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リアクション
――此処から回想――
ただただ取り調べを遠くから見ていた衿栖は、随分と険しい顔をしながらにその光景を見ていた。
「なんかおかしいと思わないですか?」
「何が?」
隣に立つ未散は、どうにも言いたい事を理解できていないのか首を傾げている。
「だってほら、犯行時刻も手口も全てバラバラなんです」
「ん? まぁ……そうだな。なんだっけ? キッチンで刺殺された被害者、毒殺された被害者が二人に、撲殺された被害者が二名。そして最後……目の前の原因不明が一名。か」
「そうです。一貫性がない上に、犯行時刻がバラバラ。部外者、と言う線はありますけど……まず部外者が容易に入って来れる様なつくりの建物、敷地ではないでしょう?」
「そうだな。私等も迷うところだった訳だし」
「と言う事は、複数犯の可能性が大きい、と見た方が良い気がしますし……」
「複数ねぇ……っと、あそこにいるの、被害者二人の関係者だろ? 話聞いてみようぜ。悶々と二人で考えてても埒があかねぇよ」
●証言者1 シオン・エヴァンジェリウスの場合。
え? 犯行当時? そりゃあ、見てたわよ。
だってワタシの目の前で起こった惨劇だもの。
そうねぇ……得体の知れない男が突然に表れて、二人を思い切り殴り飛ばして――ああ、今考えただけで恐ろしい力だったわ。それに彼、ワタシに向かって『久しぶりだな』なんて呟いて行くんですもの。
言っておくけれど、私は彼とは面識が無い様に思うわ。気が動転しているから何とも言えないけれどもね。
兎に角、ワタシが呆然としている間に彼は事を済ませてすぐさまいなくなってしまったわ。今お話しできる事は、このくらいよ。うふふふふ
●証言者2 漆黒のドレスの場合
…………。
ドレスの……身分で言うのもあれですが、彼女はとても私を大事にしてくれる人でした。
ですがまさか、あんな事になってしまうなど……。
そうです、彼女が皆さんと楽しくお話をしながら紅茶を召し上がっていた時の事でした。
始めは何かわからず、「ああ、熱いから溢さないでくださいな」と思ったんです。そうしたら彼女……そのまま倒れてしまって……。
本当に、紅茶を飲んでいただけなのに。誰からも恨みを買うような方では……なかった様な気がしないでもない人でしたから。
早く犯人さんをみつけてくださいまし……。
天に昇られた彼女の為に、どうか一刻も早く――。
●証言者3 東條 葵の場合。
何? 犯行当時だと?
私はひたすらに打ちひしがれていたのだ。見えるだろう? あそこにおわすあの神々しいまでのフォルムの生命体が……!
私は彼の者をひたすらに、ただの一片としてはしたない思い無く、思う存分にめでたかっただけなのだよ。しかしこの気持ちが届くことなく……何? 事件とは関係の無い話をするな? だと? 関係があるから言っているのだ!
そう、そんな事があり、私はひたすらに打ちひしがれていた。ただ徒然なるままに、おっと、使い方を間違えたか。決して暇だった訳ではないが、字面が何となしに美しかったから使っただけだ。そう、暇だった訳ではないが愕然と打ちひしがれていて、わからないのだ。すまないな、力になれずに。
●証言者4 ルカルカ・ルーの場合
私、見ちゃったんです。本当です……ダリルが、ダリルが最初――ぎゃー!
い、痛い……体の節々が……痛いよ……。
続けましょう。私、見たんです。ダリルがあの変てこな毛むくじゃらと――ギャー!
何で……! 何で話そうとすると体に電気が走るの!? 私何も悪い事して――ぎゃー!
と、兎に角……ダリルがあの毛むくじゃらと話していたら……急に毛むくじゃらのあのむっきむきが今の私みた――ぎゃー!!
もう…………駄目……ちょっと休……憩。
「と、まあ大体の証言を得た訳ですけど……」
「ちょっと待て、最後のルカは何であんなに悲鳴あげてたんだっけ?」
「いや、何でも話している最中に電撃を貰ったとか何とかで」
二人は集めた証言を集めながらリビングに備えてあったソファーに腰を降ろし、話を続けた。
「ダリルさんが怪しい、と言う線はまず確定ですね」
「そうだな。その電撃がどうのってのも、恐らくダリルが裏でなんかやってるに違いねぇ」
「あと――私が少しだけ疑っているのは葵さんなんです……。なんかこう、証言が曖昧で、あの人のアリバイが凄く曖昧なんです」
「そんな事言ったら、綾瀬んところのドレスも怪しいだろ。ほら、なんか恨みがどうとかって時、強く否定しなかったし。あれって自分の気持ちの投影とかなんとか、じゃねぇのか?」
「それはないでしょうね。口ぶりからすると、本当に感謝していた、って言う感じがありましたし」
「そうかぁ? ふぅん、まぁなんでも良いけどさ」
二人が二人。紅茶の啜りながら話の整理をつけている時だった。
「失礼ですがお嬢様方。貴方の目は節穴で御座いますか?」
声がした。
「ひゃっ!?」
「な、なんだなんだ!? ったく、どうせハルか衿栖んところの……あれ?」
二人の後ろ。半泣きのハルを強引に連れていたウォウルだった。
「どうも、御機嫌ようお二人とも」
「は、はぁ……どうも」
「彼、今のセリフを言うのが本当に忍びなかったらしく、僕が代わりに言え、と仰られたので、代わりに言ってみましたよ」
「ち、違いますぞ! それはわたくしめの言わんとしていた事! しかし……しかし!」
「はいはい、わかったから泣くなって」
未散が大きくため息をつきながら、もう今にも崩壊しそうなダムが如きハルを慰める。
「いやね、彼がトイレに行こうとしていたんですが、どうやらお二人で盛り上がってらっしゃるみたいだったので、強引に連れてきてみたんですよ」
「え!? ちょっとハルさん! トイレに!」
「……ウォウルとやら。決してあの様な発言は控えてくだされ! わたくしめの言葉ですからな!」
「はいはい、わかりましたよ。すいませんでしたね。とりあえずいってらっしゃい」
笑顔で手を振り彼を見送ったウォウルは、くるりと振り返り二人を見下ろす。
「折角構築出来てる推理みたいですからね、ここらで皆さんにお披露目と行きましょう。
鳳明さーん!」
「はいはーい! っとと。やっと集まったよ、全員分の証言。でもさ、本当にこれでいいの?」
「良いんじゃないですか? 僕は何も」
「いや、何も……って言ってもさ」
「ささ、皆さん戻ってきたみたいですし、おや? ラナの姿がないなぁ。ま、良いでしょう。さてお三方。出番ですよ!」
ウォウルは二人を立たせ、三人の背中を押すと今まで二人が座っていた席に腰を据えた。
「なぁ、衿栖」
「はい?」
「あの物言いやら顔つきやら……あいつのが似合ってるのかもよ。性悪執事」
「ま……まぁ、彼なら地で行けそうですけどね……あはは」
「それは同感」
未散、衿栖、鳳明が笑う。
「っと、そうだ。ウチの執事は……ああ、いたいた。おーい、行くよー」
希鈴を見つけた衿栖が、彼の近くまで向かい声を掛ける。
「おや、これはこれは。長らくお待ちしておりましたよ。遂に重い腰を上げたのですね」
「や、やだな! 重くないもん!」
「そう言う意味で言ったのではありませんよ。さて、参りましょうか」
「それより希鈴。今まで何をしてたの?」
「『珈琲片手に英字新聞を読んでいると、果たして本当に声がかけ辛いか』と言う検証を少し程」
「……あ、そう……」
頭を抱える衿栖が二人の元に戻ってくる。当然、その後ろには希鈴の姿があった。
「んじゃあまあ、行きますか」
「そうだね、早く解決して、ぱーっと遊んじゃおう!」
未散の言葉に鳳明が元気よく繋げ、今丁度推理をしている面々の部屋へと入って行く。
「何とか間に合いましたな! そしてわたくしめもお供しますぞ! 未散君!」
「今度は泣きべそかくんじゃねぇぞ」
「も……勿論ですとも!」
意気込んだのを見た彼女たちは笑ながら、そして舞台となっている扉を開け放った。
――以上、回想終わり――