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パラミタ百物語

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パラミタ百物語

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第壱拾玖話 森の怪
 
 
 
「あれは、もの凄く寒い冬の夜の出来事でした」
 やっと会場が落ち着きを取り戻したので、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が進み出て自分の体験を話し始めた。
「その日、ボクはイルミンスールの森を探索していて、日が暮れたので野営することにしたんです。
 幸い小さなテントは持っていたので、残り少ない干し肉を口にしてそのまま眠りについたのですが……。
 夜中、奇妙な音で目が覚めたんです。
 何かがテントの外にいる気配がしたので、杖を握り締めて様子をうかがってみました。
 この森は魔獣もいるくらいですからすぐに戦闘態勢をとろうとしたんですが、そこには魔獣の姿はありませんでした。
 しかし、代わりにもっと恐ろしい物がいたのです。
 小さな人影に気づいたボクは、魔法の杖で明かりを点しました。
 そこにいたのは、どす黒い腐肉をボトボトと地面に落としながら、ゆらゆらと近づいてくる正体不明の存在だったのです。
 そいつが何か喋ろうとしても、ごぼごぼと気味の悪い音を立てるだけで……。そしてあろうことか、そいつの頭からは小さな人型の生き物が生えてきてこちらを手招きし始めたのです!
 ボクは恐ろしくなってすぐにその場から逃げだしました。
 そのとき、テントの中に一緒にいたはずのジュレともはぐれてしまったけど、森の外でなんとか合流できました。
 けれども、ジュレは恐怖のせいか、その後ずっと一言も口を利きませんでした。きっとジュレは、あの後、あの恐ろしい何かにずっと追いかけられていたのかもしれません。
 それに関しては、ジュレはずっと沈黙を保ったままです。
 まるで、そのことを語れば、またあれがやってくるとでも言いたげに……」
 語り終えると、カレン・クレスティアがふっと蝋燭を吹き消した。
「森かあ、うん、森はいろいろあるんだよ」
「そうであろう、そうであろう」
 カレン・クレスティアの話を聞き終えた多比良 幽那(たひら・ゆうな)アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)がしたり顔でうなずきあう。
「カレン、今の話は……」
 戻ってきたカレン・クレスティアに、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が訊ねた。
「ああ、あのときのことだよ。ジュレだって覚えているでしょ?」
 カレン・クレスティアが、あっけらかんとそう答えた。
 あのときのこと……。
 それは、ジュレール・リーヴェンディとしても忘れがたい。
 あれは、食べる物がなくてひもじいと泣き騒ぐカレン・クレスティアのために、ジュレール・リーヴェンディが夜の森に食べ物を探しに行ったときのことだ。
 ジュレール・リーヴェンディとしては夜の森など怖くもなんともないので平気だったのだが、いかんせん暗闇だったので底なし沼にどっぷりと填まってしまった。小人の鞄から小人を呼び出してなんとかロープを木に結んでもらって脱出は出来たが、小人ともども全身泥だらけで酷い有様になってしまったのだ。
 ようやくテントに戻ったはいいが、カレン・クレスティアは、自身が語ったように、ジュレール・リーヴェンディを見たとたん、金切り声をあげて逃げだしてしまった。
 あげくに雨は降ってくるし……。
 ただ、おかげで泥が洗い落とされたのではあるが。
 やっとカレン・クレスティアに追いついたときには……。これで腹を立てない方がおかしいというものだ。それでずっとだんまりを決め込んでいたわけだが、カレン・クレスティアは未だになんでジュレール・リーヴェンディが黙り込んでいたのかまったく理解していないらしい。
 なんだか、思い出したら、腹がたってきた。
 ジュレール・リーヴェンディは怨念石を取り出すと、サイコキネシスでそれを宙に浮かべた。
「ああ、覚えておる。カレンとはぐれてしまった後、ずっとその小人の生首に追いかけられていたのだ」
「そ、それは怖いんだもん」
 カレン・クレスティアがブルンと身震いした。さっき自分が語った内容よりも、はっきり言って怖いと思う。
「それが、逃げても逃げても我を追いかけてくるのだ。なんとか撒いてカレンと再会できたのだが。もしかしたら、今も、我らの後を追いかけているかもしれんがな」
 ちょっと凄んで、ジュレール・リーヴェンディが言った。
「はははは、そんなはずは……」
 引きつり笑いを浮かべたカレン・クレスティアの眼前に、スーッと小さな生首の形をした怨念石が浮かびあがってきた。
はうぅ〜
 驚いたカレン・クレスティアが、怨念石を手で払いのけてひっくり返った。
面白い見世物だった、だがこれで終幕だ
 ニヤリとしながら、ジュレール・リーヴェンディが溜飲を下げた。
「痛っ……。誰じゃ、変な物を投げて……」
 流れ弾に当たった悠久ノカナタが、何が飛んできたのかと怨念石を拾いあげた。生首の形の怨念石の目と悠久ノカナタの目がバッチリと合う。
「うきゃきゃきゃきゃ!!」
 そのまま、悠久ノカナタがまた泡を吹いて気絶した。