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学生たちの休日10

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ヴァイシャリーのヌオーヴォ・アンノ

 
 
「さてと、大掃除も終わったし。やっと一息かな。まあ、今年は激動の年だったからね」
「本当にそうだったね」
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)の別荘の掃除を終え、一息ついた嘉月兔 ネヴィア(かげつと・ねう゛ぃあ)に、フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネ(ふぉすきーあせっか・ぼっかでぃれおーね)がうなずきました。
「あ、アノね、地球の日本ッて所では鐘をついたりするんデスって」
 ちょっと唐突に、フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネが、地球の話題を嘉月兔ネヴィアに振ってみました。
 実は、雷霆リナリエッタの持つ写真の一つに嘉月兔ネヴィアそっくりの人を見つけて以来、ずっと疑問が消えないでいました。
 写真の男は誰なのでしょうか。雷霆リナリエッタはなぜ、嘉月兔ネヴィアを毛嫌いしているのでしょうか。それは、二人が似ているせいなのでしょうか。いや、それ以前に、二人は本当に別人なのでしょうか。仮に、もし同一人物だとして、なんでそれを明らかにしないのでしょうか。
 手がかりとしては、写真は地球で撮られた物だと言うことだけでした。嘉月兔ネヴィアは、ずっと地球に行ったことがないと言い張っています。もし、それが崩れさえすれば、二人は同じ人物である可能性が高いというわけです。
 とはいえ、それが分かったからどうだというわけでもありません。ただ、気になると言うだけです。
「へーえ、初めて聞いたよ。地球というのは面白い所なんだね」
「ソウね、来年は、地球に行けるといいわネ」
 そう答えるのが、フォスキーアセッカ・ボッカディレオーネには精一杯でした。
 
    ★    ★    ★
 
 すり……。すり……。
 音にもならない微かな音が、硯の上でこすられる墨から発せられていました。
 晴れ着を着た白峰 澄香(しらみね・すみか)と紋付き袴を着たキールメス・テオライネ(きーるめす・ておらいね)が、静かに条幅の前で墨をすっています。
 墨独特の香りが、一摺りごとに広がっていきます。透明だった水は黒くなり、微かな粘りを生じて、墨汁へと変化していきました。
「こうやって、墨を摺って墨汁を作るのよ。墨汁が跳ねたりすると大変だから、あまり力を入れないで、ゆっくりと確実に前後に動かしてね」
「こんな感じか?」
 ちょっとおっかなびっくり、あまり力を入れすぎないようにして、キールメス・テオライネが墨を摺っていきました。
「次に、筆に墨をつけます。最初は固いけれど、無理にほぐそうとすると筆が傷むから、ゆっくりと墨を吸い込ませてから歩の半分ほどぐらいまでを柔らかくしてね」
「む、難しい……」
 どばーあっとやっちゃいけないのかと、キールメス・テオライネが言いましたが、即行で白峰澄香に却下されました。
 まずは、精神集中です。
「はい、じゃあ、いよいよ、書きます。好きな文字を書いていいですからね。筆は横に寝かさないで、立てるようにして書くんですよ。すーっと筆先を入れて、ちょっと力を入れたら、適度に力を抜いて、最後近くでまたちょっと力を入れてから、すっと離します」
「ふーん」
 とにかく、言われるままに、条幅に文字を書いていきます。
 キールメス・テオライネは『道』と書きました。
「そう、道。人の一生は、重荷を背負うて遠き道を云々……って誰かが言ってた覚えがあるからな。まあ、年の初めに書くようなことではないがそれもまた道なんだろう」
 キールメス・テオライネが、説明します。
「で、澄香はなんでそれなんだ?」
 キールメス・テオライネが、白峰澄香が書いた『経験』と言う文字を見て訊ねました。
「今年は、いろいろと経験してみようかと」
「ふーん」
 いったい何の経験なんだろうかと、ちょっとキールメス・テオライネが考え込みました。
 ともあれ、できあがった書き初めを壁に飾って、今年の二人の指針にしました。