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リアクション
★第六話「ラスボス名はジャンボパフェ」★
◆
祭りが楽しいばかりですむのならば、楽だ。しかし現実では何かしら問題が起きるもの。
「はい。今盗ったもの、出しなさい。今ならまだ手加減してあげるわよ」
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は財布をすった男にそう言った。その腕には運営の腕章がある。男はリカインが女であり、武器も持っている様子がないと見るや強気な姿勢になった。
そんな男の様子に、「しょうがないわね」と息を吐く。折角の祭りなのだ。あまり抵抗しなければ大目に見ようと思っていたが。
「この場合は不可抗力よね」
「は? 何いっかはっ」
レゾナント・アームズの一撃が鳩尾に入った盗人は、あっけなく意識を手放した。パンパンっと服についたほこりを払う。
「じゃあ、後はよろしく」
「はい!」
盗人を引き渡し、リカインは再び自分の仕事――アナウンスに戻る。警備の手が足りない時はそちらに回るが、落としものや迷子の放送も大事だ。
「只今、4歳ごろの……」
一通り放送を終えると、増えていた迷子もいなくなり、一先ずは安心。……していたのだが、一報が入る。
「え? 食材が逃げたから捕まえるの手伝ってくれ? ……どういうことなの?」
良く分からないが、大変そうだ。リカインは首をかしげながらも現場へと向かう。
「む、すまないが噴水広場はどっちだろうか」
そんなリカインにジョージが話しかける。ちょうど現場が噴水方面だったので、そのまま一緒に行くことに……「猿っ?」と一瞬驚いたのは内緒だ。
「あちゃぁ、これは根元からやられてるね……って、ジョージ。どこ行ってたの」
「いや」
「まあいいや。とりあえず破片片付けるの手伝って」
トラックの事故でなぎ倒された電灯を見ていた生駒がジョージに気づく。
リカインは現場にいたコルセアに話を聞く。コルセアは事故の後処理をしていた。
「……なるほど。状況は分かったわ」
もうすでに何人かが捕まえに街を駆け回って何匹か捕まえたとのこと。リカインもまた街へと飛び出す。
「静かなままでは終われないのね」
そんなため息と共に――マジですみません。
◆
事故現場からやや離れた場所を、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が歩いていた。買い物帰りなのか、袋を手に提げている。
そんな彼女の前に
「……あら?」
野生のスッポンと魚が現れた! ――もちろん、吹雪から逃げ出した数匹だ。
飛びかかってくるスッポンたち!
「パフェの食材によさそうね」
しかしあっさりと捕まり、咲耶の機嫌を上昇させた。……え、ちょっと待ってください。咲耶さん。それらを何の材料に?
『アガルタ祭ですか! これは、この喫茶店の売上を伸ばして、家計の足しにするチャンスです!
よーし、早速、お客さんを集めるための企画を立てましょう!』
と気合いを入れた咲耶は、こんな広告を出していた。
===
秘密喫茶オリュンポス特製ジャンボパフェを
見事完食した方と、そのお連れの方は、飲食代無料!
===
嫌な予感しかしない。
「っと、聞いた話だとここらへんみたいなんだが」
ローグ、コアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)、香菜は秘密喫茶を求めて歩いていた。
「あ、もしかして秘密喫茶へ行くの?」
そこへ秘密喫茶へ挑戦しようとしていたレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とミア・マハ(みあ・まは)が通りかかる。ミアは
「他にも挑戦する愚か者がおったか」
とぼそりと呆れ口調で呟いていたが、誰の耳にも入らない。
そうしてレキたちが場所を知っていること言うことで、皆で向かうこととになったのだった。
◆
「だから、ここの並びはおかしいだろうっ?」
「何を言ってらっしゃるのですか。これは八卦術では……」
秘密喫茶前では、安倍 晴明(あべの・せいめい)と朱鷺が術について口論していた。陰陽術と八卦術でぶつかっているようだ。
もうすぐ
『よろしい。ならば決闘だ』
となるのではないかとワクワク待機……いや。心配だ。
しかしその時、中から、朱鷺の店のマスコット――式神の黒麒麟と白澤がやってきて、2人の手を舐めた。
「こいつらはギフト……に式神を使ったのか」
「はい。一目で見破るとは、さすがですね」
険しかった晴明の目が感心の光を帯びた。それは朱鷺も同じで、2人はどうやら互いを認め合ったようだった。
「ここで立ち話もなんですし、中へどうぞ」
「ああ」
そうして店の中へと消えていった2人を、そっと覗き見ている者がいた。
「い、今のは安倍 晴明っ?」
驚いているその人物は術者の1人。この近くに良い店があると聞いてやってきたのだが、偶然にもその場面に出くわしたのだ。
「あの店主。安倍 晴明と対等にやりあうなんて……ただ者じゃない。あの店で札を買えば私も!」
そうして男は店の常連となり、密かに朱鷺の店は術者や一部の好事家に伝わっていき、依頼も入るようになるのだった。
◆
「たしかここらへんに……あった」
レキは壁を撫で、わずかな凹みを感じ取った。ドアの取っ手だ。
(この前、たしかに店に入って店長に挨拶したのは覚えてるのに、それから先の記憶がないんだ。感じるね、秘密の香りを。
だから今回はリベンジ。
秘密喫茶の謎をボクが解き明かすんだ!)
「頼もーう!」
ドアを開く。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社……もとい、アガルタの喫茶店業界支配を企む秘密喫茶オリュンポスの店長、マスター・ハデス!
ククク、我らが秘密の隠れ家(的雰囲気の喫茶店)をよく見つけた! 丁重にもてなしてやろう!」
まず響いたドクター・ハデス(どくたー・はです)の高笑いに、ミアを除いた全員が驚く。しかしレキは
(なるほど。これがこの喫茶の挨拶なんだね)
「ふはははは!」
レキもどや顔で返しながら、出迎えてくれた(何故か鎧姿の)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)に案内されて席につく。
「なんだぁ、ここは」
そんな時、また1人魔の門……違った。秘密喫茶へ足を踏み入れる者がいた。
「いらっしゃいま……って、キ、キロスさんっ?! な、なんでここにっ」
「ああ?」
アルテミスが動揺した。赤い髪を揺らしたキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)は口を開き、そこに香菜までいるのを見て「何やってんだ?」と言った。
「それはこっちのセリフよ」
「おれはうろうろしてたらこの建物から妙な気配を感じたからだな」
話しているキロスの姿を見ながら、アルテミスの顔に熱が集まっていく。心臓がばくばくと高鳴る。
「わ、私、なんでこんなに手が震えてるんでしょう」
アルスミスは初めて経験する感覚に首をかしげ、ハッとした。
(こ、これはまさか……武者震い!
私の騎士としての血が、キロスさんと戦えと言っているのですね!)
違う! っとアルテミスの心にツッコミできる人はいない。
「キロスさん!」
びしっと指を突き付けられ、キロスの目がアルテミスへ向く。ただそれだけのことで、アルテミスの心臓はさらに早くなる。……だが、それをアルテミスは戦闘前の高揚と考えた。
「ここで会ったが百年目! ジャンボパフェで勝負です!」
「……いいぜ? 受けてやる」
バチバチっと火花が咲く。
「そうだった。ボクもジャンボパフェに挑戦しに来たんだよね」
クーポンに、食べ切れたら無料とあるのだ。無料と言う言葉に弱いレキは躊躇なく挑戦を宣言。甘いもの好きだし大丈夫だろうと言う認識もある。
ミアの呆れの目に「どうしたの?」尋ねるも、「なんでもない」としか言わない。
「キミたちはどうする?」
「そうだな。俺もそれで」
「じゃあ私も」
「わらわは『店長』の作ったケーキとコーヒーを」
一通り注文が終わると、ハデスがまた高笑いする。周囲を蠢くのは、時給780円で雇ったバイトの【戦闘員】【特戦隊】たちだ。
アガルタ祭りということで、新たに雇ったらしい。
従業員たちへ的確な指示を出す当たり、指揮官として優れているのだろうと思わせる。……しかしビーカーに茶色の物体(コーヒー)を流し込んでいる姿は、実験している危ない人にしか見えない(ご丁寧に周辺の装飾も実験室風だ)。
それでいて、透明な容器に置かれるケーキはなんとも美味しそうだった。
「フハハハ! さあ、命知らずの挑戦者どもよ!
最凶の幹部・咲耶がもてなそう!」
「ちょっと兄さん! 最凶ってどういうことですか。最凶って……っと、すみません。ジャンボパフェお待たせしました」
奥から出てきた咲耶とバイトたち(なぜかガスマスクを装着している)がソレをテーブルに置いた途端、店内に沈黙が落ちた。
のを、1人いつの間にか離れたところにいたミアが眺めていた。手にはハデスの入れた美味しいコーヒーがあり、テーブルには美味しそうなケーキもある。
プロだ! もはやプロだ!(何のかは不明)
「あ、あれ? なんでイナンナの加護が食べ物に反応して……前にもこんなことがあったような」
レキが頭を押さえる。
秘密喫茶がある地区は、少し治安が悪い。なので念のためにと発動させていたイナンナの加護が、目の前にある物が危険だと訴えている。
全体の色は紫。きっと紫芋でも使ったに違いない。ちょっと半透明だけど。
上からかけられている赤いシロップは、イチゴだろう。ちょっと鉄の匂いがするけど。
振りかけられている半透明の薄いものは、新しいお菓子だろう。ちょっと魚の鱗に似ているけど。
数カ所に埋まっている黒白の丸い球体は、飴だろう。ちょっとキョロキョロ動いているけど……いや、動いてなどいないいないいないいない。
「こ、これは……」
「おいおい、まじかよ」
「ふむ。これが『じゃんぼぱふぇ』なのか。我、初めて見た」
「そうだな。俺もこんなのは初めて見る」
「……食べられるの、よね?」
「……ふ、っふっふっふ」
誰もが絶句する中、アルテミスが笑った。
「これが私へ与えられた試練だと言うのですね! 受けて立ちます! キロスさん! 逃げるなら今のうちですよ」
「誰が逃げるか! やってやるぜ!」
巨悪なパフェにスプーンを入れて挑むアルテミスとキロス。
しかしながら3口食べた所でも2人は平気そうだった。ローグもレキも香菜も息を吐きだし、ほぼ同時に口へと運んだ。
「うん。結構美味しいわね」
「だな(なんだ。見た目だけか)」
「うんうん。これなら全部食べられそうだね」
のんびり食べる3人の横では、キロスとアルテミスが競うように食べ続けていたが、同時にその手が止まる。
「てめぇは! なんでこんなところにいやがる!」
「え?」
イスから立ち上がって叫んだのはキロス。
「了解しましたハデス様。あれを破壊すればよろしいのですね」
そう剣を抜きはじめたアルテミス。
どうも幻覚が見えているようだった。重傷だ。
「なるほどの。今回のは遅効性じゃったか」
冷静に判断するミア。だがこのままでは周囲に被害が出そうだと、用意していた浄化の札を2人に使う。
「欲しいものは力づくで……うっ」
「邪魔をするなら……くっ」
ぱたり、と倒れ込んだ2人に、念のために命のうねりも使用。呼吸が正常なので大丈夫だろう。きっと。
「ふはははは! ボクこそが秘密喫茶の謎をつきとめるんだー。ははははは」
「ちょっとそこのあなた! ちゃんと掃除をしなさい! え? む、胸のことは今は関係ないでしょ!」
「はっ。いいか? 俺に追われたら逃げれんと思っとけ」
大惨事だ。
そんな面々を見上げ、コアトルはローグの残したジャンボパフェを一口食べ、ふむと頷く。
「スッポンの血液、肉、魚の目玉、鱗……それと未確認成分を発見。さらなる分析を……」
なぜか料理の成分分析を始めた。
「やれやれ。世話がやけるのう」
ミアは店内を見回して――なぜかレキにつられて高笑いしているハデス。原因が分からず慌てる咲耶――ため息をついたのだった。
「挨拶して、パフェ頼んで、何口か食べた……のは覚えてるんだけど、ジャンポパフェがどんなんだったか覚えてないんだよね」
「俺は入口をくぐったところから記憶がないな」
レキとローグが頭を押さえて言っている。レキは二度目であるからか。以前よりよく覚えているようだった。
「ね、あなたはどうだったの?」
「わらわか? そうじゃの……美味じゃったぞ」
店長の料理は、と心の中で付け足すミアだった。
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