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十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別

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十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別
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第三篇:松平 岩造×アイリス・ブルーエアリアル
 18世紀後期の欧州。
「なるほど。どうやらあの『本』の力は本物のようだ」
 松平 岩造(まつだいら・がんぞう)は周囲に広がる欧州の街並みを見回しながら、眼前に立つ麗人――アイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)へと語りかける。
「ああ。そのようだ。となると、先刻『本』の中へと入る際に申し合わせた通り、僕と君は剣による決闘をすることになるのだろう」 まるで男性のような口調でアイリスが返す。そして、二人の横には彼女の言葉を裏付けるように、当時の欧州で広く用いられていた剣が地面へと突き刺さっている。しかも、本人たちの利き手側に近い方の地面に突き立つという徹底ぶりだ。
 岩造とアイリスは無言で互いに一度頷き合うと、まったくの同時に、傍らの地面に突き立つ剣を抜き放つ。
「行くぞ――岩造。アイリス・ブルーエアリアル、参る!」
 高らかに名乗りを上げるアイリス、それに呼応するように岩造も名乗りを上げる。
「いざ、尋常に勝負! 松平岩造――推して参るッ!」
 二人が名乗りを終えると同時に、それを合図として、二人が同時に地面を蹴って一気に踏み込む。
 東洋の剣術を介する岩造と西洋の剣術を介するアイリス。二人には剣術流派の違いはあれど、その実力に差異はなく、実力伯仲の好勝負が展開されていく。
 アイリスが放つ横一線の斬撃を岩造が捌き。
 岩造が仕掛けた刺突をアイリスの剣が払い。
 互いに繰り出した縦一線の斬撃がぶつかり合う。
 勝負の間、二人は終始無言だった。だが、二人にはそれで十分だった。岩造とアイリスの間には言葉など不要。剣と剣で語り合う――それが二人の対話なのだ。
(――俺は軍人としてウゲンのような売国奴や鏖殺寺院やザナドゥ等の悪からこのシャンバラ、地球、パラミタやみんなを守り抜く為に日々戦い続けている)
 岩造の軍人としての思いの一つ一つが、彼の繰り出す一太刀一太刀に込められる。そして、その一太刀一太刀を受け止めるアイリスの剣を通して、それが彼女へと伝わっていく。
(――俺はこの命が尽きるまで平和に災いもたらそうとするウゲンやザナドゥや鏖殺寺院のような悪から最後まで戦い抜いていく)
 刃金を通して岩造の決意がアイリスへと伝わり、彼女の心へと染み込んでいく。
(僕は、大切な人と穏やかな日々を過ごしたい。そしてそうした人たちを守りたい。あわよくば、ずっと一緒にいたい)
 熱いほどのアイリスの想いが刃を通して、それを受け止めた岩造へと伝わってくる。
 そして、その熱いほどの想いを理解した岩造はその想いのすべてを受け入れた。
 それが感じられたのか、アイリスは刃を引き、ほんの一刹那ほどもないごく僅かな好機へと備える。同じく岩造も一旦刃を引き、呼吸を落ち着かせ、精神を統一して来るべき機に備えて、身体から余分な力を抜いていく。
 次の瞬間、百戦錬磨の二人にすらもごく僅かに存在する互いの隙を逃さず、二人は渾身の一太刀を同時に繰り出した。
 ぶつかり合う刃と刃、岩造の刃は彼の豪力によってアイリスの防御を強引に突破して彼女の首筋へと迫る。しかし、アイリスの刃も弾かれたままでは終わらない。その状態から弾かれた勢いを利用し、凄まじい速さで岩造の刃の表面を滑ると、同じように岩造の首筋へと肉薄する。
 互いに首筋に突きつけた刃を寸止めしたまま、瞬きすらもせずに見合うこと数分間。どちらからともなく二人は刃を引いた。
「良い勝負だった」
 アイリスは抜き放った時と同じように地面へと剣を突き立てると、微笑みと共に岩造へと賛辞を贈る。
「ああ。素晴らしい仕合だった」
 岩造も頷き、右手を差し出す。差し出された右手をアイリスがそっと握り返す。
 激しい戦いの末、互いを認め合って、そして二人は恋に落ちた。二人はこれから敵対、ライバル関係でなくお互いの事を想う事で人間関係として歩んでいくだろう。
 二人の関係がこれからも、互いを想い合うものであらんことを。