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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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 2.――『入院している眼鏡の君と 〜ニヘラニヘラも好きの内〜』



     ◆

 時刻は朝の八時を過ぎた頃――。豪邸と言って、全く問題はない建物の前、カイナ・スマンハク(かいな・すまんはく)はただただ呆然とその建物を見上げていた。手には何やら様々な荷物があるらしく、持ち主自身の体、半分ぐらいはあろうかというサイズのバッグにそれはそれは強引に押し込まれている。
「はぁー…………でっかいなぁ、リャックの家………何でこんなとこ住んでんだー?」
 勿論、それは独り言に終わる。呟いてからも暫くは呆然としていたカイナは、思い出したかのように首を振ると、元気良く「お邪魔しまーす」と言って、門外にある自分の身長の四倍はあろうかという柵を押し、中へと足を踏み入れる。
 それから数分間の後に漸く建物の扉の前に到着したカイナは、再び「お邪魔しまーす」と言って扉を開けた。
「うはぁー! なんだこれ! 綺麗だぁ! んー、こっちには………おっ? な、なんだオマエー!? やんのかー!?」
 家に飾られている甲冑に話し掛けていた彼女はしかし、自分が何故此処に来たのかを思い出し、甲冑を警戒しながら廊下を進んだ。
「海が教えてくれたのはー………たしかこっちだ」
 奥まった部屋。随分と奥にある部屋の前に到着した彼女は、扉にかけられていたつっかえ棒を外し、扉を開ける。
「おーい、リャックー。いるのかー、いたら返事しろなー」
 扉からひょっこり顔を出したカイナは、そこでラナロック・ランドロック(らなろっく・らんどろっく)の姿を見付ける。右腕と両足のない、幾重にもなる鎖で柱に固定されている彼女の姿を見たカイナは、切なそうな表情で彼女に駆け寄った。
「リャック……………」
「……………誰?」
「俺だ! この前会っただろ! 忘れちゃったか?」
「…………………あぁ、貴女。そう、来たの、来ちゃったの………。そっか、いらっしゃい。何も、出来ないけど、ゆっくりしていってね」
 それは随分な、それはあんまりな笑顔を浮かべるラナロックを見て、カイナは思わず、顔を擦った。目の前の彼女に、バレないように。決してバレてしまわないように。そして笑みを浮かべ、ラナロックに向くのだ。
「リャック! 遊ぼう! 今日は遊びに来たんだ、一人でじゃないぞ、リャックと遊びに、だ」
「…………ごめんね、私、今こんな状態だから、遊べないの」
「………………嫌だ。だったら今、その鎖解いてやる! だから一緒に――」
「やめなさい!」
 急いでラナロックの元に向かい、鎖に手をかけようとしたカイナに向かって、彼女は声を荒げた。
「………リャック」
「私が望んだのよ。私が決めたの。こうなる事を――。ウォウルさんを傷付けた、皆を傷付けた。そんな私はもう、貴女たちの前にいる資格はない」
「………リャック、今日はな、ちゃんと準備してきたんだぞ。ちゃんとリャックが動けなくても遊べるように………ほら、紙だ。今日はお絵描きする、リャックがモデルだぞ モデルは動いちゃ駄目なんだ。動いたら……うーん、罰ゲェムな いいか、約束だっ!」
「……………………」
 ラナロックは返事をしなかった。しかしカイナは気に止める様子もなく、その場に座り込んで鉛筆を持つと、それを握り締めてラナロックを見る。
「うーん、何か難しいぞ、リャックのその姿勢だと…………よし、うん、頑張って描こう」
 それはもう、ラナロックの言葉を聞くまいという、彼女の決意の表れだったのかもしれない。
「……………昨日な、授業中に寝ちゃって、すっごく怒られた。せんせー、こえーなー」
 返事は恐らく、無いのだろう。
「この前、和食? すし? を食べたぞ。うまかった。本当だぞ? 今度みんなで食べに行こうな! 俺がオススメ教えてやる」
 多分、それはカイナにもわかっている事なのだろう。
「リャックは何が好きだ?  パートナー好きか?  学校の皆好きか? 俺なぁ、みーんな大好きだ! パートナーも、学校も。あ、でも一番は遊ぶことかな。寝るのも好きだ。うーん…………どっちが一番かなぁ」
 それでも、彼女は言い続ける。その言葉に、例え意味がないとしても。
「今日は凄くいい天気だぞ。こういう日は外で昼寝するとすっごく気持ちいいんだ。オススメの場所もあるぞ? 今度みんなで行こう」
 誰の辛そうな顔も、見たくはないから。





     ◇

 むかしむかしの、ずっとむかし。

きらわれもののおとこのひとが、ひとりでくらしていました。

おとこのひとはいいました。

「独りは辛い。独りは悲しい」

けれども、おとこのひとはひとりぼっち。へんじはかえってきません。
おとこのひとはなきました。ずっとずっとなきました。そのときです。

「泣くのはおよし、泣くのはおよし」

きれいなおんなのひとがやってきて、そういいました。
おとこのひとはなきやんで、おんなのひとにいいました。

「独りは辛い。独りは悲しい」
「知っている、知っているとも。だからもう、泣くのはおよし」

そういって、おんなのひとはおとこのひととくらすようになりました。
おんなのひとがやってきてからは、ひとりぼっちではありません。
ちかくにすむひとたちがたくさんやってきました。おとこのひととおはなしをして、まいにちおまつりさわぎです。

おとこのひとはもう、ひとりぼっちではありません。



 なかよくくらしていたおとこのひととおんなのひとでしたが、あるひおんなのひとはいいます。

もう   独りで  。だ    しは、      よう

そういって、おんなのひとはおとこのひとの  ろからいなくなってしました。

  おとこのひとはひとりぼっちではありません。
  おとこのひとはひとぼっちではありまん。

けれど、おとこのひとはかなしくなって、ま  きだ     ました。

ずっとなきつづけるおとこのひとをしんぱいした    は、      をはげま    ます。

おとこのひとは     の 「あ がと 」を い   た 。
       とは     の 「    」を     た 。
        ひとを しんぱいした     の ひとたちは      。
            は しんぱいした     の    を     した


お       ――       に あ      です。
お     は、その      て たく        うを    ました。
お     に  たお    うを  たくさ 、         た。


    な、ま   、        ンギ ウ。