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死骸の誘う暗き穴

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死骸の誘う暗き穴

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「――あっ! そっちにいきました!」
 洞窟の中に、騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の声が響く。詩穂の視線の先には、チカがいた。相変わらず、錯乱したように近づく人間から逃げていた。
 そんなチカを追い、重装備に身を包んだエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が駆けている。
「ったく、なんで掃除当番で遅れてきたというのに、こんな面倒な役を!」
「お兄ちゃん、アッチ! アッチです!」
 相棒のミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)がエヴァルトの背にしがみつきながら、指示を出している。それに渋々、返事をして、エヴァルトはチカを追った。
 走るエヴァルトの少し後ろからは、詩穂も追いついてきていた。
「なんだか、チカさんの怯え方って、いくらなんでも変じゃないですか?」
「確かにな。何で、助けにきた俺たちから逃げるんだ?」
 詩穂の言葉に、エヴァルトも首肯して顔をしかめた。
「これは仮説なんですけど、……もしかしたら、チカさんの目には、私たちが骸骨のモンスターに見えてるんじゃないですか?」
「つまり、この骸骨を操ってるヤツから、何か幻覚を見せるタイプのスキル攻撃を受けているってことか?」
「ええ、そうです。それなら、私たちから逃げている理由もわかりますよね」
 なるほどと呟き、詩穂の意見にエヴァルトは頷く。確かに筋は通っていた。
「それなら、お兄ちゃん! あの子を捕まえるんです。そしたら、私が『オープンユアハート▽』で彼女を正気にしますから」
「それなら私も手伝います。二人でスキルを使えば、成功率も上がるはずです」
「よし。なら、俺が捕まえる!」
 そういうと、エヴァルトは腕時計型加速装置『アクセルギア』で一気に加速する。一瞬のうちにエヴァルトはチカとの距離を詰めると、チカの腕をとり、そのまま羽交い絞めにした。
「い、いやぁああっ! は、放してぇっ!」
「くっ! 落ち着け!」
 猛烈にチカは抵抗を見せるが、なんとかエヴァルトは押さえこむ。その隙に、詩穂とミュリエルの二人が近づいた。
「「はぁあっ!」」
 二人の声が響き、同時に『オープンユアハート▽』のスキルを発動させる。
 やったと、エヴァルトはひとり、成功したと喜ぶ。しかし、
「……放してっ、放してよっ!!」
 チカの抵抗は止まなかった。そうしているうちに、チカはエヴァルトの拘束から逃れ、明後日の方向へ逃げてしまった。
「な、何なんだ? 二人して、スキルの発動に失敗したのか?」
 不思議そうにそう告げるエヴァルトに、ミュリエルは顔をそらし、詩穂はどうしたものかと苦笑いした。
「い、いえ、その……私たちのスキルは確かに発動していました」
「う、うん。お兄ちゃん、確かに私たちのスキルは、チカちゃんに届いてたんだよ?」
「……おい。それじゃあ、チカは、」
 二人のスキルは確かに発動していた。もしも詩穂の予想が当たっていたのなら、『オープンユアハート▽』を使った時点で、チカは大人しくなっているはずだ。
 だが、そうはならなかった。
 それはつまり、詩穂たち三人に、別の答えを導くこととなる。
「あのチカって子……――自分の意思で、私たちから逃げてるみたいですね」