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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

リアクション

 3――『入院している眼鏡の君と 〜異動(移動)、開始〜』



     ◆

 カイナの絵は、着実に進んでいる。その間、沈黙を守っていたラナロックは少しずつではあるが、返事を返し始めていた。おそらく最初は、言葉もなかったのだろう。おそらく初めは、何も言う気などなかったのだろう。
しかし彼女は口を開いた。
「カイナさん……絵を描いてて、楽しい?」
「うん! すっごく楽しいぞ! だって上手にかけてるからな! 出来たらリャックにも見せてやるからな、もうちょっと待ってろよ!」
 元気に返事を返したカイナは、しかしそこで静かに口を開いた。
「なぁ、リャック」
「……何かしら」
「初めて会ったとき、俺に言った事覚えてるか?」
「………」
 再び彼女の返事は消える。
「『もっと早くに会ってたら――』リャック、そう言ったぞ」
「……えぇ、言ったわね」
「でもな――」
 絵を描いているカイナの手は止まらない。
「でもな、それ、違うぞ」
「………」
「俺な、遊びたい時に遊ぶから、楽しいと思うんだ」
「…………」
「だからな、リャック。これだけは絶対に譲らないぞ。俺は好きな時に、リャックと遊ぶんだ」
「…………」
 あぁ、そうなんだ。と、ラナロックはこのときに漸く気付く。自分の目の前で絵を描いている、カイナと言う存在に。
あぁ、そういう事か。と、彼女はしっかりとそこで、理解してしまった。そしてそれが故に、自身との隔たりを見出す。
それはもう、詰める事の出来ない壁であり、溝だった。だから彼女は自然、笑顔を浮かべる。自分は何故、目の前にいる彼女と同じ世界に生きているのか、と。何故自分は此処にいて、何故皆とであったのか、と。自問自答の類ではなく、それは完結している、いわば独白。

「だからリャック、そんな事言うな」

 真っ白なのだ、と。自分にはない、自分には残されていない。寧ろ初めから持たさせられてなどいない、白なのだと。
「俺が遊ぶって決めたから遊ぶ。それでいい」
 どこまでもお人好しで
「リャックもそうすればいい」
 どこまでも優しくて
「皆もその方が嬉しいぞ。絶対に」
 どこまでも――眩しい存在なのだと。

 しかし、その事にカイナは気付くはずもなく、そして彼女の手は動き続ける。何の因果か、それは彼女の本当に望むべき姿だった。
ラナロックと言う存在が、望めど望めど手に入らないであろう、切望しても齎される事も、掴む事も、奪う事さえも出来ない、輝かしい場面だった。
 真っ白な紙の中、随分と綺麗に描写されているラナロックは笑みがこぼれ、幸せに彩られている。そしてその周りには――。
「これはな、お前の近い未来の絵だ! 絶対に実現する未来の絵だ。だから、そんな顔するな」
 カイナは笑った。それは本当の笑顔。
 ラナロックは笑った。それは偽りの笑顔。



     ◇

 むかしむかしの、ずっとむかし。

きらわれもののおとこのひとが、ひとりでくらしていました。

おとこのひとはいいました。

「独りは辛い。独りは悲しい」

けれども、おとこのひとはひとりぼっち。へんじはかえってきません。
おとこのひとはなきました。ずっとずっとなきました。そのときです。

「泣くのはおよし、泣くのはおよし」

きれいなおんなのひとがやってきて、そういいました。
おとこのひとはなきやんで、おんなのひとにいいました。

「独りは辛い。独りは悲しい」
「知っている、知っているとも。だからもう、泣くのはおよし」

そういって、おんなのひとはおとこのひととくらすようになりました。
おんなのひとがやってきてからは、ひとりぼっちではありません。
ちかくにすむひとたちがたくさんやってきました。おとこのひととおはなしをして、まいにちおまつりさわぎです。

おとこのひとはもう、ひとりぼっちではありません。



 なかよくくらしていたおとこのひととおんなのひとでしたが、あるひおんなのひとはいいます。

もう貴方は独りで  。だから  しは、   とにしよう

そういって、おんなのひとはおとこのひとのところからいなくなってしました。

  おとこのひとはひとりぼっちではありません。
  おとこのひとはひとぼっちではありまん。

けれど、おとこのひとはかなしくなって、ま  きだ     ました。

ずっとなきつづけるおとこのひとをしんぱいしたひとた は、  この  をはげま    ます。

おとこのひとは   さんの 「ありがとう」 を い   た 。
       とは     の 「   」を     た 。
        ひとを しんぱいした     の ひとたちは      。
            は しんぱいした     の    を     した


とこのひとは ――       に あいたかったのです。
お     は、その      て たく        うを    ました。
お     に  たお    うを  たくさ 、     た。


   な、ま  、        ンギ ウ。