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リアクション
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推理物、ミステリー等々。探偵、と言うものや推理をする、と言うものには須らく、そのヒントとなる事情聴取が必須になる。
例えばそれは刑事が執り行ったり、または探偵、もしくはその事件を主に解決する人物が担当する訳であるが、しかしどの形式をもってしても、その段階を省略する事は即ち不可能に近い、というのが相場であった。
此処に至って、それは例外なく遂行されるのだ。彼等はリビングの隣に設けてある応接室にその身を置いていた。
「私はとある仮説を立てたの。順を追って説明する事はないし、私はそれを本当に一部しか理解できていないから、現状においてはある一点にのみ焦点を絞って考えた結果なのだけれど」
もったいぶる様にそう口を開いたのは、プリムラ・モデスタ(ぷりむら・もですた)
だった。彼女の隣には矢野 佑一(やの・ゆういち)、ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)がただただ不安そうに彼女の言葉を聞いているだけである。
「ねぇねぇ、本当にプリムラは解決できるのかな……そこらへんが凄く心配なんだよ、ボク」
「さぁ、どうだろうね。僕たちはひたすら傍観を決めるしかないと思うし……まぁ、手伝える事を最大限手伝うだけだよ」
決してプリムラには聞こえない様にそう呟いて、二人は再びプリムラを、次いで彼女が今語りかけてる一同を見る。
「えっと、ラナロックの大事にしていたゴンザレス、とかいう熊のぬいぐるみ(笑)の殺害に関して言えば、その手口は多分こうよ」
そう言うと、彼女は目線を一同から佑一へと向ける。
「佑一、ちょっと」
「え? 何々?」
「此処に立ってもらえる?」
「此処? ああ、うん」
初めから補佐をするつもりでいただけに、彼はなんの疑いも、何の懸念もなく、謂われた通りにプリムラの前へと立つ。
「犯人は恐らく、ゴンザレスの後ろを取ったのよ。その方が警戒されずに済む訳だし、それに、何よりゴンザレスは前のめりに倒れていたわ」
彼女の前に立った佑一と、話しながら彼の横を通過し、後ろに回り込むプリムラ。
「前に誰かがいれば、恐らくどこかしらが曲がったに違いないと思うの。腕とか、足とか、首でも良いわ。でも、玄関に張ってあったテーピングが本当に倒れていたままの状態であるのなら、ゴンザレスは倒れる時、何にも触れていないのよ」
「そうだね。確かに前進伸びた状態で倒れていたし」
佑一の相槌。
「と言う事は、彼が前のめりに倒れるのは一つ、後ろからの攻撃によって倒された」
「攻撃、ですか」
「ゴンザレスぅ……およよよ」
ウォウルの相槌と、ラナロックの嘘泣きが挟まり、なおも彼女の推理は続く。
「それも相当の勢いが、更に言えばかなり上の方に掛かっていた、と言う事。そこで私は考えたわ」
にやりと笑い、手に小さな針を持つ。
「まず犯人は、この様な針を使ってゴンザレスを襲撃。この針の先端には毒が盛ってあってあって、抵抗する力を奪うだけの何かがあった」
何とプリムラはそう言うと、実際に佑一の首筋にそれを突き立てたのだ。
「イタっ!? え、何をやって――」
「即効性の毒である事は勿論の事、より早く毒が体に回る事を想定して首筋にそれを突き刺した。刺さったままの状態で、犯人はそれを引き抜く為に思い切り――」
針を突き刺した手をそのままに、プリムラは佑一の腰に足をかけ、思い切り彼を蹴り飛ばしたのだ。
「蹴り倒した」
「佑一さーん!」
思わずミシェルが佑一へと駆け寄る。が、面白い事に佑一の倒れた姿勢は、ゴンザレス動揺手足を伸ばした状態で倒れている。
「恐らく毒は神経系に作用する物。麻痺、と言う感じね。本来意識があれば手をつこうとするものだけれど、体の自由が奪われている、更に伸びきった状態で神経が麻痺しているから、倒れたくらいでは硬直は解けない。そしてそこの形になる、わけ」
手の平を倒れ込んだ佑一へと向ける彼女は、言い切った、と言う表情で言葉を締め括る。
「可能性として――犯人はこの屋敷にウォウル、ラナロック、雅羅の三名より先に来ていた人物、と言う事になるわ」
「なるほど」
「理には適ってますね」
雅羅、真人が頷き、佑一へと目をやった。
「プリムラ――流石にこれは酷いと思う……けど」
「ごめんなさいね、佑一。いや別に、先日私が密かに楽しみにしていたプリンが、お風呂上りになくなっていて、ふと見たときに貴方が食べていたからそれの恨み、と言う訳ではないのよ?」
「……具体的だから多分それが原因でしょ」
「違うと言っているわ」
平淡な言葉で倒れる佑一に声を掛けた漢書は、にっこりと笑ってから彼の瞼をそっと閉じさせた。
「おやすみなさい、佑一」
「まだ佑一さん死んでないよ! って言うか謝りなよぉー!」
「じゃあ、ごめんね佑一」
「誠意が全く感じられないよ!」
体が麻痺し、思う様に動かない、喋れない佑一に変わり、ミシェルが頑張ってプリムラへと言葉を述べている。
「と、なると……うん。確かに僕が集めてきた情報でも、三人が此処へと戻ってくるよりも先に、誰かがこの屋敷に侵入してきた形跡、痕跡はありますからね。恐らく彼女の推理、強ち間違えでもないでしょう」
真人の言葉に、目一杯肯定する東雲。が、その隣でリキュカリアは不服そうな顔をしいる。
「どうしたのさ、そんな顔して」
「違うよ……確かに筋は通ってたけど。確かに『成程』とは思ったけど……不覚にも思ってしまったけれども! 全く違うよ! ボクは犯人知ってるもん!」
「な、何だってっ!?」
驚きのリアクションを返す東雲。が、そんなリアクションなどものともせず、リキュカリアは不貞腐れた表情で続けた。