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もみのり

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「はいはい、どいてどいて。あんたたちと関わってたらおかしくなっちゃうんだから」
 教導団の群れを掻き分けて話の輪の中に入ってきたのは、蒼空学園の白波 理沙(しらなみ・りさ)だった。
 話の展開についていけず唖然と見守るだけの真理子の手をとり、反対側の席につれてくる。
「ちょ、お前なんなんだよ!」
 ブーイングが飛ぶが、理沙は全く気にしない。
「ごめんなさいね。悪い人たちじゃないんだけど……」
 苦笑しつつも言うと、真理子はほっとしたようなため息をついて微笑み返してきた。
「ありがとう。ちょっとびっくりしただけ。あ〜あ、私も年取ったかなぁ。昔はあれくらいのテンション平気だったんだけど」
「え〜、吉井さんって、まだ23歳でしょう? 十分若いじゃない?」
「そうでもないわ〜。化粧品が手放せなくなってきた、お肌とか。スッピンでもいけると思ったんだけどなぁ……」
「そんな……悲しいこと言わないでよ。そのお肌で自信なくしてたら、この学校の女子だって生きていけないよ……。どれだけ理想高いのよ……」
「理沙さんだっけ? あなたに言われてもね〜。なによ、めちゃくちゃ可愛いじゃない。もう、モテまくりでしょう?」
「……がっくし」
「え、嘘? ごめんなさい」
「いいわ、こんなもんよ」
「こんなもんか……」
 二人は同時にため息をつく。
「恋って難しいですよね。……あ、チョコ持ってるので、よかったら食べません?」
 隣で早乙女 姫乃(さおとめ・ひめの)が聞いてくる。真理子は一瞬ものほしそうな目つきをしたが、すぐに首を横に振った。
「……ごめんなさい。甘いもの控えてるから」
「ええ、もしかしてダイエット中ですか? それは気がつきませんでした……」
「若いうちはバリバリ食べてもいいのよ。気にしなければならなくなったってことが、年をとったってことなんだろうなぁ……」
「いやいや、若い方がヤバいんだって。油断してたらすぐに体重大台いっちゃうし」
「そうだったっけ……? 私は中学から高校時代は体育会系だったからね。食べても食べても足りない感じだったわ。今同じことやったら終わるけど」
「え、意外よね? 何やってたの?」
「ソフトボール。これでも、髪お下げにしてバット振り回してたことあるのよ、ヒャッハー!」
「ぜんぜんそんな風には見えないわ。もしかして大会とか出たの?」
「県大会、決勝でサヨナラホームラン打たれて負けた。本当は甲子園にいきたかったんだけど、女子は甲子園に出れないってわかったのが中二の夏で、三日くらい泣いたっけ……」
「……うわぁ、濃いなぁ。吉井さんって、案外面白キャラ?」
「なぜかそう言われるわ、それで得したことないけど……。そんな女引くわ、とか言われた」
「……わあ、ヒドイ」
「あなたは?」
「……」
「辛いね」
「うん、辛いね……」
 理沙と真理子はもう一度がっくりとうなだれた。
 そんなギャルズトークに最初は置いてけぼりになっていた他の生徒たちも興味を持って顔を覗かせてくる。
「残念だなぁ。そういうキャラ好きな男性も多いんだけど」
 テンポのいいトークに微笑になって、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は花束を差し出してくる。
「同行した素敵な女性が、楽しい方でよかった。お近づきのしるしにどうぞ、お嬢さん」
「うわぁ、ありがとう」
 真理子は素直に受け取って嬉しそうな顔をした。だが、すぐに半眼になって冗談口調でいう。
「あなたニクいわね〜、同じこと聞くけど、すごいモテるでしょ?」
「ははは……。そうだといいんだが、現実的にはなかなかで」
「そのルックスと女の子の扱いでなかなかって、レベル高すぎでしょこのパラミタって。今日本にきたら多分ハーレムよ」
「ゴメンネ、彼ってこういう人なの。下心は全くないから」
 エースのパートナーのリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が横合いからしっかりとフォローを入れてきた。
「あ、納得したわ」
 真理子は苦笑する。
「これだけの美人が傍にいたら、そりゃ他の女子は手を出しかねるわよね」
「そうなの? でも、下心が全くないっていうのもシツレイな話よね」
 リリアはこっそり耳打ちしてくるが、真理子は首を横に振る。
「いやいや、下心出してもらっても困るわ。あなたと戦って勝てるとは思わないもの」
「?」
「リリアはちょっと世間知らずな所があるので迷惑かけたらごめんね」
 とエース。
「迷惑どころかお似合いで見ていて楽しいわ」
「両方天然なところが、またなんとも……」
 真理子と理沙は口々に好きな事を言い出す。
「でも、このお花、もったいないよね。花瓶ないのかな、枯れたら可哀想じゃない」
「こんなこともあろうかと、用意してありますよ。解説役ですから」
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が話の輪に入ってくる。
「相変わらず用意いいのね、あなた。ありがとう……」
「いえいえ、どういたしまして。なんでもお申し付けくださいよ」
 真理子は、花瓶に花束を刺すとこけない様に足元に固定しておく。
 そんな彼女は、ふと近くに座っている青年に目を留めた。
「あれ、私以外にも一般人がいるの? そこにいる人、サラリーマンでしょ?」
「……俺のことですか? はは、数年前までそうでしたよ」
 にこやかに話を聞いていた斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)は突然話を振られて愛想良く頷き返す。
「どうしてわかりました?」
「学生たちと明らかに雰囲気違うもの。社会に出たことのある男の匂いよ」
「サラリーマン時代が懐かしいですよ。もうずいぶんと昔のことのように思えます」
「うらやましいわね。数年前がずいぶんと昔に思えるほど濃厚な時間をすごしているなんて」
「真理子さんこそ、わざわざ地球からここまで。しかもヒッチハイクとはまたアグレッシブな」
「どうだろ。現実から逃げ出したかっただけなのかも」
「こちらも向こうも、実はほとんど変わらないのかもしれませんね。ただ、こちらは少々物騒ですので」
「そうみたいね。みんなに迷惑をかけないつもりではいるんだけど……」
 真理子はそう答えるが、今ひとつピンときていないようだ。
 何もなければいいが……、と邦彦は心配げに彼女を見つめる。
 現実的な話になったからだろうか、ジャンバラ教導団の集団から、女の子がこちらにやってくる。
「ところで真理子さんだっけー、銀行に勤めてるんだって?」
 金元 なななと話していたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、少し固い口調で話しかけてきた。話の輪に入りたくて取っ掛かりを探していたようだ。
「ワタシのお兄ちゃんがね、この間結婚したんだけど、定期預金どこのが有利なの? 結婚したら貯蓄が大事なんだって、誰かが言ってたわ。でも、ワタシ精霊だからそういうのさっぱりなんだもん」
「へえ、おめでとう。きれいな花嫁さんなんでしょうね」
「うん、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)って言うんだけど」
 名前を聞いて真理子はゲホゲホ咳き込む。
「いやあなた、預金どころが銀行丸ごと買えるじゃない」
「知ってるの?」
「知ってるどころか、金融業界じゃ“神”みたいなものよ。さっきの大王の話よりすごいわ。……お近づきになりたいな〜、コネ作っておきたいな〜?」
 物ほしそうにちらちらと視線を投げかけてくる真理子にノーンは気軽に携帯電話を取り出す。
「じゃあメルアド交換しよ。そしたら、いつだって連絡取れるわ」
「むしろこちらからお願いしたいわ、“神”の義理の妹(?)よ」
「いや、お兄ちゃんとは血縁じゃないんだけど」
「名前、なんていうの?」
御神楽 陽太(みかぐら・ようた)よ」
「あ、それは聞いたことないわ」
「まあ、お兄ちゃんは普通のお兄ちゃんだから」
 そうなんだぁ……と真理子は頷いて、やはり環菜に興味を移す。
「で、彼女、今なにやってるの? 専業主婦って感じじゃないけど」
「鉄道王めざしてるんだって」
「インフラを支配する者は世界を支配する。世界征服完了したら、知り合いのよしみで3LDKくらいの一戸建て一軒分けてよ」
「それだけの人と知り合って、野望小さすぎよ」
 理沙は笑った。
 これを機会に、お互いのメルアドを交換し合う。これで、彼女が帰った後も連絡を取り合えるだろう。
 彼女らは、その後も語り合う。こうやってお互い大切な仲間になっていくのかもしれなかった。