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夏フェスに行こう!

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夏フェスに行こう!

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第一章


 提灯が灯り、祭囃子が聞こえ出す。
『夏フェス』が始まった。
「フハハハ! 魔仮名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)!」
 会場へやってくるなり、いきなりの口上をかましたハデス。
「ほほう、ここが噂の大規模同人誌即売会というところか……のわりには、誰も同人誌を売っていないようだが?」
 そして、どうやら『夏フェス』と『夏コミ』を勘違いしていた。どこをどう聞けば間違えるのか。なんとも憎めない悪の幹部である。
「デメテールよ、どういうことだ?」
 一緒に訪れたデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)に確認を取るが、返ってきたのは沈黙。
「くっ、早くも人波にのまれたか……」
 姿を消したデメテールを探すため、ハデスも人波に飛び込んだ。


 やぐらを囲んで始まった盆踊り。
 踊っているのは町内会のみなさん。来るメインイベント『夜になっても踊り続けろ!』の前座である。
「へぇ、この地域の振り付けはこんな感じなのね」
 それを見つめ、館下 鈴蘭(たてした・すずらん)も真似して踊りだす。
「鈴蘭ちゃん、踊りに行くの?」
「今はまだ、振り付けを覚えなきゃいけないわ」
 後ろから話し掛けたのは霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)。振りを入念にチェックする鈴蘭へ、少し顔を赤らめて誘う。
「あ、あの、さっきヘルさんに教えてもらったブレスレットを買いにいかない?」
 恋愛成就のブレスレットを購入、そして夜店を回るデートに……と思った沙霧だが、
「この後に開かれる耐久BON−DANCE。地元じゃ盆踊りの虎と言われた私が参加しない訳にはいかないでしょ!」
 本気モードに突入していた鈴蘭。何よりもそちらの方が重要だった。
「ちょ、ちょっと待って鈴蘭ちゃん。盆踊りの虎って――」
 初めて聞いたよ、そう言うよりも早く可愛らしく拳を握って、
「盆踊りは夏祭りの華! 楽しく踊ってお祭りを盛り上げるわよ!」
 決意表明しだす。こうなったら沙霧に止める手立てはない。
「はあ……期待した僕が馬鹿だったよ……」
 落胆したのもつかの間、この流れだと、
「それってやっぱり、僕も一緒に……」
「よし、振りは覚えたわ! 沙霧くん! 浴衣を借りに行くわよ!」
「ですよねー」
 沙霧は手を引かれ、レンタル場所へと連れて行かれた。


 射的屋台。
「ダリル、どっちが多く景品ゲットできるか勝負よ♪」
「それは構わんが、楽しそうだな」
「屋台大好きだもん」
 楽しげに射的用の銃を構えるルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)。玩具とはいえ、熟練の兵士が構える姿はとても様になっている。
「おじさん、お願いね」
「まいど!」
「あっ、携帯に着信が……雅羅からだ」
 お金を払う際に取り出した携帯。そこにメールの着信表示がされていた。それを確認すると、
「……美夜がトラブルを背負っちゃったみたいね」
「だからもっとマメにメールは見ろと……」
 小言を返すダリル。
 ルカルカは「ごめんごめん」と謝ると、メールをダリルにも見せる。
「この借金、どうも変よね? きな臭い感じがするもん」
「確かに、法に則ったものではなさそうだ」
「だよね? これは助けにいかなと」そう決めたルカルカだったが、「その前に、お金払っちゃったし、先ずは景品を取っちゃおう♪」
「おいおい……」
「大丈夫、銃の扱いはお手の物だよ♪」
 コルクを詰め、引き金を引く。狙った獲物に違わず命中、景品をすばやく倒していく。
「えっ!? 百発百中!?」
「まったく……さっさと終わらせるぞ」
 ダリルもまた、狙いを定めて発砲。但し、【ホークアイ】と【スナイプ】を活用して数発で位置をずらし、
「そこだ」
 重なった景品を一気に落とす。
「か、勘弁してくれ……」
 屋台のおじさんの悲鳴が上がる。
「ダリル……大人気なくない?」
「さあ、景品は頂いた。これで心置きなく助けに行ける」
 両手に景品を抱え、美夜を探しに行くルカルカとダリル。
「射的屋台、畳もうかな……」
 ここにも一人、助けを必要としていた人が居たことを二人は知らない。


「わ、私たちの屋台は大丈夫でしょうか……?」
 向かいの射的屋台の参上に戦慄するリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)。自分の出店した輪投げ屋も同じ目に合うのではないか、それが頭から離れない。
「なに、心配無用じゃ」
 自信満々に励ましたのは鳩、否、アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)だった。
「商品に関しては我輩に任せておくのじゃ。リースは頑張って接客をしておると良い」
「お師匠様……」アガレスの頼もしい言葉に、「私、頑張ります!」
 リースは気を取り直し、接客に精を出す。
「わ、輪投げ屋ですー。よ、よろしければ、ご参加、くださーい」
 のだが、普段からの引っ込み思案。いきなり大声など出せず、まだまだ集客は見込めない。
「さてと、今のうちに作戦を……」
 それを利用して、アガレスは裏工作を進める。
「客の目当ては一等の商品。それをみすみす渡すような愚行は起こさぬ」
 アガレスはその羽で筆を持ち、リースに見つからぬよう注釈を書く。その内容は、
『我輩に輪投げの輪を掛けられたものに一等の商品を渡す』
 というもの。
「これで我輩が逃げ続ければ、店は繁盛間違いなしじゃ」
 不敵に笑い、商品の中へと紛れ込む。
「あの、一回いいですか?」
 そこに丁度、初めてのお客さん。
「は、はい。こ、この六個の輪っかで、しょ、商品を狙ってください」
 おどおどしながらも、一生懸命に接客をこなすリース。
「どうせ狙うなら、一等だよな」
 輪を受け取った客は狙いを定めて、
「あまいのじゃ!」
 投げられた輪を【バードマンアヴィラータ・ウィング】で華麗に避けるアガレス。
「はっはっは、鬼さんこちらーじゃ!」
 客が叫んだ。
「こいつ、動くぞっ!?」


「夏と言えばカレーだよね!」
 屋台から独特の匂いを放たせ、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は『盆カレー』と書かれた二つの寸胴をかき回す。
 右側のカレー。
 小ぶりなナスを素揚げにし、甘辛く煮付けた姫たけのこを刺して「夏の棒茄子」を表現。同じく塩漬けした一口大のキュウリにカリッと揚げた牛蒡を刺して。
 カレーには牛ひき肉と甘味の強いたまねぎ、夏野菜のペーストが溶け込んだブイヨンを合わせ、赤だしベースの甘味噌と特製のルゥでキーマカレーに。
 キンキンに冷えた茹でたて素麺に盛り付ければ、ジャージャー麺風の『盆カレー〜迎火』の完成。
 対して左側のカレーは。
 ルゥにパプリカのペーストを多めに混ぜ、柔らかく煮込んだチキンを投入。
 真っ赤なチキンマサラカレーにあわせるのは、イカ墨と香味スパイスのスープで炊き上げた灰色バターライス。
 それを丸い丘のようにお皿へ盛り付け、周囲へチキンマサラ、仕上げにまん丸の目玉焼きを乗せれば、『盆カレー〜BOZU』。
「うーんっ! 試作は完璧だねっ!」
 一口食べると、辛味と甘味が混ざり合い、何とも言えない旨味が口に広がる。
「暑い時こそスパイシーな料理で元気にならないと!」
 匂いにつられてやってきたお客に、元気いっぱいでおもてなし。
「ネージュ特製『盆カレー』! みんな、食べていってね!」


 カメラを掲げたマナ・アルテラ(まな・あるてら)柳川 英輝(やながわ・ひでき)を引き連れて、寺の境内を回っていた。
「色々な出店がありますね」
「祭りの風物詩ですからね」
 借用した浴衣に身を包み、穏やかな会話を交わしながら練り歩く二人。
 パラミタ出身のマナには珍しいもののオンパレードだった。カメラのシャッターから指を外す暇もない。
「あれはなんですか?」
「ヨーヨー釣りです。紙で吊るしたフックにヨーヨーの輪を引っ掛けて取るゲームです」
「あっちは?」
「金魚すくいです。紙で覆ったポイといわれる網で金魚をすくいます」
 逐一説明する英輝。
「紙って、濡れると破れてしまわない?」
「それが醍醐味なんですよ。如何にして吊り上げるか、すくい上げるか、それを楽しむんです」
「地球の人は変なことを考えるのね」
 と言いつつも、しっかりとシャッターは切られている。
「マナは本当に写真が好きですね」
「これが私の生甲斐ですから」
 愛用のカメラを示し、満面の笑顔を見せるマナ。
「他に面白い出し物ってないの?」
 その質問に、英輝は満を持して答える。
「やっぱり目玉は盆踊りですね」
 そう言うや、メインステージで耐久BON−DANCEが開始された。