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Blutvergeltung…導が示す末路

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Blutvergeltung…導が示す末路

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第5章 あなたの死期は・・・いつ? Story2

 まだ正気に戻っていない霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)は、自分の家すらも分からなくなった老後の最期を見せられ続けている。
 そのあげくその老人となり、死期の幻影の中で・・・。
「腹が減ったな・・・、私の朝食はまだか?」
 と、食べたばかりなのに、椅子に座りキッチンの方を見つめる。
「仕方ない・・・、その辺で買って来るとしよう。ふぅ〜、どっこいしょ。あいたた・・・」
 痛む腰を摩りつつ、玄関に置いてある杖を握って外へ出る。
 しかし、買い物に出かけたことすら数分で忘れてしまい・・・。
 私の家はどこだ・・・と町中をウロついき、青信号が点滅しているのに気づかず、横断歩道を渡ろうとし、車のクラクションの音すらも聞こえず羽飛ばされてしまう。
「いっ・・・痛い・・・・・・。誰かー、私を助け起こしてくれー・・・」
「はぁ、急いでるのにマジ最悪!」
 だが泰宏を跳ね飛ばした相手は、救急車を呼んでやる様子もなく、面倒ごとが起きて遅れそうだと相手に電話している。
 普通はすぐ救急車を呼ぶものだが、彼は永遠と友達に愚痴を溢す。
 泰宏の周りに集まった連中も、誰が轢かれたのか見ようと、ただ見下ろしているだけだ。
「(わ、私は・・・もっと生きていたいのに・・・)」
 生きている者たちを瞳に映し、その命が羨ましくも妬ましくも思える。
「(私を見るな・・・やめろ、見るなっ、見るな!)」
 ぐったりと道路に倒れて死んでいく自分を見世物され、通行の邪魔だとか、迷惑なものが転がっているという表情をする者たちに、怒りを覚えながらも惨めな最後は嫌だ・・・。
 情けない終わり方なんて認めたくない。
 誰かを守りきることもなく果てるなんて・・・、めちゃくちゃ情けないじゃないか・・・。
 “―・・・やっ・・・・・・。ちゃん・・・”
 私を誰かが呼んでる・・・、誰だっけ。
 “ちゃん・・・・・・やっちゃん・・・”
 あぁ、そうだ・・・私のパートナーの声だ。
「やっちゃん!」
「―・・・透乃ちゃん!そこにいるのは・・・陽子ちゃん!?」
 パートナーの声でようやく正気に戻った彼が辺りを見回すと、透乃と傷を負った陽子がコンジュラーと戦っている
「早く陽子ちゃんの傷を治してあげてっ」
「なんでこんな酷い火傷を・・・」
 陽子に駆け寄り、リカバリで火傷を治してやる。
「ありがとうございます」
 透乃を守るためとは言わず、お礼だけ言う。
「コンジュラーか・・・。(フラワシの姿を見えなくされてると厄介だな)」
 殺気看破でもフラワシの気配は察知出来るが、その姿を見るには基本的に同じクラスか、鬼目のスキルでもなければ見ることが出来ない。
「(フラワシが炎を放つ先を狙うしかないか・・・)」
 と、考えてみたものの、誰かがターゲットになってもらうしかない。
「陽子ちゃんは傷が治ったばかりだし。かといって透乃ちゃんでも、直撃をくらう目に遭わせるのもな・・・」
 しかし、その役目を誰にやってもらうか、悩んでしまう。



 すでに透乃や泰宏も正気に戻ったのだが、月美 芽美(つきみ・めいみ)だけは、まだ死期の幻影に苦しめられている。 
 今思えばあの時、一瞬の苦しみの死刑と、どちらがよかったのだろうか・・・。
 高貴な名門の生まれだからとはいえ、それは死刑よりも苦しかったかもしれない。
 手伝った召使と同様、火あぶりにされたほうがまだ楽に死ねただろうか。
 光がまったく届かない真っ暗な城の中に閉じ込められ、死ぬまでの3年という、長い月日の感覚まで体感させられる。
 彼女にとって親族の嘆願書のありがたみなんて、一切感じられない酷い最期だ。
 死から助けてくれるなら、どうしてここから出してくれないのか・・・。
「あぁっ、殺したい。あの悲鳴・・・血の色・・・!」
 この手につく生暖かい血や、殺した時の感覚をもっと味わいたい欲望を満たしたいと叫ぶ。
「今・・・昼かしら・・・。それとも夜?もうそんなのどうだっていいわ。いじめる相手さえいれば・・・。いじめ殺せる相手・・・さえ・・・」
 ぶつぶつと呟き、目を覚ますと・・・。
「―・・・外?えっ、何・・・またチェイテ城の前にっ!?」
 やっぱりあの城の前にいる。
 貴族の娘まで殺してしまったせいで、今までのおぞましい罪がばれてしまった。
 浴槽いっぱいに満たすまで何人もの生娘の血を絞ったり・・・。
 その罪を犯しても死刑にならないほうが、幸せだと思う者もいるかもしれない。
「放しなさい、放して!―・・・きゃあっ」
 また独り取り残され、城の中に閉じ込められてしまう。
「ちょっと、誰かいないの!?」
 ドンドンッと力いっぱい扉を叩くが返答はない。
「独りなんてイヤ・・・。透乃ちゃん・・・やっちゃん、陽子ちゃん・・・」
 この手を血で染める狂気の殺戮もしたい。
 だけど友達と一緒に暮らし、普通の日常も過ごしたい。
 おぞましい殺しの欲望もあるが、パートナーとの日々も欲する強欲な娘は、扉を引っ掻き外へ出ようとする。
「皆に会わせて、早く・・・早くっ。私をここから出して!出しなさい、ここから・・・今すぐ!」
 乱暴に扉を叩き、傷ついた拳から血を流そうとも、暗闇の絶望も忘れて狂ったように殴り続ける。
 高貴な身分だった頃の服から、いつもの彼女のスタイルへと変わると、生娘を惨殺していた時とは違う、もっと多くの者を殺す力で扉を粉砕する。
 城の外へ出て正気に戻った芽美は、また城へ連れ戻されたりしないか、怯えたように辺りを見回す。
 しかしそこにはチェイテ城も、自分をそこへ放り込んだ者の姿もない。
 嫌な過去を見せられ、自由を奪われた妙な恐怖心があるが・・・。
「どいつから殺そうかしら?」
 その気晴らしに1人でも多く殺したいと、どいつから手にかけてやろうか眺める。
 元々、そんな過去を持つ英霊なのだから、今更不殺なんて甘いやり方は合わないし、契約者自身も敵を生かすことをしない者だ。
「あら、正気に戻ったの?あんたムカツクから、黒焦げに焼いてあげるわ。傷が残っても恨まないでよね?」
「戦うのに無傷なんで済まそうなんて思ってないわ」
「芽美さん・・・、フラワシに追われてくれないか。姿が見えないから、誰かがダーゲットになってくれないと分からなくってな」
 3人と違い泰宏の方は相手を殺す必要があるのか、分からないのだが、敵を生かして後悔してしまったこともあるし、仲間を守るためには・・・と芽美に言う。
「フラワシね・・・。それを殺せなかったとしても、相手にはダメージがいくのよね」
「あぁ、そうだけど?」
「私の分、とっておいてくれるかしら」
 そいつは私に殺させて、と泰宏へ顔を向ける。
「分かった・・・」
 うっかり留めを刺しても、殺気のこもった目で睨まれるだけだろうが、それ以上のお仕置きがあったら・・・と思うと、了解するしかない。
「じゃあ、行くわよ」
「って一緒に!?おわっ」
「当たり前でしょ?見えないだし命中させるなら、近距離じゃなきゃね」
 泰宏の腕を掴み、炎が放たれる先へ目掛けて走る。
「―・・・ぐぅっ。(直撃だとやっぱり少しくらうな・・・)」
 フォーティテュードで火炎のダメージを和らげ、芽美の盾となる。
「そこよ、やっちゃん」
「悪く思うなよっ」
 彼女が指差す方向を飛竜の薙刀【透子】で貫き、ライトブリンガーをくらった焔のフラワシは炎を揺らめかせる。
「ぎゃあーっ!―・・・よくも私のわかいい〜フラワシちゃんをっ」
「そんなに大事なら、魔法学校で大人しくしてればよかったじゃないの?戦いで傷つきたくないとか、笑わせないでっ」
 ズブリと魔女の胸を指で貫き、苦しむ様子を楽しむように眺め、生意気な口が利けないように首をへし折る。
「殺すなんて酷いじゃないのっ」
「死が怖いから不老不死になりたいんですか?」
 応戦しようとするドルイドに陽子がアボミネーションで慄かせ、視線だけで殺しそうな眼差しを向ける。
「いろんなものを犠牲するんですから。対価として、その前に死ぬかもしれない・・・という覚悟もなければいけませんよ」
 ほら、もうすぐそこに死が迫っていますよ・・・と、恐怖のあまり動けない魔女に、ゆっくりと近づく。
「殺すのは私じゃないですけどね」
 冷たく言い放つと・・・。
「んもぅ、あまり怯えさせると生きのよさがなくなっちゃうじゃうよ!」
 透子がドルイドの頭部を金剛力で握り潰す。
 動いているやつを倒したいのに!と怒り顔をする。
「でも、逃げられてしまっては、他の皆が狙われる危険性もありますし・・・っ」
「陽子ちゃんってば、マジメすぎるよ」
「えぇっ!?そうでしょうか・・・」
「確実に殺せるなら、私はどっちもでいいけど」
 芽美は逃げようとするコンジュラーに龍の波動を放ち、大木に吹き飛ばす。
 それでも地面を這い死を逃れようとする相手を空から狙い、龍飛翔突で貫き、骨を爪でギリリ・・・と引っ掻いて苦痛を与えてやる。
「ものすごく気分が悪いから、すぐには殺してやれそうにないわ」
 声にならない悲鳴を上げる者を、徐々に死へ近づける。
「うわ〜、芽美ちゃん残酷っ」
「―・・・次ぎの獲物を探に行きしましょう」
 透乃ちゃんだけには言われたくないわ、とキュッと眉間に皺を寄せると、3人と共に魔女を探し歩く。