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【第一話】動き出す“蛍”

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【第一話】動き出す“蛍”

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第十章:VS近接タイプ戦(決着編)
「やはり……これが無人機の太刀筋とは思えないな」
 魂剛のコクピットで唯斗は静かに呟いた。
 既に剣と剣で打ち合って幾合。互いの力は全くの互角だった。
 否、互いに相手の技量の底を探りながら、様子見の攻撃を繰り返しているとはいえ、一対多の戦いを生き抜いている敵機の方が実力では格上だろう。
 そして、剣と剣で打ち合う中で唯斗は相手が無人機ではないという何か確信めいた直感を得ていた。
 決して、無線通信を行い、対話を果たしたわけでもない。
 ましてや、相手の姿を見て、目と目を合わせて言葉を交わしたわけてもない。
 それでも唯斗には確信めいた直感があった。
 剣と剣を合わせ、互いに命を賭して勝負に臨んだ者同士だからこそ解ること――言うならば、剣士ならではの対話法によって感じたのだ。
 あの機体には間違いなく人が乗っている――しかも、紛うことなき本物の……正真正銘本当の武人であると。
 確信した唯斗は、自分を含む友軍と敵機がしばらく睨み合っている状況を破るべく、仲間たちへと通信を入れた。
「こちら魂剛――紫月です。誠に勝手ながら、皆に頼みがあります……」
 そう切り出した唯斗は一拍置いてから、ゆっくりとコクピットのマイクを通して仲間たちに頼み込んでいく。
「これから俺がやろうとしていることは独断専行以外の何物でもありません。ですが、それを承知でお願いします――俺にあの敵と一騎打ちをさせてください」
 自分の申し出に仲間たちが絶句したのが通信機越しにも伝わってくるのを唯斗は感じていた。無理もない、今まで複数機で束になってかかっても互角の相手に対して一騎打ちをさせてくれなど、無茶も極まりないことだ。
 仲間が絶句するのを感じながら、それでも唯斗は真摯に頼み込み続けた。
「敵機は有人機。そして、パイロットは武人です。もちろん、何一つ確証はありません。ですが、俺にはそう確信できるんです。そして、相手が武人である以上――正々堂々、正面からの一騎打ちで尋常に勝負をする。それが礼儀です。戦場に私的な思想や感情を持ち込むべきではないというのも理解してはいるつもりです。ですが……どうか俺にあのパイロットと一騎打ちをさせてください」
 正直に言えば、唯斗はこの申し出が聞き入れられるとは思っていなかった。第一、敵機の性能が自分たちの乗機を含む現行機を凌駕しており、加えてパイロットの技量も一級品である以上、その差は数の優位で埋めるしかない。
 更に、率直に言ってしまえば、この場における一騎打ちは何のタクティカル・アドバンテージもないのだ。
 ――却下されて当然。唯斗がそう思った瞬間だった。
『いいんじゃねえか? 機体のタイプや相性とかを考えりゃ、あながち悪い選択でもなさそうだしよ』
 まず真っ先に通信で賛意を示したのはハイラルだった。
『確かに、近接タイプの機体が切り結んでいる最中はフレンドリーファイアの危険性ゆえにカノンサポートもしづらくなるといえばしづらくなるか……ならば決して下策ではないな』
 続いて賛意を示したのは、ハイラルと同じくシュペーアのコクピットに座るレリウスだ。
『ボクとしてもオッケーだよ! データ取りはまかせて! Seele―?の全センサー総動員はもちろん、ボク自身の目で唯斗兄貴の戦いを最後まできっちり見届けたげるからさ!』
 シュペーアのパイロット二人に続き、今度はミルトからの賛意。いつのまにか彼の中で唯斗は『兄貴』というものに昇格したようだ。
『ミルトがそう言うなら私はそれに従うまでですわ』
 ミルトからの頼もしい言葉に続くようにして、ペルラからも賛意が寄せられる。
『ちょっ……!? みんな何言って!? いくらなんでもあれほどの使い手を相手に一騎打ちなんて無茶よ!』
 ただ一人、唯斗を止めに入るのは佐那だ。
『ジナイーダ様。これは武人の性のようなもの。どうか解ってやってくだされ。同じ武人の一人として、この私からもお頼み申す。仰る通り、勝ち目は薄い事に相違ありますまい――なれど、武人にはたとえ勝ち目が薄かろうとも、勝負に臨まねばならぬ時が御座います故』
 佐那が止めに入る一方、今度は佐那を止めに入ることで宗茂が唯斗を擁護する。
『万所……』
 唯斗に負けず劣らずの真摯さを見せる宗茂に、佐那も口をつぐまざるを得ない。
『左様。過ぎたる物言いとは存ずるが、敢えて申そう――ジナイーダ殿、くれぐれも手出しは無用。よしんば我等の無用な横槍によってあの若人が勝ちを、ひいては、生を拾った所でその勝負は負け戦。肉体の生は拾おうとも、あの若人の心は死んでしまいおる』
 宗茂の思いに共鳴し、義輝も唯斗を擁護し、賛意を表明する。
『わかったわよ……あたしもそこまで無粋じゃないわ!』
 二人から説得され、佐那も遂に首を縦に振る。その言葉に呼応するかのように彼女たち三人が乗るザーヴィスチは大型超高周波ブレードを納刀すると、腕を組んで仁王立ちの姿勢を取る。
『いいわ! 見届けてやろうじゃない――聖像同士による、とんでもねえ真剣勝負ってヤツをね!』