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リアクション
●資料館1
「村の資料館は、ここだな」
涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は村内で一際大きい建物を見上げてそう言った。
平屋作りではあるが、蔵書を収めるだけならばなんら問題はない。
「イルミンスールの大図書館に行ければいいのですけれどね、兄さま」
涼介に答えるのは、エイボン著『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)だ。
「確かにそうだけど、今は時間が惜しい」
この手の物なら類似した伝承が必ずあるはずだ。しかし、今はイルミンスールまで行きここへ戻ってくるまでの時間は無い。
だからこそ、今切れる手札を切っていくしかない。
涼介は扉を開け中に入る。
ずらりと書架に並べられた本が目に入る。
絵本から民話、歴史書にいたるまで。雑然と本が並んでいた。
「これは、骨が折れそうだ」
言って涼介は肩を竦めた。流石に図書館のように種類ごとに分けられているという訳には行かなかったようだ。
「私はこっちから調べるから、反対から調べてくれないか」
エイボンの書は頷くと、涼介とは逆方向から調べ始める。
書架を2、3見たところで妙な違和感があった。
出版された本が最近のものしかない。と、言ってもここ2、30年くらいの間に出版された程度には年数は経っている。
余り人が触らないのか資料館自体が埃っぽく書籍にも埃がうっすらと積もっている。
そして、歴史書や伝承の本なんかは広域的な御伽噺に近いものしか置いていない。
まるで、村について知られたくないかのようだ。
村の歴史についての本すらも一切ない。
あるとしてもここ最近の人の出入り、宿帳、道具屋の売り上げ表、そんな店舗に保管することが億劫になったものが雑多に詰め込まれている。
「いよいよ、キナ臭くなってきたぞ……」
「兄さま、ちょっといいですか?」
エイボンの書が涼介の服の裾を引っ張った。
「何か見つかったか?」
「はい、ざっと見た限り史書に類する物は無さそうですわ。でも……」
エイボンの書は何か引っかかっていると言う様子だ。
涼介はそんな露骨な態度を感じ取ったのか、
「どこか違和感があったのか?」
「来てもらってもよろしいですか?」
「勿論」
涼介は二つ返事で、エイボンの書の後を追う。
そこで気づく。書架の配置が妙だと。
入り口から離れた通路、その奥はまるで何かを隠しているかのように書架があった。
他の書架には隙間無く書籍やファイルが入っているのに対して、ここだけは違った。
中段部分の本が抜かれた書架と、その書架の棚に散らばって片してある真新しい四冊の本。
「なるほど……臭い物には蓋をか」
涼介はたったそれだけで理解した。
そして『開戦の手引き』『けしからんおっぱい大全』『ゴウトゥヘル』『マゼンタ配合全集』の真新しい四冊の本を中段に埋める。
頭の文字を取れば『開けゴマ』
埋めると書架は埃を撒き散らしながら地面に沈んでいく。
「まあ、言葉遊びってところか。普通にエロ本にこういう役割を持たせるなんてことはないから、気づかなくても仕方ないな」
「うう……黴臭いですわ」
「我慢だ、行こう」
涼介たちは資料館に隠された部屋へと入っていく。
紫月唯斗(しづき・ゆいと)も資料館に目星をつけやってきていた。
中から話し声がする。どうやら考えることは同じようだ。
それもそうだ、と唯斗は一人納得する。
拠点とはいえそう大きくもない村だ。調べることができる場所なんてたかが知れている。
そうして唯斗が資料館に足を踏み入れようとしたとき、資料館が揺れた。
積もった埃が舞う。揺れはすぐ収まると、どこか辟易した少女の声が室内から聞こえた。
唯斗は声がした方へと足を向ける。
そこにはぽっかりと奥へ進むことができる空洞があった。
「ここに何かあるのでしょうか」
岩肌を手の甲で叩きながら、前を歩く二人組みに追いつく。
「おや、君は……」
涼介は唯斗に気づくとすぐさま声をかけた。
「俺も結界について調べている者です」
「それは助かりますわ。ミルファ様を追いかけて行った方たちのためにも早く調査を終わらせましょう」
エイボンの書がにこりと唯斗に微笑みかけて言った。
そうして三人は広間に出た。
濃密な闇が広がるが、通路の段階で既に暗かったお陰か3人の目はそれなりに慣れていた。
入り口付近に蜀台があり、使い古されている蝋燭に火をつけた。
辺り一体に広がるのは、雑然とした空間だった。
本から紙切れから、ただ紙を束ね紐で閉じたものまで。さらには実験用の道具らしきものから、何に使うのか用途の分からない部品など。
そこは何かの作業場といった風であった。
そして、その全てが風化していた。
「……これは骨が折れそうですね」
唯斗は埃に顔を顰めながら言った。
「もう少し人手が欲しいな。運よく気づいて来てくれる人がいることに賭けよう」
「それまで整理できるところは整理しましょう!」
ぱんっと拍手を打つエイボンの書に頷く2人。
誰か来てくれるだろうという運を、天に任せながら3人は作業を始める。
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