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リアクション
桐生 理知(きりゅう・りち)も、辻永 翔(つじなが・しょう)と観覧車に乗っていた。
今日の理知は、淡いピンク色のミニワンピに白のファーつきコート、ブーツというコーディネート。
三つ編みを解き、小さな三つ編みを後ろでリボンで止めるという清楚なお嬢様風の格好だ。
観覧車では、向かい合わせではなく隣に座っている。
「迷わず隣に座ったな」
「だって正面より隣が良いもん」
理知は幸せそうな笑顔で答える。翔はそんな理知を見て愛おしそうに笑った。理知は、スカートのしわを直すふりをして、少しだけ翔に近付いて座った。
観覧車が空に近付くほど、何にも邪魔されない二人きりの世界が近付いて行くみたい。そんなことを思いながら、理知は翔に聞いておきたかったことを思い出す。
「翔くんは、好きなケーキの種類ってある?」
「そうだな……基本的にはどんな種類でもいけるかな」
「どれくらいの甘さのケーキでも?」
「あまりにも甘過ぎなければ」
理知と翔は、微笑み合う。こうして二人話す時間が、何よりも幸せを感じられる時間だった。たわいない話をするだけで幸せになれる、そんな関係でずっといたい、と思いながら。
「こうして、一緒にいられて嬉しいな」
その言葉が、今の理知の気持ちを表す全てだった。
理知は観覧車の窓の外を見た。いつの間にか観覧車は、頂上を回ろうとしている。
「翔くん」
ふと、静かに翔を見つめる理知。翔は黙ったまま、そっと理知と唇を重ね合わせた。
「これからも、よろしく」
翔の言葉に、理知は嬉しそうな、けれど少し恥ずかしそうな笑顔で頷いた。
*
大観覧車の中の一つに仁科 姫月(にしな・ひめき)と成田 樹彦(なりた・たつひこ)の姿があった。姫月が樹彦を遊園地の大観覧車に誘ったのだった。
「えと、ね。アンタと最初に会った時、覚えてる?」
姫月が、切り出した。
「あの時、私の兄貴が行方不明になって、私、どうしていいかわからなくなって。そしたら突然、アンタが光に包まれて現れて。びっくりしたわ。突然現れたこともだけど、アンタが兄貴そっくりだったから」
樹彦は黙って、姫月に話の続きを促した。姫月は少しだけ黙って、ーーそして、口を開いた。
「私ね、兄貴が好きなの。兄としてではなく異性として」
姫月の声は、少し震えていた。
「おかしいでしょう? でも、どうしても好きなの。だから、ね、アンタと契約したの、兄貴の代わりだったの。最低だよね私」
そこまで言って、姫月は涙ぐんだ。その言葉を聞く樹彦の表情は読めない。
「でもね、アンタと短い間、行動してきて、色々手伝ってくれてそれで、あんたのこと、気になってきて。でも、結局、アンタのこと兄貴の変わりとしか見ていないんじゃないかって、それで告白できずにいたんだ。でも、言うね。私、アンタのこと、樹彦の事好き。だから」
突然、樹彦が姫月の言葉を遮るように抱きしめた。
「ごめん、姫月」
姫月の耳元で、樹彦は言葉を続けた。
「いままで、言えなかった。だいぶ前に俺の記憶は戻っていたんだ。俺は、お前の兄貴だよ」
樹彦の内側から溢れ出るように、その言葉は続いた。
「行方不明になったのは、シャンバラ人と契約したとき、色々あってナラカに落とされたんだ。何とか脱出したときには人間ですらなくなってしまった。だから、お前には言えなかった」
「うそ、ほ、んとなの。バカ、言うのが遅いのよ、バカ兄貴……」
姫月の目から、涙が溢れ出す。
「俺もお前の事、好きだよ。ここしばらくの出来事で、兄妹じゃない付き合い方をして、お前のいろんな面を発見して、それでいつの間にか好きになっていた。でも、俺たちは兄妹だから、そう思って言えなかった」
「ほんと、本当、何だよね、嘘じゃないんだよね」
樹彦は黙って頷き、涙声の姫月をぎゅっと強く抱きしめた。
「……大好きだよ、お兄ちゃん」
姫月の言葉は、空京の夜に静かに溶けていった。
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