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Blutvergeltung…導が示す末路

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Blutvergeltung…導が示す末路

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第9章 消えた時は甦るか否か

 やっぱり忘れたままなんて寂しいし辛い・・・。
 思い出してもらおうと七枷 陣(ななかせ・じん)はアウラネルクに、必死に語りかける。
「アウラさん、まだ思い出せないッスか?」
「すまぬ・・・。おぬしたちが話してくれた出来事が、過去にあったような・・・少しずつ思い出してはいるのじゃ・・・」
「(ここでもう一押し必要やね・・・)」
 不本意だがこの際、餌食にされても思い出してもらおうと、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)の方をちらりと見る。
「ん、何?陣くん」
「リーズ・・・オレを、・・・その・・・いつもアレを頼むっ」
「へっ?アレって何?」
 突然そう言われても、まったく分からないという様子で首を傾げる。
「アレといえば、アレしかないやないか!」
 他の人の前だとはっきり言いたくないのか、察してくれという感じでリーズに言う。
「えー・・・。アレだけじゃ分からないよ。その年でボケがきたとか言わないでよね」
「まだボケる年やないしっ」
「リーズ様、ご主人様はおそらく・・・いつも皆様を笑わせる話をしてほしいと言っているのでは?」
 話の流れを頭の中で整理した小尾田 真奈(おびた・まな)が、ソレしかないという感じで教える。
「あぁ〜!いじってほしいってことだね。うわ、もしかして陣くんって・・・」
 自分から言うなんて、ソッチの属性だったの・・・と陣から少し離れる。
「はぁ〜〜〜っ!?絶対ないしっ!」
「まぁいいや。思い出してもらうためだし。ん〜そうだなぁ・・・」
 彼をどうやっていじろうか考え込む。
「どうせなら一緒にいた時のことを混ぜたほうがいいかな?あっ!ここに来る前ね、陣くん大変な目に遭ったよね」
「大変ってそんな大雑把に言われてもな・・・」
「ト・ラ・ウ・マ♪」
「ちょ、よりによってそれかっ」
 イルミンスールの中で見た幻影の話を持ち出されたが、我慢していじられてやる。
「雨雲のストーキングとか面白かったよ」
「こっちはちっとも面白くないんやけどなっ」
「陣くんの頭上だけ豪雨とか・・・。十天君の施設を探してる時じゃなかったら、大笑いしてたよボク」
「そなたは雨が嫌いなのかぇ?雨はとても必要なものなのじゃが・・・」
「恵みに雨ってよく言うよね。でも、陣くんにとってはそうじゃないんだよ」
 雨なしでは生きていけないでは?と不思議そうな顔をするアウラネルクにリーズが説明する。
「ふむ・・・・・・。雨が降らぬと植物も育たぬが・・・」
「大変だよ陣くん!苦手を克服しなきゃっ」
「べ、別に魔法使う時やなかったら、降ってても気にならんしっ。つーか、ピーマン嫌いとかトマト嫌いみたいなレベルやないぞ!」
「(今、アウラ様が笑ったような・・・)」
 2人の話を聞いている妖精の表情が、封神台に送られる前の笑顔のように思え、どうか思い出してほしい・・・と真奈は彼女の顔を見る。
「よくアウラ様の前で、このような話をしていたんですよ」
「そう・・・なのか?―・・・・・・ぅっ」
「アウラ様!?」
 苦しそうに呻き、よろける妖精の身体を真奈が支える。
「―・・・・・・おぬしらと最初に会ったのは、イルミンスールの森だと言っておったな?」
「はい・・・。高熱で苦しんでいる方々のために、マンドラゴラを分けてもらいました。その後、お礼を差し上げようとうかがってから、何度もお会いするようになったんです。楽しいことばかりではなかったのですけどね・・・」
 雪祭りで遊んだり楽しい過去もあったが、十天君に捕まってしまった苦しい過去もある・・・というふうに語りかける。
「私たちにとっても、どの思いでも大切な記憶です・・・」
「おぬし・・・真奈・・・・・・なのかぇ?」
「思い出してくれたんですか、アウラ様!」
「するとそこにいるのは陣・・・隣にいるのはリーズじゃな?」
「アウラさん!思い出してくれたんッスね!」
「わぁ〜い、アウラさんの記憶が戻ったーっ!!」
 リーズは大喜びして声を上げる。
「ヨウくんも・・・封神台に来てると思うんッスけど、今は別行動なんや・・・」
「氷や闇系のスキルを使う人だよ。陣くんより、いろんな意味で大人かな?」
「どういう意味や・・・リーズッ!」
「さぁ〜、落ち着きの問題じゃない?にゃははっ♪」
「口数の少ない感じだったかぇ?」
「んー・・・どうかなぁ。少なくとも陣くんみたいにマシンガントークはしないかな」
「一々オレを対比に使うなっつーの!」
 イラッときた陣がリーズのもみあげを、ぎゅーっと引っ張る。
「いたーい、いたたっ」
「なんとか思い出してもらえてよかったね!」
 封神台を出る前に記憶の一部が再生し、陣やリーズのことは思い出してくれたようだとレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)はほっと安堵する。
「でも・・・全部は戻ってないアル」
 まだ思い出せない部分もありそうだと、チムチム・リー(ちむちむ・りー)は少し悲しそうに言う。
「ずっと前から知ってるのに、初めて会うような感じになっちゃうなんて・・・」
「ここに留まって全部思い出すまで待つわけにも、いかない状況だからね、チムチム」
 少しでも記憶が戻ったんだし、早く出なきゃと急ぐ。



 ミナ・インバース(みな・いんばーす)はくんくんと鼻をひくつかせ、嫌な匂いがしないか超感覚で警戒する。
「(向こうの方は血の匂いがするな・・・。イナには黙っておいたほうがよさそう)」
 おそらくそこへ行ったとしても、生存者はもういないだろう。
 噎せ返りそうなほど漂う匂いにミナは顔を顰める。
「何かいたの?ミナ」
「えっ・・・ううん。何も・・・いないっていうか。いた・・・っていうか・・・う〜ん、とにかく早く出ようっ」
「いたっていうのは、怪我人のこと?」
 はっきりしないミナの態度にイナ・インバース(いな・いんばーす)が問い詰める。
「怪我・・・・・・えっとね、イナ姉・・・。妖精さんにやっと会えたんだし、十天君に追いつかれないうちに出口を目指したほうがいいと思うよ」
「放っていくっていうの!?」
「まだ他の人もいるんだし、なんとかしてくれるはずだって」
「でも、早く手当てしてなきゃ可哀想よ」
「別の人に任せたほうがいいよ、さっ早く早く!」
「ちょっとミナ、押さないでよっ」
 怪我人の元へ行こうとするがミナに背を押されてしまう。
「(―・・・誰かきっと、外へ運び出してくれるよね)」
 この世で動くことはもう2度とない魔女を、優しい人が運んで埋葬してくれるはず・・・と心の中で呟いた。



 陣は妖精を連れてディテクトエビルで警戒しながら、出口を目指しているのだが、まるで待ち構えていたかのように、気配の数が増している。
「どういうことや、出口に近づくにつれて魔女の気配が多くなってきてんぞ!」
「陣くん、倒して通るしないよ。避けてばかりじゃ、出る前にあいつらが来ちゃうよっ」
「(アウラ様を狙うなら、出口で待ち構えていたほうがよいと考えたのでしょう・・・)」
 気が進まないが無理にでも通してもらうしかないと真奈も頷く。
「あの・・・アウラ様。森に落ちている小枝か何か、お土産にいただけませんか?」
「おぬしなら構わぬぞ」
「ありがとうございます」
 まだこの森が紛い物かどうか、判断出来ていない様子の妖精のために小枝を1本拾う。
「あぁ〜っ、妖精みーっつけたぁあ!」
 やっとアウラネルクを発見したと、ウィザードが彼女を指差す。
「たしか〜そいつらの目の前で、痛めつけるのが十天君の目的だったわよね?私の炎で焼いちゃおう♪」
「いいね、火葬パーティーってやつ?キャハハハッ」
「キミたち、そのシャレすっごくつまらないよ!そんなパーティー、僕が潰してあげるっ」
 普段は温厚なレキもブチキレ、アシッドミストで魔女の視覚を封じる。
「一瞬で消えちゃう術なのに、ちょー意味ないしぃ〜」
「悪い人達はこっちに来ないで欲しいアル!」
 その一瞬の隙をついたチムチムは日本酒を投げ、遠当てで破壊する。
「いやぁあっ、お酒くさぁあい」
「そのアルコールびしょびしょの状態じゃ、火の魔法を使ったら危ないアルね。炎の熱でボッと燃えそうアルよ」
「ねぇ、それでも独りパーティーしたい?」
「むぅ〜っ。私の術は炎だけじゃないのよ!」
 逆ギレした魔女がレキたちに向かってブリザードを放つ。
 ビュォオオオオッ。
「うわぁあっ!!」
 吹雪のせいで一歩も前に進めなくなってしまい、飛ばされないように踏みとどまるのがやっとだ。
「そこの妖精を痛めつけて十天君のところに持っていけば、優先的にこの私を不老不死にしてくれるかしらねぇ」
「ゲッ、最低〜っ。お前みたいなヤツに傷つけさせないよっ」
 心底不愉快そうに言い放ち、怒りを爆発させたリーズが背にトライウィングス・Riesを広げる。
「ぶっ飛べばぁああか!!」
「私の吹雪が突破されるなんて!?ひゃわぁああ!!」
 エアリアルレイヴで紙切れのように吹き飛ばされ、魔女の身が木々に打ち付けられる。
「あんの小娘〜、よくもこの私の肌に傷をつけたわねっ。妖精の位置を、一刻も早く他の皆に知らせなきゃ・・・」
「ふぅ〜ん、行けると思ってるのかなぁ?」
 仲間を呼びにいこうとする魔女の前へ回り込み、冷ややかな眼差しを向ける。
「ボクの攻撃はまだ終わってないんだよね♪半分ナラカに沈んじゃいなっ」
 翼を羽ばたかせてフルスピードでウィザードの懐に突っ込み、両脇の骨を拳で粉砕する。
「―・・・・・・っ」
 魔女は悲鳴を上げる間もなく、内臓までやられたような激痛に気を失ってしまった。
「な〜んか騒いでるなぁと思ったら、そこにいたんだね」
「お前は・・・」
「初めまして、と言うべきかな?それともさよならのほうがいいかな。ボクのショー見ていってよ、お代は妖精でいいからさ」
「誰がお前なんかに・・・うわぁあっ」
 どこから取り出したのか、突然右天の手元に真澄のマシンガンが現れる。
 すぐさま翼で少年の傍から離れるが避けきれず、銃弾が身体を掠めてしまう。
「ん〜残念。掠めただけだったね」
 つまらなそうに言うと、物質化・非物質化で、真澄のマシンガンを消す。
「もう追いついかれたんか・・・」
 少年の気配に気づいた陣が憎々しげに相手を睨みつける。
「簡単に逃げられるとでも?まぁ、相手をしてあげるのはボクじゃないけどね」
 クスクスと笑い妖精を狙おうとする金光聖母へ顔を向ける。
「僕のショーを見ている間に、妖精がやられちゃうよ?」
「はっ?ふざけんな!!」
 目の前の道化とアヤカシの女もまとめて倒してやると少年を指差す。
 “唸れ、業火よ!轟け、雷鳴よ!穿て、凍牙よ!”
 ずっと待っていた友を手にかけられてたまるかと、地獄へ叩き込んでやろうと詠唱し始める。
「何それ、魔法?唱えている間に、何も護れず・・・後悔と絶望の顔をした魔法使いの末路のショーでも見せてあげようか!」
「陣くんの邪魔はさせないよっ」
 またもや物質化・非物質化で真澄のマシンガンを出現させた右天に、リーズがフルスピードで迫る。
「右天様は・・・私がお守りします・・・・・・」
 どんなに早いスピードで襲いかかろうとも、魔法で墜落させてしまえばお終い・・・とアルカがファイアストームを放つ。
「飛んで火に入る・・・なんとやら、・・・ですね・・・・・・」
「あっつぅっ・・・」
「リーズ様!」
「ボクのことはいいから陣くんをっ」
「―・・・はいっ」
「あははは!どんな顔をして逝ってくれるか、楽しみだね!!」
「そちらの悪魔は、1人を相手するだけで手一杯のようですね」
 真奈は陣の前に立ち、銃弾から彼を護ろうとトンファーブレード・1stでガードする。
「ふぅ〜ん。でもさ、それで弾を全部避けきれるわけでもないでしょ?」
「傷つくことを恐れていては、何も護ることは出来ません・・・っ」
「(ふっふふ〜油断しているようだね。隠れてるっていうか、ミラージュの幻影かー・・・。どれが本物なのかな)」
 銃口を真奈に向けている右天に、レキがエイミングでじっくりと狙いを定める。
「(銃弾が落ちた後ろのほうにいるやつが怪しそうだねっ)」
「右天様・・・・・・、あの娘が狙っています」
「さすがアルカさん、誰かさんと違って役に立つね」
「あぁっ!!」
 アルカのディテクトエビルで気づかれ、銃撃を止めて幻影の中へ紛れた右天にサイドワインダーを避けられてしまった。
 仲間たちが敵を引きつけてくれたおかげで陣は・・・。
 “侵せ、暗黒よ!そして指し示せ・・・光明よ!”
「セット!クウィンタプルパゥア!“爆ぜ”」
 詠唱を終え、金光聖母たちを焼き尽くそうと蒼紫色焔を放ち、彼の声に命じられるがままに焔が爆発し、灼熱の雨粒のように敵へ降り注ぐ。
「て・・・てめぇら全員封神台の下層へ逝けボケがぁぁ!」
「くっ、私の魔法が効かないとは・・・・・・。―・・・右天様、脱出しましょう」
 アルカは焔で対抗しようとファイアストームを放つが防ぎきれず、このままではまずいと思い右天の元へ走る。
「幻影に紛れても当たりそうだからね」
 王天君の方を守っている者たちと違い、そこまで義理もないからと、退くことにした。
「カフカさんがいないけど・・・敵に捕まるアホは放っておこっと」
 人質として引きずられてきているだろうが、まったく助ける気がない。
 そのパートナーに対して情が薄いのか、見捨てて逃走する。
「あわわっ、来ないでほしいアルっ」
 地獄の天使の翼で迫る金光聖母から離れようと、チムチムは妖精を連れて必死に走る。
 アヤカシの女は陣から灼熱の焔をくらっても、表情を崩さず火傷をリジェネレーションで徐々に癒している。
「命を道具にするお前なんかに、慈悲はやらない!」
 追ってくる金髪の悪女に機関銃の銃口を向けたミナが怒鳴る。
「どんどん撃っちゃってください、ミナ!」
 空飛ぶ箒に乗っているイナが、パートナーが操縦する小型飛空艇に飛び降り、妖精のチアリングを踊る。
「りょーかいっ」
「―・・・逃がしません」 
 ミナのクロスファイアを足にくらいながらも、1度も悲鳴を上げることなく、追い続ける。
 痛みを知らぬ我が躯で痛みを感じにくくなっているとはいえ、心のないただの人形のような無表情は、なんともいえない不気味さがある・・・。