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リアクション
節制の従士とアキュートは互いの武器の間合い、近距離で闘い合う。
大槌の一発いっぱつが一撃必殺の威力を有する節制の従士とは対照的にアキュートは二対のカタールを用いた手数重視のトリッキーな戦い方だ。
「小賢しいことするねぇ、お兄さん」
「あんたみたいな大味な戦い方は好みじゃねぇもんでな」
対峙する二人は軽口を交わしつつ、武器を重ねる。カタールによる鋭い金属音と大槌による鈍い金属音が反響。
アキュートはカタールを巧みに操りながら、並行して背中から血に濡れた漆黒の翼を発現。暗黒比翼と呼ばれるそれは、もしも空中に逃げられたときのための対策だ。
そして何度か打ち合いを続けていると、今まで守りを決して疎かにしなかったアキュートが初めて隙を見せた。
「もらったよ、お兄さん――!」
節制の従士は懐に潜り込み、大槌を大きく構えた。
放つ技は正義の鉄槌。その威力ゆえ自分にも反動が返ってくるジャスティシアの必殺技。
直撃すれば下手したら死ぬかもしれないその技を前にしてもアキュートの表情は変わらず――いや、あろうことか口元を吊り上げて、笑った。
「こう見えて、召喚師なんでな」
アキュートは不敵に笑い、服の胸元を自分で開いた。そこには隠しておいた黒の魔法陣。
節制の従士が正義の鉄槌を放つよりも先に、アキュートはありったけの魔力を込める。
矛盾しているかのような黒の光を放ち、魔法陣は大蜘蛛の足のみを召喚。飛び出してきた真っ黒な八本の足が節制の従士を襲う。
「そんなものを隠してたのかい……!」
節制の従士は肉迫する八本の足から逃れるために後退。しかし大蜘蛛の足はそれを逃がすまいと彼女に迫る。
抉られ、穿たれ、節制の従士が後退しきったころには、全身に多くの傷が生じていた。
「……アキュート、凄く悪役っぽいですよ」
クリビアが胸から蜘蛛の足、背中から黒い翼を生やしたアキュートを見て突っ込んだ。
「うるせえ、向こうから見りゃ俺達は悪役だろうが。演じるなら、それらしく……だ」
アキュートは表情を引き締めながらそう呟き、視線の先の節制の従士を見つめた。
後退した彼女はエントランスの中心、丁度シャンデリアの真下で佇み大槌を構えている。
アキュートは踵を返し、今まで魔力を温存していた真人の肩をポンと叩いた。
「さあ、言われた通りのことは実行した。あとは頼むぜ」
「ありがとう。――さあ、ここが勝負どころです。行きますよ!」
真人はそう言って気合を入れると、白の魔法陣を描き魔力をこめた。
発動したのは目くらまし程度のバニッシュ。節制の従士の近くで光が弾ける。それは策の開始の合図だ。
「さあって、と。ほんじゃあ、行きますか」
一番初めに動いたのは魔装を展開した皐月だった。震脚で床を踏み砕いて浮かせた床面の瓦礫を、相手に向かって蹴り飛ばす。
節制の従士は飛来する瓦礫を大槌で打ち払った。続けざまに白き詩篇がドラグーン・マスケットの照準を彼女に合わせ引き金を絞る。
乾いた銃声と共に射出された銃弾は節制の従士に飛翔。しかし身体を逸らして回避される。
その隙に皐月は魔装の脚甲により強化された脚力で床を蹴り、恐るべき速度で彼女との距離を詰めようと駆ける。
節制の従士は大槌を構え皐月を迎撃しようとするが、もう一度真人により発動されたバニッシュの光により一時的に視界が奪われた。
「今だ――!」
「今じゃ――!」
皐月と白き詩篇の声が重なった。
皐月は黎明槍デイブレイクを振りかぶり思い切り投擲。同時に白き詩篇はドラグーン・マスケットで発砲。
節制の従士が攻撃の気配を感じて身構える。しかし、二人の狙いは彼女ではない。狙うは一つ、真上にある絢爛なシャンデリアの継ぎ目だ。
二人のその攻撃によりシャンデリアの継ぎ目は壊れ、支えを無くして落下する。その先にはやっと視力が回復した節制の従士。
「ッ! そういう手を使うのかい……!」
節制の従士はやられたという表情をしながらバーストダッシュを発動、しようとしたのだが。
「あんたを足止めするのがオイラの役割さ」
トーマがマシンピストルの弾をありったけばら撒き、節制の従士の行動を妨害した。
――もう、逃げるのは間に合わない。彼女はそう思い、大槌を素早く構えて正義の鉄槌を発動。
必殺の一撃で肉迫したシャンデリアを破壊するが、砕けた鋭利な破片が彼女の身体のあちこちに突き刺さる。
節制の従士は全身に走る鋭い痛みに顔を歪めた。しかし、まだまだ契約者達の攻撃は続く。
薄暗くなった部屋のなかきらきらと絢爛な輝きを見せるシャンデリアの破片の雨を潜り抜けて、皐月は速度を乗せた全力の蹴りを放った。
「……!!」
節制の従士の身体がくの字に折れる。
それは致命的な隙。セルファが間髪入れずにバーストダッシュで突撃。
黎明槍デイブレイクを突き出し、凄まじい速度を生かしたランスバレストを放つ。
「これが私の全速全開よ!」
槍先が節制の従士の肩を貫く。
そのまま速度を殺すことなく、一気にエントランスの壁に叩きつけ、彼女を縫いつけた。
セルファはそうして節制の従士の動きを封じ終えるやいな、素早く跳躍。代わりに見えたのは、視線の先で両手で大きな魔法陣を描く真人だ。
「これで、決着です……!」
真人はありたっけの魔力を魔法陣に込めて、シャンデリアよりも強く輝かせる。
煌々とした輝きから、一際大きなサンダーバードが召喚。雷の大鳥が征服の従士に向けて飛翔した。
「まだ、まだ……ッ!!」
征服の従士は最後の力を振り絞り、片手でサンダーバードを打ち払おうと大槌を振った。
しかし、それでも、膨大な魔力により召喚された雷の大鳥は消えることなく――。
「が、はぁッ……! あたしの負け、かい……」
直撃を受けた征服の従士はその場に力尽きて倒れたのだった。
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