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もみのり

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 一方。
「ヒャッハー!」
「ひぃああああっっ! こっちにも怖そうなモヒカン来ましたぁ!?」
 ネギオは、ハーフムーンロッドを所構わず振り回す。
「く、来るなら来い! 吉井さんに危害を加えるのは、この僕が許さないぞぉ!」
 真理子たちの隠れている小屋を襲うモヒカンたちの前に立ちはだかるネギオ。ダメージも受けていないのに足腰はダウン寸前のボクサーのようにガッタガタだ。だが、彼は領主として意を決して叫ぶ。
 バゴン! とモヒカンが小屋の扉をたたき割ったのが見えた。奥には人影がある。これを防がないと……。
「吉井さん! 僕が相手をしている間に逃げてくださぁい! これも次期当主としての修行のため!」
「……」
 返事はなかった。いやな予感がして振り返るネギオ。
 彼が話しかけていたのは、田んぼに備えるはずだった作りかけの案山子だった。
「ああっ、吉井さん! ボクがふがいないばかりにいつの間にかこんな姿にっ!?」
「こんの馬鹿弟子がぁっっ!」
 次の瞬間、ネギオは殴られ吹っ飛ぶ。
「貴様、一皮むけるどころか、化けの皮ベロンベロンに剥がれてるじゃねえか、ボケがっ!」
 小屋の奥から姿を現したのは、ネギオの主人の冥土院 兵聞(めいどいん・へぶん)だった。
「みすみは救世主なしで、モヒカンのリーダーを倒しやがったぞ。貴様もいけオラ! 死ぬまで帰って来んな!」
「いいやあああああっっ!」
 泣きながら突撃していくネギオを見送ってから、兵聞は振り返った。
 小屋の奥には、真理子を含め村人たちが無事に保護されている。そちらにむかってニカッと笑って見せる。
「……まあ、種もみにしちゃ、よくやったほうじゃねえの? あとは、我輩たちに任せておけっての!」
 その言葉どおり、救世主たちが登場する。
「吉井さん。俺はちょっと怒ってる」
酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、迫りくるモヒカンたちから真利子を守るように立ちはだかって、短く言った。
「どうして素直に頼ってくれなかった?」
「……ごめんなさい」
「助けて、って一言で俺たちはどこからでも駆けつけてあなたを守ったのに」
「……ごめんなさい」
「あなたの好奇心と自責の念については何も言わないけど、避けられたのはちょっと寂しいな」
 それだけ言うと、陽一は振り返ってにんまりと笑う。
「無事でよかったよ」
「うん、ありがとう。お守りくれたでしょ。あれのおかげよ」
「何のことかな?」
 陽一は口笛を吹く真似をすると、敵に向き直る。
「さあ、始めようかモヒカンども! てめえらに明日はねえぜ!」
「ヒャッハー!」
 陽一とモヒカンの間で戦闘が開始される。
「さあ帰ろう、吉井さん。向こうの村でみんなが待ってるわ」
 この農村でいる間もずっと影から真利子を守り続けてきた芦原 郁乃(あはら・いくの)が、手をとり立ち上がらせる。
「ありがとう。でも、酒杜さんともども、どうしてわかったの、私がここにいるって」
「私も彼も契約者よ。吉井さんはこっそり抜け出して私たちをまいたつもりかもしれないけど。悪いけど、そんなの見逃すはずがないでしょう?」
 クスリと微笑む郁乃。
「あなたがいくら運動神経と感覚に優れていても、ここでは無力同然なんだから。無理しないの」
「そっか。ずっと見守ってくれていたのか……」
「ずっとワゴンの中ばかりじゃ、気がめいるものね。大自然に触れて、少しは気分が落ち着いた?」
「おかげさまで。元気を取り戻したわ」
「それはよかった。じゃあ走るわよ、村の外れまで」
「うん」
「おいおい、俺は置き去りかよ!?」
 郁乃のパートナーのアンタル・アタテュルク(あんたる・あたてゅるく)が不満げに言う。
「まだモヒカンが残ってるでしょ。吉井さんの安全のために、盾となって戦うの。何か不満がある?」
「……ちっ、わかったよ!」
「ありがとう」
 真利子はその言葉を残し、郁乃に連れられて村の外へ向かう。
 程なくして、二人は村の出口へとたどり着いた。
「やれやれ、お疲れ様」
 待っていたのは、隣の裕福な村で待機しているはずの理沙やエース、そして邦彦たちだった。全員が純粋に彼女の帰還を喜んでいるようだった。
「せっかくメアド交換したのに、こんなところでお別れじゃ、寂しいでしょ」
 ノーンはにっこりと微笑む。
「いきましょうか、脱走好きのお姫様。またみんなで楽しくお話しましょ」
 郁乃の笑顔に、真利子は目を潤ませる。



「俺は非常に怒っているぞ、モヒカンども!」
 真利子のときとは明らかに違う口調で、陽一は退治したモヒカンに告げる。
 モヒカンたちは全員、彼らに叩きのめされた後、パンツ一枚で正座させられていた。
「おかげで、俺だけいいところを逃しちまったじゃねえか!」
 真利子たちの去って行った後をちらりと見やって、彼はため息をつく。
「お前ら全員そこで、腕立て腹筋背筋を100回づつ20セットやってから、整列してジョギングでパラ実の極西分校まで行け。俺が臨時教師してるから、いくらでも受けいられるからさ」
「……」
 裸になったモヒカンたちは、何かを言いたげに陽一を見返す。
「なんだ?」
「あなたたち、スカスカじゃないおせちを食べたかっただけよね? 一緒に食べよ」
 酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)が食材を手にやってきた。
 おおっっ! とモヒカンたちが歓声を上げる。
「しょうがねえ連中だな。腹へって暴れていたのか、お前ら。まあいいか、こんなのも……」
 陽一はモヒカンたちを見回しながら、言った。
「食べたら学校に戻るんだぞ。こんなところで自分の未来と可能性をつぶすんじゃねえよ……」