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駄菓子大食い大会開催

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駄菓子大食い大会開催

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 大会の後始末が終わると、校長室で運営委員などの関係者を集めた慰労会が行われた。
 もちろん中央には手の付かなかったうまし棒が山盛りになっている。
「若い人だからもっと食べるとおもったんだけど、思ったほどじゃなかったのねぇ」
 村木お婆ちゃんから、残ったのは関係者で分けるように言われていたが、それでも1人1箱はあった。
「涼司くん、お疲れ様でした」
 火村 加夜(ひむら・かや)が山葉涼司をねぎらう。
「大会にだけ集中してたら、優勝だったかもしれませんね」
 涼司は苦笑する。なかなか責任の重い立場だけに、そういうわけにも行かない。
「そうだな気楽な立場なら、もっといろいろやれたかも……」
 言いかけたところでサクラ・アーヴィング(さくら・あーう゛ぃんぐ)を見かけて話しかける。
「聡はどこに行ったんだ? 大会中は見かけなかったが」
「さぁ、すぐにどこかに行ってしまって」
 従兄弟の山葉聡(やまは・さとし)は、ナンパに励むと張り切っていたが、涼司の前には姿を現さなかった。
「あ、忘れてた」
 ナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)が校長室の用具入れを開けると、中からグルグル巻きに縛られた山葉聡が転がり出てくる。
「朝方、女生徒に声をかけてたんで捕まえたぜ。山葉校長がどうとか言ってたもんで、ここに放りこんどいた」
 縄を解かれた聡は「トイレー」と股間を押さえながら校長室を飛び出していった。その後をサクラが一礼して早足で追う。
「で、カメラは大丈夫だったのか?」
 ナンとシオン・グラード(しおん・ぐらーど)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)に尋ねる。
「うん、ほらっ!」
 美羽がスカートをペラッとめくる。
「おい! やめろよ!」
 ナンが慌てるが、美羽は気にせずめくったままだ。
「平気だもん、見せパンだから」
 見せパンとは、見せても大丈夫なパンツの略で、まさに撮影会などのアクシデントを予定してのものでもある。
「しかしなぁ……」
 渋るナンとシオンだったが、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が顔を寄せる。
「シマパンと思ったけど、文字……いいえ、文章なのね。ああ、なるほど!」
 一見シマシマに見える模様は、よーく見れば提供:村木お婆ちゃんの駄菓子屋とプリントされていた。それが遠目にはシマシマに見えるのだ。
「そう、この写真が広まれば広まるほど、村木お婆ちゃんの宣伝になる…………よね」
 自信ありげな美羽だったが、複雑な表情を続けるナンとシオンに、語尾が小さくなる。
「なるかなぁ」
「まぁ、なるんじゃない」
「なっても、お婆ちゃんが喜ぶかどうか」
「根本的に広まらないだろ」
 意見はいろいろ出たが、やがて慰労会の雰囲気に埋もれていった。
「ミスティもコハクさんも大変でしたねぇ。まぁ一杯、ジュースだけどぉ」
 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)はパートナーでレポーターのミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)とカメラマンを務めたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)にジュースを注いだ。
「レティシアさんもお疲れ様でした」
「結局、レティがMCをしたんですね」
 うまく美羽と加夜を遠ざけたレティシアは、表彰式まで大会を盛り上げるのに尽力した。
「まぁね、せっかくの晴れ舞台、あたしの力量を存分に振るわないとねぇ」
 次もあったら独占したいものだねぇとにんまり笑って付け加えた。
 運営関係者の中で、マスコットになったのがフィン・マックミラン(ふぃん・まっくみらん)だ。
 長身のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)やナン・アルグラードからは、常に膝をついた状態で相手にされ、椎名 真(しいな・まこと)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)からも子供(事実そうなのだが)扱いされた。佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に相談することもあったが、「早く大きくなると良いな」と笑うばかりだった。
 フィンは「今にみてるです。絶対に大きくなるもんね」と言いながらも、ルカルカに「あーん」とうまし棒を差し出されて、おいしそうに食べている。もはや「おいしいなぁ」の考えで頭の中はいっぱいになっていた。
「無事に終わって何よりだな」
「いつもながら面白い催事です」
 ダリルや椎名真が涼司に話しかける。加夜も「本当に」と微笑んだ。
「しかしあんまり1人で抱え込むな。やり過ぎな時は俺がドクターストップをかけるからな」
 ダリルの忠告に、涼司もしっかりうなずいた。

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 数日後、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)の所に荷物が届く。ユルネコパラミタ便で届けられたのは、一抱えもあるダンボール箱が10個。
「次々に運びますねー」とユルネコパラミタ便の業者が運び込む。
 入っているのが駄菓子のため、それほど重くはないが、10個もあると相当の圧迫感になった。

 ── さすがに1年分だけはあるか。それでもクマラなら3ヶ月と言ったところか ──

 到着に喜ぶクマラの側で、エースは冷静に先行きを計る。
「ここにサインか印鑑をお願いしまーす」
「はいはい」
 受け取りを手にしたところで、エースの動きが止まる。「ちょっと待った」と業者を呼び止めた。
「ここに駄菓子1年分(10月分)とあるんだけど……?」
「そうですねぇ。それが何か?」
「すると来月も同じだけ届くのか?」
 業者は「さぁ」と口ごもる。荷物を届けただけで、今後のことまでは把握していないらしい。聞いていたクマラもそばに寄ってくる。とりあえず業者を帰すと、ダンボールに向き直った。
 手近なダンボールを1つ開けてみると、当然のように駄菓子がぎっしり詰まっている。
「なぁなぁ、これが来月も届くんだろ? ならぜーんぶ一ヶ月で食べちゃって良いよな」
 エースは『しまった!』と思う。少なくともクマラには聞かせるべきではなかった。
「ちょっと待て、さすがにそれは食べすぎだ。いくらか皆に分けて……」
 しかしクマラは承知しない。
「嫌だー! オイラが勝って、オイラが貰ったんだから、オイラが食べるー!」
「お腹を壊すぞ」
「壊すかどうか、食べてみなくちゃ分からないだろ!」
 じたばた暴れるクマラを前に、エースも手に負えなくなる。そこでジタバタがピタリと止まる。
「エースに焼きそばパンあげたじゃないか。お菓子くらいオイラが食べたって良いだろ!」
 事実だった。焼きそばパン優先券を使って、大会翌日に2人して焼きそばパンを味わっていた。2つとも食べたそうにしていたクマラだったが、1つをエースに譲ってくれたため『いつまでも子供じゃないんだな』とエースもしみじみしていた。それがここに来て仇になるとは思わなかった。
「分かった! 好きにしろ!」

 クマラは好きにした。
 イリュージョンか魔法のごとく、1ヶ月も経たない内に積み重なったダンボール箱のお菓子は消えていった。
 エースはそのショーをもう11回見物することができた。

                    《終わり》

担当マスターより

▼担当マスター

県田 静

▼マスターコメント

8作目のシナリオへの参加ありがとうございました。

「不正は優勝できない」と書いたからなのか、不正を行おうとするアクションはありませんでした。
ちょっと寂しいような、期待外れだったような。でも元々不埒な考えをする生徒は居ないのかもしれませんね。

大食い大会や早食い大会のネタは、手を変え品を変え、何度でもシナリオ化できますね。
それだけに次にシナリオ化することがあれば、もうちょっと設定を考えたいと思います。
単に不正で勝利を目指そうとする生徒と、それを取り締まろうとする運営側の対決でも、面白いものになりそうです。

ともあれ次の機会があれば、よろしくお願いします。