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死骸の誘う暗き穴

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死骸の誘う暗き穴

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【一章】

 ツァンダの南。街から大分離れた場所に、その洞窟はあった。周囲を瘴気が包み、人を寄せ付けない空気が漂っている。
 そんな洞窟の前に、数十の生徒たちが集まっていた。蒼空学園からの要請に応じ、チカという名の少女を助けるために集まった生徒たちだ。
「……いくぞ」
「う、うん!」
「…………」
 救助部隊の先頭に立つ高円寺 海(こうえんじ・かい)の言葉に、震えながら雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が頷く。その後ろでは、逃げ帰った少女、マキが心配そうに洞窟のほうを見つめていた。
「だ、大丈夫! 友達は無事よ!」
「……はい」
 雅羅の言葉に、マキは苦笑いを浮かべて頷く。それを合図にするように、集まった生徒たちはそれぞれ洞窟の中へと歩を進めていった。


 数多く分岐する洞窟の中を、清泉 北都(いずみ・ほくと)は駆けていく。黒いコートをひるがえし、その手に黄昏の星輝銃を構えて、漆黒の闇の中でも迷うことなく、北都は前に進んでいった。
「……ねぇ、昶? 例の女の子の位置、わかる?」
 一向に走る勢いを落とすことなく、北都は後ろに話しかける。その声に、北都より数歩後ろを駆けていた獣人の白銀 昶(しろがね・あきら)がクンクンと鼻を鳴らしてから、首を横に振った。
「ダメだな。こんなひどい死臭だと、居場所なんて全然わかんねえよ」
「そっか……それじゃ、とりあえずその死臭のほうをどうにかしょうか」
 そう告げると、北都は正面を睥睨した。彼の張った『禁猟区』が、暗闇の中に存在する人外の怪物の気配を察知する。
 北都の視線の先に立つ、真っ白な骸骨がその姿を見せた。夥しい数の骸骨が、カタカタと歯を鳴らしながら、物凄い速さで北都たちのほうへ向かっていく。
 それでも北都は足を止めない。すぐ横に昶も並ぶ。北都は銃撃しながら、向かってくる骸骨に接近していく。一気に互いの距離が詰まると、
「「はぁああっ!」」
 北都と昶の声が重なる。二人の拳から放たれる聖なる拳『則天去私』に打ち抜かれ、襲いかかってきた骸骨たちは、一斉に吹き飛んだ。バラバラになった骨の破片が、地に落ちて音を立てる。
「よし。ちゃんと『則天去私』は、骸骨にも効くみたいだね。後はこのまま、数を減らしていけば……」
「……ん? 待て、北都。今、なんか聞こえたぞ?」
 頭の横に生える鋭い耳をピクピクと動かしながら、昶が横に続く道を見た。神経を耳に集中させ、昶は届く小さな音を聞き分ける。
「……女の悲鳴みたいだ」
「もしかして、例のチカって子?」
「そこまではわかんねえけど……どうする?」
「うーん。見捨てるってのも、やっぱり後味悪いよね」
 そう答える北都に、そうこなくちゃと昶は笑みを浮かべる。声のした方へと、二人は駆け出していった。


「きゃああっ!」
 洞窟の中に悲鳴が上がる。その声の主こそ、件の救出すべき少女、チカだった。あちこちに生傷をつけ、涙で泣きはらした顔で、必死に逃げている。
「ま、待って! 逃げないで!」
 そんなチカの背後を、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が必死に声をかけながら、追いかけていた。そんなレキの後ろからは、相棒である魔女のミア・マハ(みあ・まは)が同じように追いかけている。
「お願い、止まって! ボク達はキミの友達に頼まれて助けに来たんだよ!」
 レキは必死に、自分たちが救助にきたことを告げる。だがチカには、まったくレキの声は聞こえていないようだった。
「うーむ。見事にこちらの声は届いとらんようじゃな」
 走りながら、どこか他人事のようにミアが呟く。それにレキが、不安げな表情を浮かべた。
「なんでかな? ……あ! もしかして、ボクの声が小さすぎるとか!」 
「い、いや……むしろ大きすぎるぐらいじゃと思うぞ」
 そう呟くミアの顔は引きつっている。その表情から、もうこれ以上、大声を出されてはたまらないという思いが、ありありと感じられた。
「わらわが思うに、骸骨どもに何かされたのかもしれんぞ」
「どうするの、ミア?」
「うむ! わらわに任せよ!」
 そう答えると、ミアは杖をかざす。そのまま、正面を走るチカに向かい『清浄化』のスキルを発動させる。
「よし。これで、あの娘も正気に……むむ?」
 ミアの顔が曇る。その視線の先には、相変わらずレキたちから逃げ惑うチカの姿があった。
「ねえねえ、ミア? あの子の様子、全然変わらないよ? 『清浄化』で敵の術は解いたんじゃないの?」
「お、おかしいのう? わらわの清浄化はしっかりと発動したはずなのじゃが……」
 不思議そうにミアは首をかしげる。そして今度こそと、もう一度、杖をかざした。
 だが、ミアがふたたび『清浄化』を使う間もなく、敵が出現した。
「わ、わわわっ! 骸骨だよ!」
「ええい! この忙しい時に!」
 レキたちの背後から、骸骨の群れが出現する。それも、かなりの数がいた。
 どうすると、二人が悩んだその時、
「――ここは任せてください」
 わき道に控えていた杜守 柚(ともり・ゆず)がそう叫んだ。高熱を持った火術が柚のもとから放たれ、レキたちの背後から追ってきていた骸骨を直撃した。
 だが、それでも骸骨全員は殺しきれない。
 そんな骸骨たちへ向かい、二人の影が向かっていった。杜守 三月(ともり・みつき)と高円寺 海だ。彼らは互いに剣を構え、向かってくる骸骨を切り裂いていく。
「早く、逃げた方がいいよ。ここはボクらでなんとかするから」
 そう三月はレキたちに告げると、敵のほうへと向かっていった。
 その間に、海はひとりでドンドン、前へと進んでいった。だが、そんな無茶を許すほど骸骨たちも甘くない。隙を見せた海へと容赦ない攻撃を加えた。
「……くっ!」
「海くん、危ない!」
 そんな海のピンチに、すぐさま柚が反応した。素早く呪文を唱え、傷ついた海の身体に『ヒール』をかける。
「……ありがとう」
「っ! い、いえっ! と、友達として当然のことをしただけ……です」
 無愛想な海のお礼に、柚は顔を赤らめた。胸に手を当て、謎の動悸を抑えようとする。
 そんな柚の姿を、三月はやれやれと呟きながら見つめていた。
「柚。海に見惚れて、怪我しないようにね」
「え! み、三月ちゃん!」
 ニヤニヤしながら、三月は柚をからかう。
 だが、その表情を引き締め、隣で剣を振るう友人に向けた。
「海もね。回復ができる柚がいるから、かなり無茶できると思うけど、ほどほどにね」
「……わかった。覚えておく」
「そ、そうです! 海くん、気をつけてくださいね! 帰ったら、掃除当番のお仕事もありますから!」
「……それは、忘れたい」
 そう苦い顔で告げる海。それに柚と三月は、笑みを浮かべた。
「私も手伝います。一緒なら、早く終わりますから」
「……頼む」
 満面の笑みを見せる柚の言葉に、海は静かに頷いた。その返事に、誰よりも柚自身が嬉しそうに顔をほころばせた。
「うん。それじゃ、その前に、この骸骨をどうにかしましょう!」
「そうだね」
「だな」
 三人は頷き合い、骸骨たちに向かって構えた。