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 一方で……。そんな彼女らとは別に、頃合いを見計らって動き出す者たちもいた。
「……という具合に皆が集まってきましたこのワゴン。一体どんな展開が待っているのでありましょうか。少々、お話を聞いてみましょうか」
 なんだか出会いと恋の予感がプンプンと漂ってくるぞ、と期待に胸を膨らませて乗り込んできた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)は、今回は解説役を買って出ることにしたらしい。
 人物紹介も兼ねて積極的に話しかけてみる姿勢は、物語進行の上でも助かる存在だ。
 偶然目が合った高円寺に歩み寄り、遠慮なく隣の席に割り込んだ。手製のマイクを突きつけ、
「まずは、高円寺海殿。最初からワゴンに乗っていたわけですが、何か一言」
「……」
「はい、ありがとうございました。さて、次は」
 あっさりと興味を失い立ち上がった小次郎は、車内を見渡す。
「……あんたは一体、誰に話しかけているの?」
 いい具合に突っ込みを入れてくれたのはうさぎの プーチン(うさぎの・ぷーちん)だ。
 真理子を追いやり助手席をしっかりとキープしたプーチンは、デジタルカメラで車内の様子を収めている。
 ワゴンの中に押し込められた若い男女。危険いっぱいの旅。こんなおいしい絵柄を業界人(?)として見逃すわけにはいかないと、映像として記録に残す腹積もりだ。
 パートナーの葛葉 杏(くずのは・あん)がお留守番で同行していないため、今日は自由に動き回れる。
「エア視聴者に語りかけている暇があったら、素敵な出会いを探したほうがいいと思うわ。あ、もちろん相手はこのプーちゃん以外でね。有名人だからって、つけまわしたりしたら嫌われちゃうぞ?」
「いや、私は貴殿のこと全然知らないのですけど?」
 興味無さそうに、ポツリと小次郎は呟く。そんな彼にはお構いなしにプーチンは“TVの前のみんな”に向かって笑顔を弾けさせた。
「みなさん、こんにちわー。当然知ってると思うけど、今日はこのプーちゃんがもみワゴンを紹介しちゃうぞ」
「……今のところ誰も話を聞いていなさそうですな」
「いいのよ。言ってる間にいい感じになってきているんだから」
「ほう……、さっそく高円寺殿に接近している女子がいますな。まあ、私にはどうでもいいですが……」
 思わず身をかがめうっそりと笑みを浮かべながら見つめる小次郎の視線の先で、高円寺 海にやや緊張気味ながらも親しげに話しかけているのは、一緒にワゴンに乗り込んできた、杜守 柚(ともり・ゆず)だった。
 うまい具合に海の隣のシートを確保できた柚は、盛り上がる後ろの様子を伺いながら海に聞く。
「海くんはトランプとかやらなくていいのですか?」
「面倒くさい」
「でも、雅羅さんは皆と一緒に遊んでますよ? 確か彼女と二人連れでやってきたと思ったんですけど」
「彼女とは全く関係ない。途中で出会っただけだ」
「……そうなんですか。よかった……」
「なにが?」
「あ、いえ。なんでもないです」
「そうなのか?」
「そうなんです」
 ちょっぴりご機嫌になって、柚はごそごそとかばんの中から弁当箱を取り出した。
「あの、実は私お弁当を作ってきたんです。一緒に食べれればいいな、って……」
 恐る恐る尋ねる柚をちらりと見やって、海は短く答える。
「いらない」
「遠慮しなくてもいいですよ。たくさん作ってきましたから。みんなで食べた方が美味しいですよ」
「いらない」
「ほら、海君の好物も用意してきたんですけど」
「……」
 海は黙り込んでしまった。
 そんな彼をちらちらと見ながら、柚はしょんぼりした表情になる。
「あ〜、どうしましょうか。海くんはいらないって言ってますし、捨てるのはもったいないですし……」
「しょうがないね。海はいらないって言ってるんだから、二人で食べようよ」
 様子を見つめていた柚のパートナーの杜守 三月(ともり・みつき)が、柚と反対側の海の隣の席に強引に座った。二人で海を挟むような格好になる。
 柚はひざの上に重箱の弁当箱を載せて開いた。それを覗き込んで三月は感嘆の声を上げる。
「おお、これは美味そうだ。でも、海はいらないっていってるからな……」
 三月は箸を伸ばしおかずを一つ摘み取る。それを海の目の前でちらつかせて。
「例えば、これなんか海の大好物だったよな」
「……」
「それを……一口でパクッ! う〜ん、最高。口の中がパラダイス」
「じゃあ、私も……むしゃむしゃ」
「音を立てて食べるのは行儀が悪いぞ、柚」
「ああ、ごめんなさい。楽しい食事ですので、つい。一緒に食べられない人は残念ですね……」
「本当だな。あ、から揚げ発見。なんか海のためのものみたいだけど、いらないっていってるからな……むしゃむしゃ」
「むしゃむしゃ……」
「……。……お前ら、オレをからかって面白いか!」
「うわぁ、海がキレたー!」
 海にギロリと睨まれて、三月は舌を出した。
 柚もクスクスと笑って、箸につまんだおかずを海の口元へと持っていく。
「はい、あ〜ん」
「あ〜ん……、って、自分で食べれるだろ!」
 思わずつられて食べさせてもらいそうになった海は、少し赤くなりながら箸を受け取った。
「ああ、わかったよ。遠慮なくいただくぜ。ちょうど腹も減っていたしな。別に好物を取られて口惜しいとかそんなんじゃないからな」
「わかってますよ。じゃあ、一緒にいただきましょうね」
 ぺちゃくちゃと楽しくおしゃべりをしながら、柚と三月、そして海は手作り弁当を食べ始めた。
「なんですか、あのリア充どもは……」
 やさぐれた口調になって小次郎は言う。車内はすでにグループが出来上がってしまっていた。なんとなく取り残された感の彼はみすみに視線をやる。
「みすみ殿、お弁当は作ってくれてないですよね?」
「種もみならいっぱいあるけど。ちょっとくらいなら齧ってもいいよ?」
「いいえ、結構です」
「……とか何とか言いながら、あの二人が座りやすいように、最初にわざと高円寺くんの隣のスペースに割り込んで席を空けてあげたでしょ。結構ニクい男ね、あなた」
 プーチンに助手席を奪われた真理子が、隣の席から話しかけてくる。
「なんのことですか? 私はそういうのには特に意識していないのですが」
「うふふ……。そうやってこまめに動いていれば、きっといいことあるよ」
「ほう……、ちなみに真理子殿はこまめな男が好みなのですか?」
「……」
「……空気を読まなかったようですね……」
 ちょっと気まずくなって、小次郎はその場から離れた。
「いいのよ、もういいの……。私だって立ち直れるんだから……」
 真理子はポツリと呟く。