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【●】光降る町で(前編)

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【●】光降る町で(前編)

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【女王の間にて】




「ここが、最深部か……」

 クローディスが感嘆とも緊張ともつかない声で呟いた。

 報告にあったとおり、ドーム状に開けた空間の壁面には無数に穴が空いており、先日の事件から今日までの間で産み落とされた卵が孵化したのだろう。中央に鎮座する女王の周りで、フライシェイド達が群がっている。
「また、うじゃうじゃといるようでありますね……」
 丈二が嫌そうな声で口にした。
「でもあれだけいれば、おなかいっぱい食べれそうだよね」
 緋柱 透乃(ひばしら・とうの)の言葉に、一人を除いてげ、と顔を顰めた。その除く一人、ヒルダは頷いて「やっぱり、食用になりそうだと思うわよね」などと口にする。
「毒さえなければ、揚げるとか、佃煮とか食べれそうな気がするのよね」
 そのままどうやって調理するか、どうやって毒を抜くか、などと食べる前提で話を始めてしまった二人を慌てて両者のパートナーが止めると、こほん、と仕切りなおすようにこほん、とクローディスがわざとらしく咳をした。
「それより今は、こいつをどうするかだ」
 指をさした先では、大きな腹をしたフライシェイドの女王と思しき、アリジゴクのような巨大な虫が、ドームの中央に鎮座している。灰色の全身に邪悪さはないが、だからといって友好的というわけでもない。放っておけば間違いなく、亀裂を広げ、先日の事件を繰り返すことになるだろう。
「しかしまさか、カモフラージュの為に作られたモンスターだったとはね」
 羅儀が、呆れとも驚きともつかないため息を漏らした。
 鈴と良玉が中継しあい、クローディスの元へ集まっていた情報を共有し、洞窟の壁面が人工的であったこと、そして女王が意図的に作られた存在である可能性のあること等から、この洞窟もまた、祭りを行わせるための理由の一つであると判断されたのだ。
「遺跡に居座った女王、というのも面白いと思ったんだがな」
 リリが言うのには、何人か苦笑した。その方がいくらかましだったかもしれない、とその表情が語っている。
「間違いなく、女王の為に用意されたんだろうな」
 わざわざ、女王の声を増幅させるような壁面を作ったのは、恐らく、封印を破られる余地を敢えて作っておくことで、いざ人心が離れようとしたとき、或いは祭りを中止しようと言う声が上がった時に、危険性を演出するつもりだったのかもいれない。念のためサイコメトリで探ってみたものの、流石に当時の思念は微か過ぎて、その真意を読み取るには至らなかったが。
「だが現実に脅威である以上、何とかしないわけにはいかないですね」
 幸いと言うべきか、当時の町の創設者の子孫は殆ど残っておらず、賢者の行方も知れぬ今、フライシェイドの脅威を取り除く障害は無い。長老にしても、真相に最も近い位置まで近づきながら、教導団に助けを求めたあたり、祭りを継続することを願ってはいても、女王を討伐することに関しては反対の意思は無いようだ。

 ではどうするか。
 それについて、調査団も交えて意見を交わしていた、そんな最中のことだ。
 今まで真っ暗だったドームの中が、唐突に明るくなったのだ。
「何だ……?」
 警戒しながらドームを覗き込んだ永谷は、ドームの壁面に広がる、巣穴と思われる無数の穴の奥が発光しているのに気がついた。蛍が輝いているかのような、この場所にそぐわない幻想的な状況を、思わず呆然と皆が見ていると、その淡い光は、壁面を伝い、まるで光の網のような模様を壁面に描きながら、女王のいる床まで移動していく。その先は、女王の体が邪魔になって良く見えないが、どうやら光の終着点らしき場所がそこにはあるらしく、移動を終えた光が戻ったり、あるいは別の場所へ出ると言ったようなことは無いようだ。
「あの床に、何かありそうだな」
 乱世が呟くのに、そうだな、とグレアムも同意する。
「調べる必要性はあるけど、それには女王をなんとかしないとだよ」
 レキの言葉に、まだ諦めきれないでいたのか、エールヴァントが何とか捕獲できないものか、と呟くように言ったが、それには政敏が首を振る。
「あのでかさだぜ?無茶言うなって」
 だが、ならばどうする、と司が皆の顔を見渡す。不安そうな者、好奇心に目を輝かす者、あるいは、好戦的に笑う者。そんなそれぞれに、意見を求めるように、司は腕を組んだ。
「あの場から動かさなければ、どちらにしてもあの光がなんなのかは調べられそうもないぞ」
「女王が封印の要というわけではないことは、もう判りましたしね」
 続けたのは白竜だ。それを受けて、丈二も頷く。
「危険は、排除しておくに越したことはないであります」
「それに、あまり悠長にはしていれないらしい」
 その会話を背に聞きながら、ドームの中を覗き込んでいたクローラが言った。どうやら、大勢の人間が近づいているという事もあって、女王やフライシェイド達の様子も段々と不穏になっているようだ。このままじっとしていても、遠からず襲い掛かってくるだろう。
 通路を封じる等の手段も考えたが、手間もかかる上、この場所が町の中にあるのはわかっていても、正確位置がつかめてるわけではない以上、どういった影響が出るかも未知数だ。
 皆が同じ意思のもとで目配せし、その確認をし終えるとそれぞれの役割を果たすための武器を取る。
 緊張の高まる中、良玉が鈴に告げた。

「討伐隊、これより任務開始する」