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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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 8.――『愚ヵ歌 〜償いの章〜』



     ◆

 地下二階、下ってきた階段付近にそれはあった。またしても別の人格として現れ、其処を説明したラナロックは、しかしある部屋に入るや、いきなり元の彼女へと戻っていた。
が、問題はそちらにある。
「おい、大丈夫か?」
 馬超が声を掛けるが、ラナロックは黙して語らず、ただ震えるのみである。
「この部屋に一体何があるのか……此処まで彼女が脅える意味がわからないな……」
 コアもその様子を見ながら、しかし恐らく何かがあるのだろうと周りを伺い、警戒する。
「大丈夫だよ。僕たちがいるよ」
「ラナさん、気をしっかり持って」
 ハルと鳳明の言葉も、恐らく彼女には届いていないのだろう。
「……早くこの部屋から出ないと。セイル、俺たちは手分けして情報を探すぞ! 急げ!」
「は、はい!」
 大吾とセイルは慌てて辺り一帯を探し始める。本でも、そのほかの情報でも良いからとにかく探した。内容を確認している暇はないとばかりに、何か調べる価値がありそうな物を片っ端からバッグに詰め込み、一刻でも早くこの部屋からラナロックを遠ざけられるようにする。と、そこで急に、ラナロックの震えが収まった。真っ黒な、真っ黒な彼女。
「……ラナさん、大丈夫なの?」
「大丈夫よ。あの意気地なしさんは気絶しちゃったわ。だから私が強制的に呼び起された訳。にしても、何してるの? 此処は小難しい事なんて何もない部屋。簡単よ。ボタンを押して、目の前にある大きなスクリーンを見ていれば、おのずと彼女の作られた光景が見られるわ」
「………(鳳明)
 天樹は彼女に精神感応で語りかけた。
「(まずいんじゃないの、この展開)」
「そうよね……でも」
「そうよね。あなたたちは私たちの事を知りたくて此処まで来た。ならば何を躊躇う事もない筈でしょ?」
 そう言うと、彼女の座っている椅子が突然ひとりでに動き始める。
「サイコ……キネシス?」
 手記がその動きを見て首を傾げて呟いた。
「私も驚いたけどね、たぶん最後の子が持ってきたんじゃない? なんだか気付いたら使えるようになってたのよ。さ、じゃあ皆さん、心の準備は良いかしら?」
 何かの端末に近付いた彼女は、しかしどこを動かす事もなくその端末を操り始める。
「これがみなさんの見たかったものよ。これが皆さんが探し求めていた答え。彼女の出生の理由。彼女の存在の理由。彼女の秘密のそのすべて。そして、私たちがこの小さなお馬鹿さんの中に閉じ込められた――その方法。
 そこで、目の前のスクリーンに何かが映し出された。映像。無論、その場の一同がその光景を目の当たりにするのだ――。


     此処二  地獄ハ  始マッタ。



     ◇

 一人の少女は、泣き叫んでいる。
ぼろ布のみを纏った少女は、ただただ泣き叫んでいる。画面の端には、恐らく人間だったであろうものの腕が、力なく項垂れているのが見て取れた。
 何やら器具の様な物に乗せられたそれを見て、少女はひたすら泣いている。
少女の前に、今度は一人の男が連れて来られる。男は小さく震えていたが、何やら叫び始めると、男の周りに何やら不思議な格好をした男たちがやってきて、男の口に何かを詰め込んだ。
  なおも少女は泣いている。

 男も器具に取り付けられ、少女の手にはナイフが握らさせられる。

 一度、二度、三度。

  少女は泣きながらに、そのナイフを真っ赤に染めた。
微かに痙攣する男の体が、更に新しい機械の中に放り込まれ、消失する。何か、嫌な音と共にそれは粉々にさせられ――。

 少女は泣いている。

 まるで自分が悲劇のヒロインが如く、泣いている。
 何が悲しいのか、恐らく彼女にはもうわからないのだろう。真っ黒な瞳は何処か虚ろで、何かが輝くとするれば、それは殺意を込めた時のみ。そうして、それは完成する。

 画面には――これ以上の地獄が幾度も幾度も、際限なく、連綿と、繰り返されるのだ。
それこそ――見る者の精神を壊しかねない程の光景が、ただひたすら、淡々と繰り広げられているのだから。

 それでも貴方は――真実を知りますか?



     ◆

 先行していた彼等と、探索をしていた彼等は、そこで一つの部屋にぶつかる。何かは大きな台座があって、その隣には棺がある。彼等はそこで合流するのだ。
全員の目的地――。ラナロックの眠いっていた棺のある部屋。

「……カイ?」
「おう、高円寺たちか。随分と早かったな」
「此処は……」
 棺、台座の一番近くにいる和輝たちは背後のやり取りを聞きながら、しかし台座を調べている。その後ろにはカイがいて、和輝たちの動きをただただ眺めているだけで、そしてその更に後ろには、漸く此処までたどり着いたヴァルたち先行班と、海たち探索班の面々がいる。ラナロックたち後追い班の姿はまだないようだった。
「大丈夫かな? 後ろの人たち」
「わからないわ。でも粗方トラップは解除したし、どのルートで来ても平気じゃないの――」
 プリムラがそう言ったところで、彼女は言葉を止める。無理もないのだ。その場の一同が息を呑むほどの衝撃――。

 今まで空だった台座の上、突然何かが飛来してくるや、それは何事もなく、まるで初めからその場にいたかのように座っているのだから。
「ようこそ。遠路はるばる」
「……え? あれって……」
 美羽とベアトリーチェ、衿栖が呟く。
「何、三人とも知ってるの?」
「えぇ」
 朱里の質問にベアトリーチェが答えた。
「前にラナロックさんお誕生日会をやった時、でしたよね。あの人がラナロックさんのお宅に行こうとしてた私たちに、彼女は家にはいないよって教えてくれたんです」
「結果として、彼が首謀者だった様なもんだけどね」
 言われてみれば、と数人が、美羽の言葉に反応し、見上げる。
「どうしたね? 探し物は見つかったのかい?」
「貴様、此処で何をしている」
 ヴァルが低い声で呟くと、その男――ドゥング・ヴァン・レーベリヒと言う名の男はけらけらと、何とも愉快そうに笑った。
「何、とは! 笑止千万。それは愚問だよ、青年」
「………」
「簡単な話だろう。俺は此処で君たちを見下ろしている。ただのそれだけだ」
「目的は」
 カイが尋ねるが、ドゥングが再び短く笑うだけで、首を横に振るだけだった。
「愉快愉快、実に愉快だ。あんな女、面倒ならば殺してしまえばよかろうに。君たちも見たろう? 忌まわしき女だ、おかしな女な。迷惑な女だ、そして――あいつをこの世に呼び戻したウォウルは、悪だ」
 一同がざわめく。
「そうだよ、俺はウォウルが目当てさ。あいつを殺し、その女を殺せば、それでいい。それで事が足りるんだ」
 何とも他人の神経を逆撫でする様な笑い声で、彼はそう言うと立ち上がる。
「大丈夫さ、君たちに危害を加えるつもりはない。まぁその始まりの枕には『邪魔をしなければ』として付け足すがね!」
「違う……」
 と、衿栖が呟いた。小さな声で。
「あの人……あんな人じゃなかったです」
「衿栖?」
「そうだよね、彼……いきなり話しかけてきたけどもっと、優しかったんだ。おかしいよ、様子が!」
「そうですね、美羽さん!」
「うん!」
 そう言うと、三人は頷いて構えを取る。
「ほう、俺に手向かうか。まぁ良いさ。面白くなりそうだ。でもな――」
 男は呟くのだ。

 「此処じゃあないんだよ」

 とだけ呟き、指を鳴らすと宙に飛び上がり、一同の背後で着地した。
「君たちはそこの玩具たちと遊んでから来るといい。俺は先に行くよ。じゃあね」
 扉を開き、一同に振り向きながらその場を後にしようとするドゥングは、しかしそこで瞬間動きを止める。
「まぁ待てよ、にいちゃん」
「逃げられるとは、思わない方がいい」
 扉の外、アキュートと大吾の武器が彼の首筋に当てられていた。
「ほう、まだいたか。まぁそれもまたいいが。でもねぇ、人の話は聞いた方がいい。それじゃあウォウルとどっこいだ」
 彼は突然と二人の視界から姿を消した。姿を消した途端に、二人の後ろで音がする。何かが倒れる音。
「アキュートさん、大吾さん! ラナさんが!」
「なんだと!?」
 振り返ると、その行動に対応していたコアと馬超が攻撃態勢をとったまま硬直している。
二人の視線の先には、ラナロックの首を掴んだドゥングの姿。
「おやおや、この穢れた女をわざわざ差し出してくれるのか。なんだ、君たちは良い人だね。見直した」
「ラナロックを返せ!」
「……ふざけた真似を!」
「残念だがそれは叶わぬ願いだな。この女は死ぬ。それはもう、決定事項なのだから」
「――せよ!」
 と、そこで、何かが一斉に、それこそ風が如き速さで通過していく。
「返せよ、馬鹿野郎!」
 叫んだのは未散だった。彼女は苦無をドゥング目掛けて投げつている。
「ラナさんは、ラナさんは死ななくても良いんです!」
 未散の投げた苦無は、途端にその軌道を変化させ、まるで生きているかの様に動く。見れば、やや離れたところから衿栖がその苦無を操っている。彼女は人形師なのだ。
「今度こそ、守るんだ……ラナさんを、みんなを!」
 天樹と共に鳳明が一閃、ドゥングの腕を攻撃し、ラナロックを話すと未散がそれを受け止めた。
「良かったぁ……」
 むせてはいるが、まだ息のあるラナロックを見た彼女は安堵の息を漏らす。
「……そうかそうか。これは良い。ならば、と言いたいところだが、こちらにも制限時間はあるのでな。失礼だがここら辺でしつれいするよ。さよならだ。また逢えたら、次は存分に楽しもうじゃないか」
 そう呟いた彼は、高笑いと共にその場を後にする。と、一同の後ろからそれらはやってくるのだ。
「なんだ、またか……こればかりだな、今日は」
「母上、しかしこれを終えれば――」
「そうだな、終われば帰れる。まずは帰る事から始めようか」
 氷藍、大助たちが構えを取ると、先行班の面々が苦笑を浮かべて二人に続いた。
「あぁ……ほんと、正直がギャランティが発生しても問題ほどの労働量ですよねぇ……これ」
「そんな事言わないで、頑張りましょう」
 レティシアのボヤキにミスティが答えると、二人は先行してそれらに向かって地面を蹴った。
「さぁ、まずは此処で、脱出の為の総力戦だ! 行くぞ」
 黙々と本を読み、一行の後を言っていたレンが彼等に合流しながら本をしまい、武器を取り出す。
「レンさん!?」
「すまないな。トラップの破壊、探索、やらせて貰っていたんでな。それより海、宿舎の日記は持ってきたか?」
「あぁ。取ったよ」
「そうか、まさか中身を見ては、いないだろうな」
「………」
「困ったものだ。お前たちが見なくて済むように、全て机の上に置いておいたと言うのに」
 どうやら彼、先回りをしておいたらしい。しかも、彼等が約束を守れる様、既に選別を済ませた状態で。

「まぁ良いさ。文句は全てが終わった後だ。行くぞ!」

 目の前、ラナロックの形をした人型の機晶姫、それになり損ねた機晶姫の群れに飛び込む彼等は、それぞれに思いを乗せて武器を握る。
先ずはこの、地獄と言って遜色ない空間から出る為に――。





担当マスターより

▼担当マスター

藤乃 葉名

▼マスターコメント

 皆様、ご参加ありがとうございました。今回、このシナリオを書かせていただきました、藤乃 葉名です。
 初の前後編である『過去という名の鎖を断って』の前編『愚ヵ歌』、如何でしたでしょうか。
前回のシナリオである『古代兵器の作り方』とは、やや関係性がある話、という位置付きで書かせていただいたつもりでしたが、まさかここまでダイレクトな話になるとは思っても見ませんでした。これも皆様のアクションのお陰だなぁ、と切に思っております。
 大きな伏線を残したのも、皆様のアクションをいただき「ならば盛り込まなければ!!!」と、勝手に意気込んでしまった次第でして…………。
複雑な話になってしまったのかなぁ、と少し迷いもありますが、頑張って限界に挑戦中であります。
また、今回の『愚ヵ歌』、前回に引き続き、ややシリアスかな? とは思っています。思っていますが………………どうなんしょうか。

今回に限り、もしかしたら感想のスレッドを見るかもしれません。皆様の反応によって、今後こういった話を書くか書かないかの指針とさせていただきたいので。

個人的にはそこまでシリアスではない、そこまで重くはない、と思っていますが、参加なされる皆様が「ちょっとなぁ」と感じるものがありましたら、やはり考えなくてはならないかなぁ、と。そんな事を感じています。
なので、運営様とも相談した上で、皆様のお言葉を元に方向転換しようかな? と。
この前後編、『過去という名の鎖を断って』はそう言った意味で私、藤乃と【ウォウル】【ラナロック】の区切りにしたいお話でもあります。


【予告的なものとして】
 数名の方々が設置したフラグ、また皆様が体験頂いた事象ーーその中には勿論伏線を張っています(あくまでもつもり、ですが)。
ですが、余り深く考えなくてもお楽しみいただける物を提供させていただきたく思っています。勿論、伏線がっつり回収してやるぜ! な方が楽しめるシナリオなのは前提ですよね?

 ガイドをお読みいただき、「しゃあねぇなぁ、俺たちがいなきゃ何も出来ないのかぁ」な感じになっていただける続編、頑張ります。

次回ガイド提出をお待ちいただければ、そして今回に懲りずに再びご参加いただければ、とっても嬉しいです!


 それでは、次回以降も機会ありましたら、お会いしましょう。ご参加、ありがとうございました。


▼マスター個別コメント