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〜宝玉への階段〜


「開けて!! お願い開けて!!」
 必死な顔で扉を叩いているジゼルの前に、城に残っていた契約者達がやってきた。
「ジゼル、どうしたんですか?」
 声をかけたのはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)だ。
 彼女の後ろにはマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)セリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)の姿もある。
「手伝おうか」
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)枸橘 茨(からたち・いばら)熱海 緋葉(あたみ・あけば)も居る。
「この先が三賢者様の宝玉の間なの。私、話そうと思ってここまで来たのに
 扉が閉められてて入れなくなってる……
 きっと皆を帰そうとしている私が邪魔になったんだわ」
「じゃあ力ずくで開けるしかないですね」
 次百 姫星(つぐもも・きらら)バシリス・ガノレーダ(ばしりす・がのれーだ)がやってきて、いたずらっぽくニヤリと笑う。
「ジゼルさん、”また”手を貸しますよ」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)がジゼルに笑顔をみせる。彼女の主、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)もぶっきらぼうに言う。
「その三賢者っていうのにこっちもやられっぱなしだしな。
 借りを返してやろうぜ」


 煙が上がり、扉が有った場所には粉々になった木屑が舞っていた。
 マーガレットと姫星が同時に放った火術で、扉は爆発するように吹き飛んだのだ。
「これで先に進める」
 と思ったのは甘い考えだった。
「矢張りそう言う事か……」
 勇刃が呟く。
 閉ざされた扉の先の階段には数え切れないほどのセイレーンの幻影がひしめいていたのだ。
「どうしよう……これじゃ宝玉まで届かない……」
 戸惑うジゼルの後ろから、リースが声をかける。
「ジゼルさん、行って下さい。
 ここは私達がくいとめます」
「リース、でも……」
「俺もリース達と残るよ、だから安心して任せてくれ」
 勇刃が背中を叩く。
「あいつらの相手はあたし達に任せて! その代わりジゼルの事、頼んだからネッ!」
 マーガレットは姫星達に向かって両手でサムアップし、間合いを測っているセイレーン達に向き直った。
「ジゼルさん、行きましょう」
 フレンディスに言われ、ジゼルは頷くと先へと走り出した。


「さてと。
 勇刃、一番少なく怪物を倒した人は、晩ご飯おごりね!」
 緋葉の声に、ガントレットを腕に合わせて居た勇刃は「またかよ」と溜息をつく。
「そ、それって私達もですか!?」
「そうそう、リースさん達も強制参加よ」
「いいね、結構楽しそう」
「そうだねぇ、私は何食べようかしらぁ」
「それじゃあいっくよー!!」
 マーガレットの声に、皆が一斉に動き出す。
「張り切っていくわよ!
あたしの新しい力、見せてあげるわ!
あたしの先制攻撃(ターン)、ドロー!フラワシ召喚!
行きなさい、あんた達! けちょんけちょんにやっつけるわよ!」
 カードゲームでもプレイしているかのような緋葉の声に、三体のフラワシが一斉にセイレーンに飛びかかった。
『キイイイイ』
 というセイレーンの叫び声に、緋葉は気を良くして鼻を鳴らした。
「ふっふん、これで勝利はあたしのもの……」
 が、セイレーンはフラワシ達を振り払うと、緋葉の方へと尾で滑るように走ってくる。
「って、ええ? まだ生きてるんじゃない!! きゃあああ」
 攻撃を避けようとしたが、目の前のセイレーンの背中から「ふふふ」と笑う声が聞こえ、大形の戦斧によって切り裂かれたセイレーンは霧消した。
「一匹目♪ 緋葉ちゃん、油断は禁物よぉ」
 口元に手を当てて、セリーナが愉快そうに笑っている。
「もおおお」
 ぷんぷんしている彼女の後ろでは茨が戦いを”楽しんで”いた。
「海の中の城って……意外とロマンチックな場所じゃない。 でも今はまず環境汚染の「ゴミ」を処理しないと。
 まずはその身を蝕む妄執で一体ずつ落として、そのあとは……うふふ……」
 セイレーン達が幻覚に踊らされているのを心底楽しそうに見て居ると、
「ねえ、炎と雷、どっちがいいのかしら? それとも両方?
 あ、そうね、ここは海だから、雷で行こうかしら……」
 と雷の雨を降らせていく。
「あのなぁお前達、あくまでこの戦いはジゼル達を護るためであって……
 ほら、マーガレットを見てみろ!」
 勇刃は溜息を吐きながら言うと、マーガレットを指差す。
 マーガレットは身体をグッと横に半回転させると、その力で手にしていたフルムーンシールドをフリスビーを投げる要領で階段の上まで投げた。
 シールドはセイレーンの一匹の額に当たると、ピンボールのように反対側に飛んで行きその先のセイレーンの脇腹を殴打する。
 そしてその下のセイレーンの肩に当たるとマーガレットはそれを矢張りフリスビーを取るように器用にキャッチした。
「ほら、ああやって……」
「よっしゃあ! 三体撃破!!
 ごっはんーごっはんー」
「…………」
 マーガレットは勇刃のパートナー達の教科書にはならなかった。
「ったく仕方無ぇなぁ……」
 勇刃はまたたび溜息をつくと自らが教科書になるべく敵へと突っ込んで行く。
「はあッ!!」
 気合の声と共に繰り出した拳は、正面のセイレーン達二体を一気に吹き飛ばす。
 空いている片手で隣のセイレーンの腕を掴むと、反対側にいるセイレーン達に向かって棒でも振り回すかのようにして投げた。
『ギャア!』
 勇刃は透かさず飛び上がると、声をあげ倒れるセイレーン達の集団の上からダイビングするように拳を振り下ろす。
「おおおおお!!」
 階段が壊れる程の衝撃に、その場に居たセイレーン達は霧消していく。
「ふう……いいか、こうやってな」
「そんなの真似できないよ勇刃……」
「本当にね」
 今度は緋葉の茨が溜息をつく番だった。
 そんな彼女たちの足元を、白い鳩がうろついている。
「アガレスさん、どうしたんですか?」
「む、リースか。
 偉大なる大英雄である我輩にかかれば魚の幽霊のようなモンスターなど初級魔法でも十分に倒せる、と我輩は思っておるゆえ雷術を詠唱して攻撃しようと考えておる」
「はい」
「……だがしばらく、魔法なんぞ唱えておらんかったから呪文を忘れておるようじゃ」
「あ……らら」
「なんじゃったかなー……まずはじめにこう……」
「あ! きますよ!」
 セイレーン達が向かってきたのを見て、リースは体勢を整えるとバニッシュを発動させる。
 神聖な光はセイレーン達を包み、消してゆくがその間もアガレスは頭を抱えて居た。
 リースはアガレスの元へ向かうセイレーン達を止めようと威圧で睨みあげているが、ふんわりした彼女の威圧では足りないのだろうか
 逃げ切ったセイレーンがアガレスの元へ向かっていく。
「うーん……雷術だけにピカっとこないものかー……思いだせんなー」
「アガレスさん、の、残りがきますよ!」
「うーん……」
「アガレスさん!!」
「思いだした!!」
 その瞬間、巨大な雷雲が真上に現れると、全てのセイレーンの上に降り注いだのだ。
「な、なんだ今の!!?」
 目を丸くする勇刃達をしり目に、アガレスは満足そうに頷いている。
「ふう……確かこんなじゃったな」
 しかしそこらじゅう黒こげになったところをみるとこれは果たしてただの雷術なのだろうか。
 腰を抜かしたリースは煙にけほけほと咳き込みながら呟いた。
「め……目茶苦茶ですよ」