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亡き城主のための叙事詩 後編

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亡き城主のための叙事詩 後編

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 十二章 塔の従士

 刻命城、礼拝堂。
 規則的に並ぶ古びた長椅子に稀代の一品の如き女神イナンナの彫像が微笑みかけるその部屋で、行われていたのは激しい戦闘だ。

「……これ以上は……駄目。だから……ここで……倒れて」

 ぼそぼそと喋りながらも、塔の従士は攻撃の手を止めない。
 小学生と変わらないほどの小さい身体を目一杯動かして、小弓を目一杯引き絞り放った。
 我は示す冥府の理によりイナンナの加護を受けたその弓は、四本の矢を同時に放ち雨のような軌道を描いて襲い掛かる。

「ハッ。最初は女で子供だから不満だったが、その実力であれば問題ねぇッ!」

 最初は不満そうな表情をしていたギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)も、塔の従士との戦いを繰り広げているうちに嬉々としたものに変わっていく。
 迫り来る矢を両の拳で弾き、掴み、砕きながら彼女に向かい駆けた。

「さぁ、楽しもうぜ。塔の従士!」
「……野蛮な人は……苦手……」

 ギャドルに矢が効かないと判断するやいな、塔の従士は純白の魔法陣を展開。
 魔力を受けて煌々と輝く魔法陣は、戦女神の威光を光の刃に変えて放出。女神イナンナの加護の刃がギャドルに飛来。
 ギャドルは走りながら両腕を交差して頭のみ防御。光の刃が腕を切り裂くも、構わず突進を続けた。

「ハハッ、やっぱり戦いはこれぐらい激しいもんでないとなぁ!!」

 交差した腕の間からちらりと見えるギャドルの双眸が、獣のようにぎらついた。
 そうして間合いを詰め、地を蹴り跳躍。ドラゴン特有の怪力と身のこなしを組み合わせた武術、ドラゴンアーツの構えを取った。

「オラァ、喰らいやがれ!」

 凄まじい速度の正拳が塔の従士の鳩尾に衝突。
 彼女の身体はくの字に折れるが、呻き声一つ洩らさず、片手で純白の魔法陣を展開。

「……肉を切らせて……骨を断つ……」

 塔の従士が発動しようとするのは、我は科す永劫の咎。
 女神イナンナの戦の力は至近距離にいるギャドルを石化させようとする。が。

「飛び出しすぎじゃ。……少し痛いが、我慢するのじゃぞ」

 後方のルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)が遠当てを行使。
 闘気をギャドルに飛ばして当て、無理やり塔の従士から引き離す。そのおかげで我は科す永劫の咎は不発。

「痛ぇじゃねぇか。何しやがる!」
「石化するよりはマシじゃろう?」

 ルファンはギャドルの抗議にそう返し、塔の従士を見て口を開いた。

「さて、そなたに少しばかり聞きたいことがあるのじゃが。よいか?」
「……戦う相手と……話す趣味は……ない」
「そう頑なに拒否せんでもいいじゃろう? なに、聞きたいことは一つじゃ」

 ルファンがそう言い放つが、構わず塔の従士は小弓を引き絞り矢を放った。
 ルファンは肩をすくめ、ドラゴンアーツによる武術による拳でこれを砕く。

「聞きたいのは、魔剣で生き返らせたとしてその先をどうしていくのか、じゃ。
 多くの問題も疑問も、そなたら自身ですら、答えが見つかっていないように感じたからのう」

 ルファンの問いかけに、塔の従士の小弓を引く手が止まる。
 そして、小さく口を開き、ぼそぼそと答えた。

「……そんなの……知らない……。私は……城主様と……もう一度会えるだけでいい……から」
「ふむ。どうしても、止めぬのか?」

 塔の従士は小弓を引き絞り、矢をルファンに向けて放った。
 放たれた矢はルファンの足元に突き刺さる。

「……これが……答え……」
「……そうか。なら、力づくで止めさせてもらうのじゃ」

 ルファンは悲しそうに目を伏せてから、両足で強く床を踏みしめた。
 そして両の手を強く握り締め、堅強な拳を作り上げ、金城湯池の構えをとる。

「謝りはせぬぞ。わしらにも食い止めなければならない理由があるからの」
「……好きに……したらいい。……そのうえで……私達は……望みを叶えるから……」

 その言葉と共にルファンは力強く床を蹴り、風のような速度で疾走。
 塔の従士は小弓を引き絞り、四本の矢をルファンに向けて放った。