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夢見月のアクアマリン

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夢見月のアクアマリン

リアクション

「そこ、それから棚の上の箱の中も見て頂戴」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はきびきびと仲間の上杉 菊(うえすぎ・きく)シルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)に指示を出していく。
「あのぉ……何やってんの?」
 部屋の隅で正座をさせられている武尊は、ローザマリアに話し掛けて、そして女の敵!
 とばかりにギロリと睨みつけられてビクンと跳ね上がり思わず言い直す。
「何してらっしゃるんですか?」
「……探し物よ」
「まさかパン――」
「あんたと一緒にしないで!!」
「……す、すみません」
「……通信手段よ。
 ジゼルは三人の何か上の立場のものと話していたと聞いたわ。だからその人達との通信手段を持っているはず」
「へ?」
「無ければジゼルが大事にしている物やジゼルがその三人から貰った物を探す。
 その何れか一つに機晶爆弾を仕掛けるつもり。
 どうしても見つからない、或いは無ければここの扉に爆弾を仕掛けるわ」
「どうしてそんな事……」
「いい? 『マキャヴェリ水産グループ』現会長の娘、このシルヴィア・セレーネ・マキャヴェリが直々に教えてあげる。
 交渉の鉄則は相手の要求を呑むにせよ先ず、最初にそれを無条件に示唆せず、此方の要求も併せて提示し相互の落し所を探る所から始まる。
 契約者達の無事の帰還を此方の要求として提示し」
「????」
「御方様、シルヴィア様。 この方例の事件の話……テレパシー通信を聞いていないのでは?」
「……何の事だ?」
「はぁ……仕方無いわね、話してあげ――誰かきたわ!」
 四人が隠れる間も無く、部屋の扉が開かれる。

「あなた達……ここで何してるの?」
 ジゼルとヴァーナーが戻ってきたのだ。
 ローザマリア達三人は目配せをする。
 途中で知られてしまったとはいえ、計画を辞める訳にはいかない。
 とにかくまず相手に優位に立たねば。
 初めに口火を切ったのは菊だった。
「ジゼル様……わたくし達、聞いてしまったんです。あなたがわたくし達を騙そうとしている事を」
「っ!!」
「性格にはテレパシー通信です。この城に居る多くの方がもうこの事実に気づいています。
 どうか事情を話してくれませんか」
「…………」
 黙りこむジゼルのスカートを、ヴァーナーの小さな手が引っ張っている。
「ジゼルおねえちゃん?」
 これ以上もう騙す事は出来ない。
「私は……私はモンスター……セイレーンの一族の一人なのよ……」
 息を飲む声が聞こえた。
 皆の顔を見る事が出来ないまま、ジゼルは続ける。
「幼いころから聞かされてきたわ。私の一族は、人間との戦いでその殆が滅んでしまったって。
 私が物ごころつく頃には一族は私の家族しか残って居なかった。
 その家族も……三年前に皆……。
 セイレーンは身体が弱くて、ある日まるで全部の動きが止まる見たいに死んでしまうの……」
「では、残されたのはあなた一人だと?」
 ジゼルが頷くのをみて、ローザマリアは首をかしげる。
「宴会に居た踊り子や給仕の人たちは?」
「あれは幻影のようなものよ。私が準備した食事を運んだり、踊ったりする姿を見せたり。それ程長い時間干渉できない……偽物。
 一時的に三賢者様から力を与えられて具現化しているだけなの」
「三賢者? それは一体何者なの」
「私達セイレーンの一族の長のような方々よ。
 昔人間との戦いがあった時、大きな傷を負って魂だけを宝玉に宿されたの。
 私に地上の知識を与えてくれて……それから今回の計画も……」
「それってあたし達の力を奪うっていうののこと?」
「ええ、地上から強い力を持つ契約者達を連れてくること。その力を宝玉に与えれば、セイレーンの一族を宝玉の力で復活させられるって聞いたの。
 本当はこんな……手荒な真似をするなんて」

「ジゼル様、あなたは迷っているのですね」

「っ! ……それは」
「本当にその三賢者を信じて良いかどうか、分かっていないのね」
 ローザマリアの言葉に、ジゼルは顔を青くする。
 気づいていた事だった。
 自分の気持ちを隠してきたのを見抜かれてしまったのだ。
 首を振る彼女の目を、シルヴィアが冷静な瞳で見据える。
「嘘をつかれてるかもよ」
「そんな事ない!! 三賢者様は……セイレーンを復活させるって言ったの!! 私、私は!!」
 虚勢を張っても、もはや立っている事も出来ない程、ジゼルは心を揺さぶられていた。
「ジゼル様、あなたの本当の気持ちを言って下さい!!」

「やめてッ!!」
 ヴァーナーが三人とジゼルの間に入っていた。
 彼女はジゼルを庇うように両手を広げている。
「どうしてそんなコトいうんですか! おねえちゃんがかわいそうなんです!」
「ヴァーナー……」
 ローザマリアらは呆気にとられた様に目を見開いて、そして顔を見合わせて少し噴き出してしまった。
 彼女達にとっては戦略的交渉のつもりだったのだが、どうやら子供に誤解されてしまったようだ。
「ごめんね、そんなつもりじゃないの」
 ローザマリアはヴァーナーの頭に手をぽんと置くと、二人のパートナーに目配せする。
「今は一旦時間を置いた方が良さそうだね」
 シルヴィアの言葉に続いて、三人は部屋を後にした。
 菊は去り際にジゼルの隣に膝を曲げて耳打ちする。
「ジゼル様、あと一つだけ。
 三賢者とやらががジゼル様を出しぬかない保証はございますまい。信頼しすぎない事です。
 自分の心にこそ殉ずるべきなのですよ」