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駄菓子大食い大会開催

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駄菓子大食い大会開催

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 残った生徒は12人。しかしココまで来ると、いずれも強豪ばかりだった。
 空京大学のクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)は、うまし棒をそのままかじりついていた。

 ── 潰したり粉にしちゃったりなんかしたら、せっかくのおやつが台無しになっちゃう。そんな奴は「お菓子の神様に謝れー」 ──

 そんなことを思いながらも、うまし棒をいくらでも食べられる幸せに、どっぷりと浸かっていた。
 そばに控えるエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は水を継ぎ足すくらいで、さしてすることがない。万が一と思ってナーシングの備えもしてきたが、このままなら出番はなさそうだった。

 サポートが存分に力を発揮したのが黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)達である。竜斗とユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)が、うまし棒を3つに分けて、リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)に渡す。御劒 史織(みつるぎ・しおり)は水をタイミング良く手渡した。
 小柄なリゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)だけに、観客の多くが早々に落ちると見ていたが、ここまで残ったことで応援する人々が増えてきた。
「みんなが応援してくれてるー」
 リゼルヴィアは食べる合間に手を振って応えた。
 しかし往々にして、過剰な応援は逆効果になるものである。『頑張ろう』と肩に力が入ってしまい、スタートから保っていたマイペースが崩れてくる。ケホッと小さくむせたところで、ユリナが心配そうに竜斗を見た。
「ルヴィ、無理するな。ここまで頑張ったんだから十分だよ」
「でも、ここまで頑張ったんだから、もうちょっと」
 次のうまし棒の欠片を口に運ぼうとするリゼルヴィアの手を竜斗が止めた。リゼルヴィアは涙をうっすら浮かべながら、竜斗に従った。
「いいぞー!」
「よく頑張ったー!」
 席を離れるリゼルヴィアに、観客から大きな拍手が起こった。

「葵ー、負けちゃったにゃー」
 秋月 葵(あきづき・あおい)のところにイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ) が戻ってくる。口をムッと結んで悔しそうにしているが、もちろん参加賞は大事に抱えている。
「ううん、頑張ったね。ここまで残ったら凄いよ。でも上には上がいるもんだねー」
「悔しいにゃー、せめて同じ学校の人には負けたくなかったにゃ」
「ふーん、どこにいるの?」
 イングリットが指さす先を葵も見る。箸で丁寧にうまし棒を食べる和服の百合院生がいた。
「なかなかの強豪にゃ。もしかしたら優勝するかもしれないにゃ」
 既に2時間が経過しているのに、ほとんど変わらないペースで食べ続けている。時折、お茶を飲むために箸を止める以外は、ひたすら箸でつまんでは食べ、つまんでは食べを繰り返している。
「イングリットが言うならそうかもね」
「でもホントに悔しいにゃー、こうなったら帰りにケーキを食べに行くにゃ」
「あれだけ食べたのに……まだ食べる気なの?」
「ん? 何言ってるにゃ〜、ケーキは別腹にゃー」
 イングリットに笑顔で言われると、葵は苦笑いするより無かった。

 5度目のラッパの音が鳴る。
「残り30分ですぅ。皆さん頑張ってねぇ」
 もはやレティシアに応える参加者はいない。それに反比例して観客の声援は大きく、個人的になってくる。
「大久保ー、どうしたー」
「まだいけるぞー」
 ここまで残った生徒の1人大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、最初に大きくリードできたことで、途中まではトップを独走していたが、ラストの30分になると完全に逆転されていた。
「ゆっくりしたペースやと、満腹中枢が満たされて、食べる気が落ちると思ったんやけどなー」
 周囲の生徒たちは、相変わらずうまし棒を食べ続けている。
「ホメオスタシスの効果もここまでやー」
 また1人リタイアとなった。
「マナー! ファイトー!」
 別な状況でリタイアすることになったのがマナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)だった。マスターのクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)がチーズやチョコが無くなってリタイアしたのと同様に、マナもレタスやキャベツが底を尽いた。
「ここまで頑張ったのに残念なのだっ!」
 そのまま食べようとしたが、水を飲みながらでは何本も食べることはできなかった。
「獅子神玲さーん、頑張ってー」
「クマラちゃん、負けるなー」
 スタートの合図以来、獅子神 玲(ししがみ・あきら)は淡々と箸を進めている。持参したお茶で。タイミングを見ながら喉を潤しているが、それすらもルーチンワークのように、ほぼ一定の回数で繰り返されていた。

 ── これでいつも優勝してしまうんです ──

 ただし今回はいつもとは異なっていた。ペースこそ違うものの、玲に並んでいる参加者がいたのである。クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)だ。

 ── 珍しいこともあるものです ── 

 チラッと見る。クマラは実に楽しそうに食べていた。玲も食には真摯に対してきた。しかし本性として過ぎた食欲を、どこか嫌悪している自分がいる。そんな玲には、ついぞ見られない表情だ。
 クマラの笑顔に見惚れたわけではないが、少しの間、玲の箸が止まった。
「あーーーっと、どうしたのかなぁ? 獅子神玲選手ー、とうとう限界でしょうかぁ」
 レティシアの実況にハッを気を取り直して、うまし棒に向かう。ほんの少しの時間だったが、クマラとは1本の差がついていた。そしてそれは最後まで埋まることはなかった。
「はーい、時間ですぅ」
 プアーっと一段と大きなラッパの音が鳴り響く。
 3時間もかけて、わずか1本の差だったものの、優勝者が決まった。
「ふぇ? オレ?」
 時間が過ぎてもうまし棒を食べるのを止めないクマラはエースを見上げる。
「ああ、君だ」
 エースはクマラの頭をわしわし撫でた。
「優勝者はぁ、空京大学のクマラくんでーすぅ」
 レティシアのアナウンスに、会場は拍手と歓声で満たされた。