆踊り大会
中央には櫓。夜を照らす灯り。流れる音楽。多彩な夜店。
「短期間で準備したわりには完璧よね」
「ああ、苦労しただけは、あったんちゃうか」
八日市 あうら(ようかいち・あうら)と大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、パチンと右手を合わせた。
「オレ達の苦労もねぎらって欲しいもんだ」
2人が振り返ると、あうらのパートナー、ヴェル・ガーディアナ(う゛ぇる・がーでぃあな)とシギ・エデル(しぎ・えでる)、泰輔のパートナーのレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)と讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が2人を見ていた。
「そやなー、おーきにー。僕がご馳走したるさかいに待っとってやー」
「それはありがたいですけど、まさかラムネとアイスクリームではありませんよね」
「レイチェル、鋭いなー。今おいしいトコ見繕ってくるでー」
「泰輔、いい加減にしろ」
レイチェルと顕仁に待ったをかけられる。
「こう毎日、ラムネとアイスばかりではたまらん。……祟るぞ」
「そりゃ困る。美味いし冷たいのになぁ。ところでフランツはどこや?」
「あの上だ」と顕仁は櫓を指差した。
泰輔に盆踊り用の新曲を依頼されたフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)は、徹夜で仕上げると「始まるまで寝かせてください」と櫓に寝袋を持ち込んで寝てしまっていた。
「まぁ、ええか。出番が来るまでは寝かせといたろ」
少しずつ陽が傾き、人も集まり始める。
「そろそろ始めよか。ラストのマラソン盆踊りライブまで、みんな頼むでー」
「おう!」と掛け声を合わせると、それぞれの持ち場に散っていった。
東條 カガチ(とうじょう・かがち)と椎名 真(しいな・まこと)の謎のアイス屋台は、ここでも好調だった。もっとも既にこの辺りでは何が“謎”なのかは不明になっていたけれども。
「うーん、売れるな」
笑顔がいくらか板についてきた椎名真は、にっこり笑ってアイスを渡す。受け取った女性は、いくらか頬を赤くして駆け出していった。
「こりゃあ、早々に売り切れそうだねぇ。終わったら遊びに行こうかー。マラソン盆踊りライブなんてのがあるらしいよぉ」
御凪 真人(みなぎ・まこと)とセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)も盆踊り会場に来ていた。
「これだけの規模の盆踊りはめったに無いですね」
「これならたくさん売れるよね!」
セルファの言葉通り、盆踊り大会の来場者が次々に買って行く。力仕事を言い出したセルファだけでなく、真人までもが汗だくになって、ラムネとアイスクリームを捌いていた。
「真人、ちょっと私に氷術かけてみて。もう暑くって」
「無茶を言いますね」
聞いた瞬間はあっけに取られたものの、考え直すとなかなか良い案に思えた。
「本当に良いんですか?」
「くどいなぁ。自分でされたことに文句を言わないって」
おっかなびっくりセルファに氷術をかける。控えめすぎて数回失敗した後、ようやくセルファの満足できるレベルになる。
「よし! これでもっと売っちゃうよ!」
自分も涼しくした真人と共にさらなる商売に励んだ。
「どうなることかと思ったけど、早くも完売ね」
伏見 明子(ふしみ・めいこ)とサーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)は、屋台に模したトラックの後片付けをしている。獣人の村では、ほとんど売れなかったため。あわてて盆踊り大会にねじ込んだ。
幸い他にもラムネとアイスクリームで出店している人が多く。「村木お婆ちゃんを助けよう」なんて声があがったこともあって、売れ行きは好調だった。
「あとは代金を送るだけか。ねぇ、ちょっと遊んで行こうか?」
「良いけど、程ほどにしておいてよ」
「それじゃあ、いつも私が暴れてるみたいじゃない」
── その通りなんだけどなぁ まぁ退屈しないから良いか ──
2人は夜店の灯りに溶け込んでいった。
「あー、売れないなぁー」
「なぜじゃ! なぜこれが売れんのじゃ!」
似たような叫びが隣同士で聞こえる。クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)と桜葉 忍(さくらば・しのぶ)のパートナーの織田 信長(おだ・のぶなが)の2人。
互いの声を耳にした2人は、黙ってそれぞれの飲み物を交換する。どちらも一口飲んでむせ返った。
「なんじゃ、これは!」
「なんなんですか、これ」
奇しくも、再び似たようなセリフを言う。
「それがなんちゃってビールさ」
「それはドロリンクじゃぞ」
そこに桜葉忍がやって来る。
「どうだ信長、やっぱり売れなかったろ」
「うるさい! 確かに売れはしなかったが、売れなかったのは私のだけではないぞ」
クロセルを表に立たせる。
「ああ、そっちもダメでしたか」
クロセルからラムネを1本買うと、付いてきた粉を混ぜて、手近なコップに傾ける。ビールそっくりの液体がなみなみと注がれた。
「見た目はビールそっくりで面白いんだけど……。味がなぁ、しょう油? 塩?」
「どっちも正解です」
「美味いと思う?」
「見た目には自信があります」
「で、美味いと思う?」
「見た目には……」
「今から普通に売った方がいいぜ。売れ残ったら、村木婆ちゃんが困るだろ」
「…………はい」
クロセルはラムネにセットになっていた“粉”を外すと普通のラムネとして売り出す。ようやくポツポツと売れ始めた。
「さて信長」
「なんじゃ!」
「あっちはあっちで良いとして、こっちはどうするの?」
「大丈夫じゃ! 売ってみせる!
「早々に売り切れてた店も出てるぜ。本当に売れるのか? 売れなかったら村木の婆ちゃんに自分で報告に行くんだぞ」
「…………すまぬ。もうどうして良いやら……」
忍は『最初から素直になれば良いのに』と思ったが、口には出さずにアドバイスのみを言う。
「普通に売るのは無理だな。とりあえず“罰ゲーム用”とか“勇者求む”とかポップをつけて売り出せ。それならなんとかなるだろ」
変なものを普通として売れば、詐欺にもなりかねない。しかし変なものを変として売れば、それなりに買い手も現れるもの。チョコチョコと売れていった。
人だかりがしているのが滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)達が開催しているラムネ早飲み対決の会場だった。
滝川洋介とパートナーの源 静(みなもとの・しずか)、道田 隆政(みちだ・たかまさ)が求めに応じて、ラムネを飲む時間を競う。場合によっては8人なり16人なりを集めて、ミニトーナメントを行ったりもした。
洋介は勝ったり負けたりだったが、無敵の強さを誇ったのが源静。飲む早さもさることながら、独特の風貌と口調で対戦相手のペースを崩すのが滅法上手かった。
道田隆政は「村木の婆殿には世話になってるからのぉ」と気合いの入りようが違う。競ってくる男達を軽く蹴散らしておいて、「フン」と鼻で笑う。すると口惜しくなり、何度も挑戦してきたのを、またも軽く一蹴していた。
「いろいろ賞品も用意してたんだけど、この分なら出費も大したこと無さそうだよ」
「だぁりんがもっと頑張ってくれれば、賞品なんて出さなくても済んだのにぃ」
「2人が強すぎるんだろ。なんつーか、屍累々じゃないか」
確かに会場のあちこちでラムネで腹を膨らませた面々がヒィヒィ言っていた。
「あーら、まだまだ頑張るわよ。これも村木のお婆ちゃんのためですものねー」
その後も2人の連勝街道と、洋介のそこそこの成績が続いた。
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