リアクション
6.―― おまけと言う名の模範解答
わいわいと騒ぐリビングで。事の次第を報告しているのはアスカと、彼女と共に台詞を記憶していたハーモニクスである。
結末を聞きながら、ホープは一人『そう来たか』と呟き、楽しげに笑っている。
「よう、何やってんだ?」
声を掛けたのはアキュートだった。近くにはウーマに乗ったペトの姿。
「今回の一連の出来事をリアルタイムでブログにアップしてたんだよ、ああ。勿論、実名は避けてるから安心して」
軽快にキーボードを叩きながら、彼はそうアキュートに返している。
「因みに、彼に此処までの状況を伝えてたのは私なのだよぉ! そんで、台詞をちゃんと記憶してくれたのはニクスねぇ」
「どうも」
「お、おお。よろしくな」
「この子の記憶は完璧だって事が、今回の事件を通じてわかったよ」
「いえ、それほどではありません。結構途中の方からは保存容量などの問題が生じてしまい、一時はどうなる事かとひやひゃでした」
「全然焦ってる様には見えないけどね」
誇らしげにアキュートへと紹介したアスカは、私もまざってこよーっと、と言って彼等の前から去って行く。
「なあ、だったらお前さん、事の全容はわかるんだろ?」
と、アスカを見送ったアキュートがホープへと尋ねた。
「まぁね。皆が知らない事とかも、一応見てはいるから。何、何か気になる事でもあったの?」
「ああ、まずはウーマだな。それからあの……なんつったっけか。司とイブ? とかって二人。すぐそこで血まみれになってた二人だな。それと……どうにも腑に落ちねぇのがゴンザレスだよ。結局のところ、犯人が分かってないじゃねぇか」
「何を言っているですかアキュート。ウーマの犯人さんならば、ペトは知っていたのです」
さも当然だ、とばかりに、ウーマの上に乗っているペトがアキュートへと言葉をかける。
「無論、それがしも知っている!」
「当たり前だ。お前被疑者役だったんだろ。知らなきゃおかしいっての」
「うむ。そうだな」
「ウーマを襲った犯人さんは、ズバリミアさんなのです」
「は? 全く名前出てこなかったけどな。そいつ」
「当たり前です。彼女はずっとこちら側、観客席にいたのです」
「わかってたんならなんで言わねぇのさ」
「言えるわけがないのです。あれをご覧ください」
ペトが指を指すと、そこには変わり果てたミアの姿がある。
「ねぇミア、元気だしなよ……確かにお酒が楽しみだったのはわかるけど、何もそこまで真っ白にならなくったって」
「わらわはもう立派な大人なのじゃ……なのに、なのにあの獅子が如き若造に邪魔をされた……折角酒の肴まで用意したというに……」
「あの状態で『貴方が犯人なのです』とはとてもじゃないけど言えないなぁ、と、ペトはそんな優しさを見せてみたのです」
「成る程な……ふぅん」
「ああ、因みに――あの二人を殺害した犯人は、尚も殺人行為を続けているよ。何ならキッチンにでも行ってみてくるといい」
「おう、んじゃ後で行くよ」
「それとね、君たちは知らないかもしれないけれど、カノコさん、葵さんも殺害された事になっているよ」
「何!? ちょっと待て。あの元気なねぇちゃんと、犯人候補だった葵ってやつが? 死んでたのか?」
「カノコちゃんは絞殺、葵君は二階から落下して死亡、って感じになってたね。気付かなかったのは恐らく、予想以上に君たちの推理が順調すぎたから、だろうね。あのウォウル、とかって彼の計算では、終わるのは明け方頃だと思ったんじゃない?」
ホープがそう言ったからだろう。アキュートが成程なぁ、と呟き、ウォウルの方を見る。と、既に彼はアキュートたちの元へとやってきていた。
「楽しんでいただけましたか?」
「たの……まあ楽しかったよ」
「お陰でブログも良い感じに盛り上がってるよ」
「ペトは格好良い所を見せようと思ったのですが、優しさが上回ったです」
「その様ですね」
「おーい! ウォウル! 俺たちも酒貰っていいのかぁ!?」
鍬次郎の声がした。
「良いですよ! 是非飲んでください」
「それよりも! ハツネ頑張ったの! 本当の本当に、まるで女優さんみたいだったの! そう思うでしょ? 変てこな顔のお兄ちゃん」
変てこな顔のお兄ちゃん……とは、どうやらウォウルの事らしい。
「そうですね。迫真の演技でした。僕としてはビックリでしたよ。にしても、流石お二人は顔色一つ変わらない」
「当たり前だ。あんな茶番でいちいちおたおたしてられるかよ」
「良く言いますよ。証言取られるって決まったあと、コッソリトイレで練習してたの、僕知ってますからね」
「う……うるせぇな! もう一度そんな事言ってみろ? 幾ら仲間だって許さねぇぞ! ほら兄ちゃん、酒だよ!」
「ああ、はいはい」
「そうだ! そう言えば新兵衛の姿が見えないの……どこに言ったのか知らない? 変てこな顔のお兄ちゃん」
「生憎、僕は知りませんね」
「ふぅん。後で探しに行くの。それより変てこなお兄ちゃん。ハツネ、結構お仕事の合間だけなら撮影とか出来るの。デビューとかって話なら、鍬次郎を通してなら考えてあげなくもないの!」
「あ? この業界やりながら女優だぁ!? 馬鹿ぁ言うんじゃねぇよ……ったく」
「そうですよ……闇にまぎれるのを主とするのがこちら側。それこそ、叶わない遠い願いですよ」
「ぶぅ! ケチっ!」
「おいおい、ところでよ」
言い合っている三人に、アキュートが尋ねた。
「結局ゴンザレスを殺したのは……誰なんだ? まさかお前らが殺したとかっていう流れになるのか?」
「は! ちげーよオッサン。俺たちはあの熊を放り投げただけだよ。ドゥングにな。だから殺してなんか――あー……待てよ? やっぱ微妙だな。ハツネ? 結局やったのか?」
「多分それはないの。確かに包丁で刺したけど、致命傷はもっと後だと思うの」
「だそうだ」
「へぇ……んじゃ、結局誰がやったんだ?」
「ドゥングじゃねぇのか? あ、でもあいつ、折角俺が宣戦布告の意味籠めて投げてやったのに、受け取ってそこらへんにほっぽりやがったからな」
「そうなの! 熊さんをぽいするなんて、ハツネからしたら有り得ない事なの! あんなに可愛いクマさんなのにぃ!」
「……おい、ウォウル。聞いたか?」
「ええ……聞きましたよ。何とも面白い子ですね」
「え!? え!? 何が面白いの!? ハツネは正直な事を言っただけなの!」
と、今度はダリルと柚、三月がやってくる。
「お疲れ様でした! それにしても……ああいう性格じゃない私からすると、あれはちょっと恥ずかしかった……です……」
「そんな事なかったよ? ねぇウォウルさん」
「ええ。大胆で何処か色気の漂う女性、と言う感じで、それはそれで裏があって良いと思いましたよ」
「そ、そうですかね……やっぱり恥ずかしい!」
「俺はまぁ、我ながらにかなりの演技だったろう?」
「いえ、貴方は普段と大して変わりませんでしたよ」
「なっ! 何だと!? 俺のどこをどうすればあんな影のありそうな感じになる!」
「…………」
アキュート、ホープ、ウォウルは静かに彼の顔を見つめた。「いや、それまんまだから」と言う意味の顔。
「ねえ! ダリル! ちょっとは手加減して食えれてもよかったんじゃないの!? 結構あれ痛かったんだよ!」
追ってルカルカが彼等に声を掛けてきた。
「すまんな。少し面白くなってきてしまったんだ」
「まあいいけどさっ! って言うかルカ凄かったでしょ! 何度も甦る証言者! みたいなね!」
「そ、そうですね……」
「全くだ。こっちも余計に手間取ったから焦ったぞ」
「ふふん! 手加減しない罰よ」
「さーて、みんな! 素敵なキノコ料理代人段が出来たわよ! 此処にいる人は全員強制参加ね!」
リーラが大皿に大量のキノコを乗せてやってくる。
「うっは! 美味そうな匂いやん! 死体役がごっつい疲れたんで腹減ったんカノコ」
「あ、俺も貰う! ほんと、動けないから死体役って疲れるぜ………」
「正悟さん、ものごっついツッコんでたけどな! ちゃんとカノコ見とったで! 言いツッコみすやんな!」
「ありがとう。ま、その話は置いといて……まずは腹ごしらえだ! いただきます!」
「あ、そのキノコ料理、やめた方がいいですよ! って……あーあ、食べちゃった。ちゃんととめましたからね?」
「未だにしたがピリピリするですぅ……」
司とイブがそう言うと、リーラがにんまりと笑みを溢した。
「ごめんね。恨みはないけど八つ当たりっ☆って事で、死体役第二ラウンド、頑張って頂戴な、お二人ともっ! 因みにそれ、食べると麻痺効果あるからよろしくー」
「おぎゃー! 体がおかしくなってきたぁ!」
「ま、またかよ……とほほ……」
宴も酣。ではないのだろう。
彼等のパーティは此処からが本番なのだ。
どんちゃん騒ぎ、にべつ幕無しに、ただただ忙しなく、一心不乱に、端から端まで、騒ぎ続けるこの日――。
まだまだ夜は長いのだ。
この度は、『家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。』に参加いただき、まことにありがとうございました。
リアクション、いかがだったでしょうか。
苦手なコメディ、初の推理物(にはなってませんでしたが)と言う中、これが今、藤乃が出せる全力でございます……申し訳ありません……。
毎度毎度思う事ではありますが、皆様のアクションがとても面白く「なるほど!」と思う物の連続。
と言うか、アクションを確認している最中「なるほど!」しか言っていません。そのくらい楽しくもあり、嬉しくもあり、勉強になるなと
思っております。まだまだ素敵なアクションに対するお返しが出来ていないのですが、着実に成長していく所存ですので、
また藤乃のガイドを見かけたら、ご一読いただければ幸いです。更に参加いただけたら、至福そのものです!
前回までは結構真剣なお話だったので、今回は際限なくはっちゃけてみよう! と思い、なるべくライトな感じにしてみました。
タイトルからして……というシナリオ。故にタイトル同様「あれ、これどっかで見たことあるぞ?」「聞いた事があるなぁ」という形の
物が多い気がします。と言うか多いです。
また機会があればコメディ、精進の意も込めて挑戦していきたいなぁ、と思っておりますので
その時はまた、はっちゃけたガイドになると思うので、どうぞよろしくお願いします。
皆様のご参加、そしてお言葉、本当にありがとうございます!
そしてこのシナリオ、『家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。』にご参加いただき、誠にありがとうございました。
また、お会いできる日を願って――。