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漂うカフェ

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「だいぶ買い込みましたね。これなら閉店時間まで持つんじゃないですか?」
 カートにも満載、両手にもいっぱいの買い物袋を抱え、ラナは同行の二人に朗らかに声をかけた。
「パン屋巡りが結構手間取ったな。場所覚えたか? 萱月」
 やはり荷物の大袋を抱えた恭也が、萱月に呼びかけると、「はい」とはにかみ気味に笑って萱月が答えた。
「どうだ? 少しは街の往来に慣れたか?
「そうですね、少しは。けどツァンダって、大きな街ですね。こんな賑やかな場所は初めてです」
 まだ目を丸くしてきょろきょろと、人の多い街の通りを見ている萱月を、恭也は少しおかしそうに見た。店を巡って街を歩いている間中、彼の人ごみに慣れない様子が、危なっかしくもあり、どこか微笑ましくもあった。
「店の営業さえなかったら、ちょっと街を見学して行ってもいいんだけどな」
「……。けれど、今は沢山のお客様にいらしていただいて、鈴里もだいぶ忙しくしているようですし……なるべく急いで戻らないと」
「へぇ。やっぱそういうのって感応するんだ?」
 双子の機晶姫、などと呼ばれていたと聞いたが、本当に双子のように何か通じているのか、それとも機晶姫たちがそういう設計になっているのか、恭也には分からなかったが、ただ凄いなと素直に感心した。
「? 萱月?」
 急に、萱月が不自然に動きを止めたのに、恭也は気付いた。呼びかけたが、聞こえていないかのように、前方に視線をやっている。
「萱月さん?」
 ラナも彼を不審げに見やり、それから、彼の見る方角に視線を投げかけた。

 沢山の人が行き交う往来を、ひときわ背の高い、軍人のように背をすっと伸ばした、厳つい骨ばった顔の痩せた男が通り過ぎていった。

「はい、終夏、注文のクリームケーキセットね」
 厨房からパートナーのガレットに渡されたケーキの皿とお茶のカップを盆に乗せ、終夏は客席に向かった。手渡す瞬間見せた、ガレットの笑顔が眩しかった。お菓子や紅茶など、好きなことに携わっている彼の顔は本当に輝いているなぁと、思い返して終夏は、自分も接客のためにいい笑顔をしよう、とひそかに気合を入れた。
「お待たせしましたー、ケーキセットです!」
 先程リースの相席を許してくれた沙夢たちのテーブルに、それを届ける。さっきは緊張してぎこちない様子だったリースは、大人しいなりに沙夢や弥狐に打ち解けた様子で、彼女らの話に耳を傾けて笑ったり、何か答えたりしていた。
「楽しそうですねえ」
 思わず終夏が声をかけると、リースは彼女を見上げて、あ、と小さく呟いた後、少し恥ずかしそうに、それでも笑ってみせた。
「ありがとうございます。……本当は今日、私、女子会するはずだったんです。だから、予定とは違っちゃったけど、こういうのも……楽しいなぁって」
「ねえねえ、そのケーキ美味しい?」
「弥狐! そういうのは行儀悪いわよ」
「いえ、じゃあ、一口いかがですか?」
「わーい」
 本当に楽しそうな彼女らを見て、終夏も、顔に自然と笑顔が昇るのを感じた。ガレットといい、誰かの曇りのない笑顔は、本人も知らぬ間に笑顔をまわりに増やすのかもしれない。
(よーし、頑張るぞっ)
 再び気合を入れ、客が席を立った後のテーブルを片付けに向かった、その彼女を弾き飛ばしそうな勢いですぐ横を突進し、ずんずんと店の奥に向かっていく一団があった。
「あ、お客……様? あの、ちょっと!?」
 一団は、客席には目もくれず、厨房の奥の階段を目指して一直線に歩いていくと、何故か「フハハハハ…!」という高笑いと共に階段を降りていった。
「……地下の作業のお手伝いさん、の遅刻組、かな?」
 終夏は呆然と呟いた。