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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 3

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 3

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第2章 お教室で実技勉強 Story1

 実戦に参加する生徒たちが教室の扉の前から立ち去った後、空京ホームセンターの実戦の様子を見学する生徒や、魔道具で実技を行う者たちが教室内へ集まり席に着いた。
「(ふむ、なにやら踏ん切りを付けたようじゃな)」
 宝石の力が弱まってしまうどころか、まったく無反応だったことに心を悲しみで満たし、憔悴しきっていたはずのレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)が授業に参加している様子を、隣の席に座っているアルマンデル・グリモワール(あるまんでる・ぐりもわーる)が見る。
 大泣きしてしまったせいか、まだ少しだけ目が赤いようだが、何をするにしてもあの問題は彼女自身が解決するしかない。
「(効果が減衰するのではなく、反応しないのですから…。何かしら理由がありますよね…?皆さん…もうすぐ現場へ着く頃でしょうか)」
 すでに実戦へ赴き頑張っているであろう生徒たちの姿を思い浮かべながら、レイナは輝きを見せようとしないペンダントの中のアークソウルを眺める。
 魔道書に対しても反応があるならパートナーに対しても、輝きの反応を見せるはず…。
 だが、教壇の傍で無反応な様子は見せたくない。
「(なぜ…なぜ応えてくれないのでしょう……。やはり私に問題が……?)」
 こっそり試してみようとペンダントをきゅっと握り、詠唱の言葉を紡いでみるが反応がない。
 精神を乱すような、余計な雑念は考えないようにしているし、魔性を滅するために戦いたいだけ…などという気持ちもない。
 誰かを…酷く侮辱し死なせた、放火殺害してやった、大切なモノを奪って捨ててやった、などいう凶悪な行いをしたこともなく、大罪を犯したいという感情もないのだ。
「(いいえ……。私はそんなこと……思ったことも、罪を犯したこともありません…。…なら……覚えが無いのなら…自身の意図せぬ無意識下に何かあると言うことでしょう……)」
 だが、そんなことばかり考えたり、落ち込んで悩んでいるばかりでは何も始まらないし、魔道具も扱えないまま…。
 ならば自分自身にディテクトエビルを使ってみてはどうだろうか。
 少しでも違和感のようなものを感じたなら、己の内側の奥深くに、魔性に近いモノがあるのかもしれない。
 自分を対象として試したことはないため、反応があるかは不明だが、何もせず悩んでばかりいるよりはよいかと試す。
「(何も感じませんね……?ディテクトエビルでは分からない…ということでしょうか)」
「(うーむ…、感じ取れないようじゃな)」
 そう簡単には分からぬか…、とアルマンデルは小さく息をつく。
「(―…やはり、私に原因がある…ということですか?)」
 なぜ宝石が反応を見せてくれないのか。
「(今までの私が…偽りのモノで……、……本当の私は…汚らわしいモノということ…?いえ…、そんなはずは……っ)」
 その原因は自分自身なのだろうが、醜悪なモノが自分の内に秘められているなんて考えたくもない。
 魔道具の効力が使えないのは、そんなことばかり考えて精神力を乱しているせいだ。
 大きくかぶりを振り、泣き出しそうな気持ちを堪える。
「レイナ、今日も早退したほうがよいのでは…」
 俯く彼女の背を優しく撫でてやり、教室を出たほうがよいかと、アルマンデルは声のボリュームを下げて言う。
 もう1度、彼女の名を呼ぼうとしたが、呼びかけることが出来なかった。
 自分の耳を疑うようなモノを聞いてしまったからだ。
 ソレが何と言ったかというと…。
 “はぁ〜…。メソメソメソメソ鬱陶しい…。私を生み出すようなヤツに、簡単に使わせてやるわけがないでしょう?”
 ―…と、低い声音でアルマンデルに言ったのだ。
「よくもこのような場所で正体を現したな……」
「フッ……。フッフフ…。私は…魔性じゃありませんからね。誰が…気づくというのです?フフフッ」
「だが、バレてしまったら消されるかもしれぬぞ?」
「おい…魔道書、騒いだら今すぐこの娘の存在を消す」
 アルマンデルに顔を寄せ、低い声音のまま乱暴な口調で言い放つ。
「わしを…脅しているのかっ」
「私を消す方法でも探しているんでしょう?ずっと…油を撒いて燃やしてやりたいと思っていたんですよね…。口やかましいボロ魔道書なんて……、私には必要ありませんから」
 内に潜むモノは丁寧な口調に戻し、殺意に満ちた言葉を吐き捨てる。
 魔道書であるアルマンデルを焼き殺し、この体を自分のモノとして支配してやりたい。
 それを実行してしまったら、自分の意思でなくても、レイナの手でやってしまったことになる。
 そうなれば、レイナは二度と表に出られなくなってしまう。
「わしは死なぬ…。消えるのはおぬしじゃ。さっさとレイナを返せっ」
「せいぜい頑張りなさい…。さて…そろそろ表に体を返してあげましょうか…。さっきからキャーキャー泣き喚いてウザイんですよね」
 中でその全てを聞かされたレイナは泣き喚き、必死に体を取り戻そうと騒いでいるようだ。
「あぁそうそう…。この話……少しだけですが、中で聞かせてやりましたよ……。フフフッ……」
 内に潜むモノはそう言い、目を閉じる。
 悪夢から目覚めたように、レイナはゆっくりとアルマンデルの方へ視線を向ける。
「―…私は、やはり……」
「言うなレイナ。ソレが全ておぬしだというわけではないのじゃ」
 だが、ソレを生み出した原因はレイナ自身にあり、ソレは全て自分ではないと否定することは出来ない。
 変えようのない現実に、これからどう対処していくか考えるのもレイナ自身だ。
「わしも協力するからのぅ。負けてはならぬぞ」
 今、パートナーであるアルマンデルに出来ることは、レイナを落ち着かせてやることだけだ。
 抱き寄せられたレイナは力なく頷いた。
「(さて、アレが魔性かどうかは分からぬが…。基礎的な知識は得ておかなければのぅ)」
 今のうちに対処法を身につけておこうかと、アルマンデルは片手を上げる。
「講師殿、人に憑いた魔性を祓う方法はあるのかのぅ?」
「魔性の強さにもよるんだけどね、スペルブックの哀切の章で祓えるよ。理由のある悪意の感情があって、憑いた場合とか厄介だね。憑いている人ごと自滅されないうちに、祓わなきゃいけないからね」
「うーむ…。自爆されないよう、力を削ぐように…ということじゃな」
 器から祓われるくらいなら自滅するヤツもいるだろうし、器に対してどのような感情を持っているかによって、それが出来ないほど力を削ぐ必要があるのか、とノートに書き込む。
 ただの妬みなどなら、そこまでダメージを与える必要はないだろうが、個人的な殺意などの感情があるなら話は別だ。
 物質に憑く能力を失わせるか、霊ならば成仏させてやる感じなのだろう。
「むー…、わしも現場に出て経験を積まねばな…」
 レイナの内にいるアレを対処するには、アルマンデルも学ばなければならないことが山積みのようだ。



「他に質問したい人はいないかな?なければ、実技を行いたい者は、教壇の傍へ集まってくれ」
「ほとんど現場に行ってしまっているみたいだな。となると…主力はコレットか?」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)は広々とした教室内を見回してみるが、机に本の魔道具を出している者は自分のパートナーしかいない。
 どうやら教室内でスペルブックを持っている者は、コレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)のみのようだ。
「私が主力なのっ!?」
 チームの補佐役をしようと考えていたが、他に主力役になれる者がいないのだ。
「ボクの使い魔は、守りとしての役割が主となるからね。魔性祓いはコレットさんに頼むしかないんだ」
「う、うん…頑張るわ」
 重要な役割を任されたコレットは、大きく深呼吸して緊張をほぐす。
「檻から何匹か動物を出すから、憑かれているやつを探して祓ってみてよ。で、憑いているやつは1匹だけね」
「それって、あのリスたちのコト?」
 探知するところから始めなければいけないのだが、すばしっこく跳ね回る小さな生き物の中から探さなければいけない。
「(ちょーっとだけ、じっとしててネ)」
 ディンス・マーケット(でぃんす・まーけっと)は近くにいるリスから調べる。
「その身に、相応と認められぬ魂が巣くう者か否カ…。その血、身、魂を天秤に乗せ、秤に合うか否カ、示しなさイ…」
 首から提げているペンダントに触れ、小さな声音で詠唱する。
「―…ペンダントが光った!この子には憑いていないネ。あれっ、遠くにいる子には反応がない…、もしかして、魔性が憑いてる子を発見出来たってコト?」
「もっと近づいて使ってみないと、憑いるかどうか分からないのでは?探知する能力があるといっても、もう少し相手の近くまでいかないと、反応有無を示しにくのかもしれませんよ」
 まだ訓練生の身なのだし、遠くにいる者は見つけにくいのだろうとトゥーラ・イチバ(とぅーら・いちば)が言う。
 とはいっても、相手はちょろちょろと動き回る小動物の中にいる。
 何十匹もいるその中から見つけなければならないのだ。
「それらしい姿のリスが見当たりませんね…」
「発見されないように器を変質させず、正体を隠しているのカナ?」
「そういえば…、不可視の相手ならそれで探知出来ると考えてよいのでしょうか?」
「アイデア術の探知能力として、使っている人がいたな。憑かれていない、地球人以外の対象を探知する能力だからな。姿を見るためには、エアロソウルが必要なんだけどさ」
 サンクチュアリが成功するか試すために、そのチームに協力していたクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)が言う。
「生体に憑いてる場合は、反応がないみたいだね」
 始めての授業で見聞きしたことを、コレットがトゥーラに教える。
「なるほど…。不可視の相手や生体に憑いている者を対象に考えたほうがよさそうですね。ディンス、ちゃんと聞いてましたか?」
「大丈夫、理解してるヨ。生命体に対してはちゃんと反応有無があるんだし、今日の実技に対しては問題ないネ」
 ディンスはこくりと頷き、教室内を歩き回りながら魔性を探す。
「生物を器にしている状態なら、物理攻撃を仕掛けてくることもあるよな」
「器とされている対象が、物質として存在するモノだから、それもあるだろうな一輝くん」
「となると…、シールド系で防ぐほうがいいのか?」
「物質的な質量のある物や者に憑いた魔性は〜、物理攻撃をしてくることもありますぅ〜。身を守るためのガードが可能な場合もありますねぇ。ですがぁ〜…不可視のものを見ることが出来ても、物質的質量をもたないため、物理攻撃をしてこないものもいますぅ〜」
「ポルターガイストのような霊的現象はあったりするのか?」
「はぁい、稀にありますねぇ。その場合の攻撃は〜、ほぼ物理扱いとなりますぅ〜。魔性や霊などには、物理攻撃や通常のスキルは効きませんし〜。盾などの防具を落とさないように、気をつけてくださいねぇ」
「こっちから仕掛けるつもりはないけど、詠唱中に守る者がいないと困ると思ってさ」
 一輝は振り返らずに頷き、チーム内のアタッカーであるコレットの傍へ寄り、龍鱗の盾を構えながら教室内を歩く。
「使い魔を召喚してみなよ。もしも魔性が近づいてきたら、2人が教えてくれるはずだからさ」
「うん、やってみるよ。(ポレヴィークを呼ぶために相応しい言葉や、草・樹木のような模様も描くんだったね)」
 呼び出し方は何度か授業で見学させてもらったし、その通りにやれば呼び出せるはず。
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)はチョークを手にすると魔方陣を床に描き、ニュンフェグラールを掲げて祈りの言葉を捧げる。
 ただ1人を主と認める使い魔。
 これから呼び出すポレヴィークはどんな姿なんだろうか?と想像してみると…。
 彼のすぐ傍で、しゃがれた不気味な声音が聞こえてきた。
 声の主を探すように、周りにいる仲間たちへ視線を移す。
 一輝やコレットでもなく、クリストファーの声でもないし、自分から離れて魔性を探しているディンスやトゥーラ、先生たちでもないだろう。
 だとすれば、残る可能性はアレが近くにいるということだ。
 クリスティーが祈りに集中している隙を狙い、襲ってくる気か…。
 アレは何匹ものリスの中からジッとこちらを見ているはず。
 自分の傍にいることを仲間に伝えることは簡単だが、ここで声を上げてしまえば、アレは群れの中へ隠れてしまう。
「召喚に集中するんだ。落ち着くように歌でも歌ってあげようか、何がいい?」
「うん、幸せの歌がいいかな」
 ボクには守ってくれるという仲間がいるのだから、彼らを信じて祈り続けよう。
 リュートを弾きながら幸せの歌を歌うクリストファーの声に気分を落ち着かせ、もう1度最初から祈りの言葉を捧げる。