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紅き閃光の断末魔 ―前編―

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紅き閃光の断末魔 ―前編―

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◆衛兵テント◆

「以上で、我々の自己紹介は終わりです」

 所長のトマスは、全員の紹介が終わった事を確認して、代表らしくそう締め括った。

「うん、セレンとセレアナが調べてくれたデータとも食い違ってないし、間違いないね!」

 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、生き残り5人の証言と同期されたリストを見比べて安堵した。

「ふむ……そのようだな。教導団所属の者が所長だけだというのは驚いたが……いや、犠牲になった副所長もだったか」

 こちらは夏侯 淵(かこう・えん)
 彼もスキル【嘘感知】を使って聞き取りに参加していたので、彼らの証言はひとまず信頼していいだろう。
 だが、一言も発さずに一連のやり取りを傍観していたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)
は、未だ警戒の面持ちで何かを考え込んでいた。

「ダリル?」
「……セレン達が挙げたデータは、偉い人ルームとやらの書類を参照したものだったはずだ」
「うん。そう言ってたけど、それがどうかした?」

 すると、ダリルは所長の方に目線を向けて、こう指摘した。

「仮に、その書類自体がそもそも捏造されたものなら、嘘をつくことなく俺達を欺く事が可能だ。違うか?」

 偉い人ルームでは、所長のトマスが事務作業を担っている。
 つまりセレン達が調べた名簿も、もともと彼が悪意をもって作成したものじゃないかと疑っているのだ。

「ちょっと! そんな端から疑ってかかるみたいな言い方しないでよ!」

 応じたのはトマスではなく、研究員のレベッカだった。
 ルカルカも慌てて「そうだよ。無実の人だったらどうするの」と口を添えた。
 しかし、糾弾された張本人であるダリルは、詫びれることもなく続ける。

「仮にと言っただろう。本当に無実ならば、そう騒ぐことでもあるまい? で、どうなんだ」
「……あの書類は、研究室が設置された時に、教導団本部で作成されたものです。私が手を加えたという事はありません」

 トマスはあくまで冷静に答えた。
 ダリルは夏侯淵にチラリと目配せする。トマスが騙しの供述をしていないか、確認しているのだ。
 夏侯淵はすぐにその意図を読み取ってか、やれやれといった風に両手を上げ、首を振ってみせた。

「そうか、ならばいい。つまらん事に時間をとらせてすまなかったな」

 ダリルはやっと納得したかと思えば、また端っこのほうに下がって聞き専に戻ってしまった。
 一連の流れを受けて、生き残り5人の間に小さな動揺が広がる。

「なんなのよあいつ。感じ悪い!」
「た、確かにそうだけどぉ。一応取調べなんだし、仕方ないんじゃないかなぁ?」

 レベッカが愚痴を漏らし、同じく研究員のアメリーが頼りないフォローを入れる。
 そこで、様子を見ていた衛兵のデュオが諭すような口調で、

「フン、仕事とはそういうものだ。己が意思を捨て、機械のごとく任務をこなす。その点あのダリルという男は筋が良い……」

 レベッカは横暴な態度(とレベッカは思った)に肯定的なデュオに、「なによ、あんたもそっち系?」と喰ってかかる。
 ルカルカは収集がつかなくなる前に何とかしようと、

「ま、まぁまぁ! ダリルも悪気はないと思うの。もともとあんな性格だもん。むしろフツーというか」

 その言葉に微妙に反応したダリルだったが、否定する気はないのか沈黙を貫いた。
 一同も少しは納得したように見える。
 夏侯淵はその機を逃さず、脱線した話を元に戻す。

「無実を証明し、お主らの守りたいものを守るためにも、必要なことなのだ。次は事件発生時の動向……つまりアリバイ確認になるのだが、協力してはくれぬか?」

 ルカルカも、自分達は敵ではなく味方なのだと理解してもらう事に努める。

「真相に迫る為に、貴方達の力を貸してほしいの。お願い!」

 するとトマスが、

「ええ、もとより協力を惜しむつもりはありませんよ。もし内部犯がいたならば……所長として絶対に突き止めなくては」

 それを皮切りに、レベッカやアメリーも次々と決意を表明する。

「ま、そこまで頼まれちゃ、あたしも断るわけにはいかないわね。あなた達は向こうの男よりはいい人みたいだし」
「えっとぉ……私も協力します。お役に立てるかわからないですけど……」

 しかし、衛兵の2人は所内で働いていた彼らとは、少し違った反応を示していた。

「必要なことなら答えるが、特に馴れ合う気はないぞ。簡潔に要点だけ聞いてくれ」

 これまで無言だった衛兵の早川 透は、やっと喋ったと思えば素っ気無い。
 デュオのほうはデュオのほうで、とんでもない事を言い出した。

「聞き取り自体は好きにするがいい……だが、歴戦の覇者である俺様は、時に敵地で捕虜となることもあった。そういう時に備えてスキル【存じ上げません】を習得しているぞ。取り調べでは【嘘感知】が多用されると聞くが……間違っても俺様には通じると思わぬようにな」

 確かに、透とデュオは契約者なのだから、そういった上級スキルで防衛策を取る事も可能だ。
 それはトマスも例外ではないだろう。
 ただ、ルカルカはそれほど動じていないようで、デュオの発言を踏まえた上でも、

「それでも、協力してくれるんだよね? ありがとう」
「…………フン。LH社の機密に触れない程度までだがな」

 こうして、若干の不安要素を残しつつも、ルカルカ達の取り調べが行われた。
 その結果は、セレンの時と同様、携帯電話を通じて同期されることとなる。


■獲得情報

<トマスのアリバイ> 記録者:夏侯 淵(かこう・えん)
所長のトマス氏は、事件発生時は廊下にいたそうだ。
その10分ほど前までは偉い人ルームの中で事務をしていたようだが、
訪ねてきたアメリーに、ある資料を確認させてほしいと頼まれて仮眠室へ向かったらしい。
仮眠室にある鍵付きロッカーから目的の資料を取り出し、
偉い人ルームに戻る途中で爆音を聞いたそうだ。
また、トマスはその時、武器庫から爆発の余波を感じたと言っている。
武器庫内の状況から見ても、あの爆発があったのは武器庫で間違いないだろう。

<アメリーのアリバイ> 記録者:夏侯 淵(かこう・えん)
研究員のアメリー氏は、事件発生時は偉い人ルームにいたそうだ。
その15分ほど前までは大部屋で機構の解析に勤めていたようだが、
進行に当たってある資料を確認する必要が出たのだという。
その資料は、現在は所長が持っているものだったので、
研究員達を代表してアメリーが、偉い人ルームまで取りに行ったんだと。
その後は、トマス氏が仮眠室に向かってから爆音を聞くまで、
ずっと偉い人ルームで1人で待っていたそうだ。

<レベッカのアリバイ> 記録者:夏侯 淵(かこう・えん)
研究員のレベッカ氏は、事件発生時は屋外の簡易トイレにいたそうだ。
その30分以上前から、大部屋での機構の解析を抜けていたという。
大部屋を抜けた後、まず冷蔵庫に行ってペットボトル飲料を持ち出し、
続けて仮眠室の鍵付きロッカーから、予め買っておいた夜食を持ち出した。
そして、休憩室に行って持ってきた夜食を食べ終えた後、
外に出てトイレに入っていたところで、爆音を聞いたそうだ。

<透のアリバイ> 記録者:夏侯 淵(かこう・えん)
衛兵の透氏は、事件発生時のずっと前から屋外の正門にいたそうだ。
正門で見張りをしているのが彼らの役目だと聞いたが、
この時犠牲になった衛兵C氏だけは、敷地内のパトロールに出ていたみたいだな。
爆音は建物の中から聞こえたため、すぐに様子を見るために入り口へ向かったらしい。
この時、トイレから出てきたレベッカ氏とちょうど合流したと言っていたな。
その事はレベッカ氏も間違いないと証言していたから、信用できるだろう。

<デュオのアリバイ> 記録者:夏侯 淵(かこう・えん)
衛兵のデュオ氏も、事件発生時のずっと前から屋外の正門にいたそうだ。
やはり正門で見張りをしていたようで、透氏とは爆音があがるまで常に一緒だったらしい。
ただ、爆音があがった後も正門の守りがゼロになるのはまずいと考え、
デュオ氏だけは正門に残り、透氏が建物内の様子を見に向かったという。
つまり、彼は唯一まったく動いておらず、正門の見張りだけに徹していたということだな。

<その後の動向> 記録者:夏侯 淵(かこう・えん)
廊下で爆発の余波を感じ、トマス氏はしばらく立ち尽くしていたようだ。
そこで、偉い人ルームから恐る恐る出てきたアメリー氏と合流したらしいな。
レベッカ氏と透氏は入り口横の簡易トイレ前で合流すると、共に建物の中へ入った。
2人はすぐ大部屋へ入ろうとしたのだが、南側ゲートは緊急遮断されていて開かなかったのだ。
なぜ遮断されているのかと戸惑っていると、大部屋の中でガラスの割れる音と、悲鳴のような声があがったらしい。
慌てて2人は北側に回りこんだが、同じく緊急遮断されている北側ゲート前で、
立ち往生していたトマス氏とアメリー氏に合流したようだぞ。
4人は合流した後、ただならぬ様子を感じてセキュリティスイッチを押しこんだ。
だが、セキュリティスイッチは何の反応も示さなかったようで、
皆が混乱する中、アメリー氏が屋外からシャッターを開けて入る方法を示したそうだ。
それに則り4人は屋外へと出て、予定通りシャッターを開閉装置で開こうとする。
この時、正門で見張っていたデュオがこちらに気づいて合流し、5人になった。
そしてようやく開いたシャッターの向こうには、
既に研究員8人分の死体と、壊されたライザーワームの機構があった……。
ここでトマス氏が携帯電話を取り出し、教導団に通報したそうだ。