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タイムリミットまで後12時間!?

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タイムリミットまで後12時間!?

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第6章 タイムリミット


 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の【空飛ぶ箒シュヴァルベ】はツバメの名を持つ箒で、小型飛空艇の3倍のスピードで飛ぶ事ができた。
 時間の短縮は、今とても有難い。

「ダリル。もっと、下を飛んで!!」
「了解だ。」

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、スキル【ナビゲーター】を使用すると、姿勢を安定させ最速で飛ぶように指示する。
 辺りは漆黒の夜と化しており、ビュンビュンと吹き抜ける風が怖い。
 気を抜くと飛ばされ、黒い闇の向こう側に消えてしまいそうだが、白い衝撃波と化した彼女らは、風の壁を微塵に砕きながら突き進んでいく。

「ギリッ……。」

 イングリットは奥歯を噛み締めていた。
 あの魔女に再び会う……。
 圧倒的な力を感じた。
 泉 美緒(いずみ・みお)と屋敷に乗り込んだ時も、アイツは勝ち誇った顔で笑っていた。
 残り時間はどれくらいであろう。

「あれは……。」

 風の中に、翼を持った石造りのモンスターが姿を現す。
 【ガーゴイル】だ。
 あくまで、イングリットらの行く手を遮るつもりなのだろうか。
 ルカは【蒼炎槍】を抜くと、敵を払うように奮う。
 時計を見る暇も与えられない彼女らには、あとどれくらいの時間が残されているのかわからない。

「の、残り時間は!!?」

 様々な困難を乗り越えて、イングリットらは、魔女レイシアの屋敷の敷地に降り立つ事が出来た。
 そこは六方に炎の燭台を立ち並び、結界を張られている。
 中心には、レイシアと何人かの生徒が立ち、木製の台の上に置かれたビスクドール達が置かれている。

「遅かったわねぇ。イングリット?」
「約束どおり、ネクタルは持ってきたわ。美緒先輩たちを解放しなさい!」
「くすっ、アタシは間に合ったらと言ったのよ。」
「……えっ?」

 心臓が高鳴った。
 まさか、約束の時間に、間に合わなかったとでも言うのだろうか。

「イングリットちゃん! まだ大丈夫。あと5分はあるよ!」

 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナーの、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は懐中時計を片手に叫んだ。
 よかった。
 約束の時刻はまだまだのようだ。
 どっという疲労がイングリットらを襲う。

「間に合ったでしょ! 早く、先輩らを解放しなさい!!」
「しょーがないわねぇ。せっかくの新しいお人形が手に入ったと思ったのにぃ。」

 レイシアは、人形らに手をかざすと、台の上より空中に浮かべ地面に下ろす。
 そして、【聖水ネクタル】の入った水入れを受け取り、手に取るとパァッと辺りに振りまいた。
 すると、聖水はまるでシャボン玉のようになり、人形を覆い包みこんでいく。

「жк、жк……дШ…………。」

 レイシアによる長い詠唱が始まる。
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)御神楽 陽太(みかぐら・ようた)ら、情報収集後、直接屋敷に来た組も、息を呑んでその場を見守った。
 特に如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、呪いの解除方法を覚えるが如く真剣に見つめていた。
 人を人形に、人形を人に、レイシアでなければ行えないであろう、恐ろしい呪術である。

(……魔力が膨れ上がっていく。)

 レイシアの中より、信じられないほどの膨大な魔力が波紋のように広がると、人形から白い蒸気が立ち上り、皮膚が、身体が、元に戻っていく。
 この短いようで長かった12時間が、終わりを告げようとしていた。



 ☆     ☆     ☆



「……あ、あれ、私……? ここは?」

 元に戻った泉 美緒(いずみ・みお)は、周りを見渡した。
 大きな歓声があがった。
 抱き合ったり、意思を確認する者、医師として診療を行う者も現れる。

「……ああ、もう! よりによってイングリット……貴女に助けられるだなんて! 自分が情けないですわ!」
「お、お嬢様、立ち振る舞いは優雅に!」

 人形から元に戻った白鳥 麗(しらとり・れい)はイングリットに文句を言いながらも、感謝の意を表していた。
 そんな中、屋敷に戻ろうとするレイシアを、イングリットが呼び止める。

「何? まだ何か用があるのぉ? もう返すものは返したでしょ? それとも、ここにいる連中を再度、人形にしちゃいましょうかぁ?」
「……貴女って人は……。」

 イングリットは、レイシアを怒鳴りつけようかとする。
 だがその時、別の者が飛び出し、レイシアを殴りつけたのだ。
 それは如月 正悟(きさらぎ・しょうご)だった。

「……いっ、……痛いわねぇ。アンタ、誰を殴ったのかわかってるの?」
「…………。」

 正悟は悪びれずに手を振っていた。
 その何事もなかったかのような態度に、レイシアは激昂する。

「何か文句でもあるのって言ってるのよ!」
「……悪いな。俺はあんたを個人的に許せなかったんだ。それにあんたも同じ様な事を【した】だろ?」

 ポケットに手を入れると、正悟は背中を向けた。
 普通に考えると危険な行為であるはずだが、彼は今回の一件をずっと見守る事で状況を把握していた。
 呪いをかけるのも、呪いを解くのも、膨大な魔力が必要となる。
 【彼女】は一日の間に2度、それを行った。

 屋敷の中でも、特に休んでいる様子もなく、暇な時はビスクドールを作っていた。
 ……気丈に振舞ってはいるが、レイシア自身も相当な疲労を覚えているのだろう。

「……はんっ。ジッとこちらを観察してると思ったけど、生意気な若造だわ。」

 レイシアは立ち上がると、埃を払った。
 彼女には、「新しいデザイン」を得るために、実際の美少女や美女をビスクドールに変え、流行を研究する悪い癖があった。
 「12時間で完全にビスクドールになってしまう」と言ったが、ちゃんと元に戻すことは出来た。
 そのために必要なのが、世界樹イルミンスールの力を得た「聖水ネクタル」だったのだ。