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リアクション
二人が気付いたときには、正体不明の傷を負っていた。
両腕、両足、腹部、右肩、左胸に細く深い傷跡が無数に奔る。二人は遅れて生じた全身を駆け巡る鋭い痛みに一瞬、行動が遅れた。
「では、フィナーレといきますか。華々しく散ってください」
月の従士は鉄のフラワシを召喚。
剛腕が振り上げられ、二人に向かって拳を振り下ろそうとした。
「まだ……まだッ!」
佑也が吐き出した言葉と共に同じく鉄のフラワシを召喚。佑也のフラワシが放つ拳が月の従士のフラワシの拳と激突。
絶対的な威力を有した拳の衝突は衝撃波を生み出して、周囲の床を破壊する。
そして佑也は封爆のフラワシを降霊。鉄のフラワシにより荒れた床に触れ、封爆の能力でチャックをつける。
「後退しろ、誠一くん! 一気に起爆させる――!!」
佑也はそう叫び、誠一と共に一気にその場を離脱。
同時に、佑也はサイコキネスで封爆の能力でつけたチャックを一斉に開けた。
鼓膜が裂けんばかりの轟音。局地的な大爆発が月の従士とそのフラワシを巻き込み、業火で焼き尽くす。
轟々と燃え盛る炎ともくもくと上がる黒煙が大広間を包む。
月の従士の姿は見えないが、この爆発ではどんな小細工をしようと防ぎきれはしないはず。
決着だろう。無意識的にそう思い、佑也は少しばかり油断をした。
その時。
「……素晴らしい。やはり貴方は、素晴らしい」
炎のなかから声がした。
月の従士は巻き上がる火の牢を突破して、あちこち焼け焦げながら大鷲のような構えでひた走る。
「あの爆発を受けても、まだ立ち上がれるのか!?」
「鉄フラワシに守ってもらいましたがね。
ダメージは自分に返ってきましたが、私が炎に晒されるのと、鉄のフラワシが炎に晒されるのでは、また意味が違ってくる」
あの構えということは月の従士が放とうとしている技は奥義、エンド・ゲーム。
佑也は思考を張り巡らし、あの技を防御する術を考えた。が、あと数秒ほどで放たれようとする技の対策を思いつくにはあまりにもその時間は心許ない。
佑也は傷つく身体に鞭を打ち、覚悟を決めて霽月で防御の型を構えた。しかし、彼が佑也との間合いを詰めるより早く。
「禁じ手、鬼手、大いに結構――」
その声と共に月の従士の身体が、がくんと重力に抑えつけられて動きが鈍った。
それはグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が発動した奈落の鉄鎖によるもの。
グロリアーナは影に潜むことの出来る腕輪、ノワール・ロワの力を借りて影から影へ移動。そして月の従士が気づかぬうちに右側へ、彼の傍まで近寄っていたのだ。
「だが、それが己だけの専売特許とは思わぬ事だ。その傲慢こそが油断を招き、自らの足を掬うと知るのだな」
グロリアーナはノワール・ロワで顕現させた瘴気の剣を振りかぶり、破滅の刃の構えをとる。
と、同時。ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がOrcinus baleaを使用して背後に回り込んだ。
「まったく、喰えない老紳士だこと」
両手に二本の無光剣を持ち、ローザマリアは月の従士の懐に潜り込む。
「ジョー、出番よ」
「――ええ、分かりました」
ローザマリアの呼びかけに呼応して、月の従士の影からエシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)がバスファインダーで飛び出した。
「夜はより多くの影を生む――闇夜に仕掛けるのは、此方の得手とするところです」
エシクは飛び出ると同時に七支刀型の光条兵器を顕現。
素早く振りかぶりラヴェイジャーの剣技の極み、アナイアレーションの構えを取る。
そして、グロリアーナ、ローザマリア、エシクの三人がほぼ時間差を置かず立て続けに攻撃を仕掛けた。
破滅の刃。
真空波。
アナイアレーション。
三種三様の斬撃が月の従士を深く切り裂く。
「三人、連続ですか。そこまでは予測していなかった……!」
生じた傷口から真っ赤な血がどくどくと垂れ流れた。それは普通の人間なら致死量相当の量。
しかし、月の従士は悲鳴一つ上げない。歯を食いしばり激痛に耐え、素早く体勢を立て直そうとした。
「悪いわね。月を司るのは――」
けれど、それよりも早くローザマリアが歴戦の立ち回りで敏速に行動。
攻撃が読み難い二本の無光剣に超能力による破壊エネルギーを纏わせ、一気呵成に攻撃を仕掛ける。
「いつの時代も女神様と相場は決まっているものよ、紳士さん」
ローザマリアが腕を交差し縦と横に一閃。
生まれた十文字の真空波が月の従士の胸を大きく切り裂きく。鮮血が飛び散る。赤い飛沫は大広間の床を汚す。
月の従士の動きが止まった。
身体のあちこちは焼け焦げ、幾多の深い傷から血を流しながら、彼は――静かにくく、と笑った。
「見事。しかし、だからこそ惜しいですね」
ローザマリアは底知れぬ何かを不安に感じ、すぐさま二本の無光剣を奔らせた。
しかし、刃が月の従士に触れるより先に、ローザマリアの身体が吹き飛ばされる。
「正直、このフラワシは降霊したくなかったのですが。仕方ない」
月の従士の背後で緑の目が二つ光った。
フラワシであるそれは、あまりにも人間離れしていて、見るだけで嫌悪を抱くほど。
「全てを食い千切りなさい、嵐のフラワシ」
フラワシのなかでも随一の凶暴性を持ち、かつ素早い。
嵐のフラワシは暴風を巻き起こし、目に見えない速度の風の刃が次々とローザマリアに襲い掛かる。
ローザマリアは二本の無光剣でどうにか対処するも、押されていく。嵐のフラワシは月の従士から離れ、ローザマリアに迫る。
しかし、契約者のなかで、嵐のフラワシの登場を予測していた者が一人。その名は八神 誠一。
誠一は嵐のフラワシが月の従士から離れるのを確認するやいな、間合いを詰めるため駆けた。
「フラワシが厄介なら、息も絶え絶えの本体を狙えばいいさぁ」
誠一はアンボーンテクニックを発動。サイコキネシスを体内に作用させ速度を底上げ。
瞬く間に間合いを詰める。が、貴方の行動は予測していましたとばかりに、月の従士が誠一が懐に潜り込むと同時に手に持つカードを振り下ろす。
「でも、その攻撃を来ることは僕も読み読みなんだよねぇ」
振り下ろされたカードが誠一を切り裂く。否、それは誠一本人ではなくミラージュが生み出した幻影。
本体は月の従士が自分の幻影を切り裂くと同時に散華で足を斬る。
「と、ついでに」
おまけとばかりに、テロルチョコおもちにベアリングの玉を貼り付た簡易クレイモア地雷を足元に残して離脱。
同時にクレイモアを起爆。足が負傷したせいで回避の遅れた月の従士はその爆発を直撃した。
「そおら、遠慮はいらねぇ。全弾持っていけや!」
そしてダメ押しに後方のシャロンがクロスファイアを叩き込み、回避行動が無意味なくらいに大口径の弾丸をばら撒いた。
シャロンのカメハメハのハンドキャノンから多くの薬莢が排出され、床に落ちて鈴のような音を鳴り響かせる。
それと共に嵐のフラワシは姿を消して、月の従士が気を失ったことを証明していた。
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